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本編

友兄……俺を……?

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「……理玖……」

 颯の声が少し変わった。
 呆れたような……を通り越して、同情しているような、なんとも言えない声。

「僕、はじめてお兄さんに同情してるよ……」
「颯、わかるのかよ」

 直接聞いてた俺がわからないのに。

「わかるも何も……、お兄さんが言っているのも、僕がさっき言ったのも同じことだから」
「そうなの?」
「そうだよ」
「じゃ、教えて」
「自分で考えればいいのにさ」
「考えても考えてもわからないから聞いてんのに」

 口を尖らせていると颯は盛大なため息をつく。
 眼鏡がキラリと光って、口元に意地悪な笑みが浮かんだ。
 …こいつがこういう顔をするときは、大概よくないことを企んでいる時なんだけど。

「じゃあ、理玖のために特別に教えてあげるよ。そんな大したことじゃないからさ」
「ほんとか?」

 颯の言葉に体を起こした。
 颯は内緒話しでもするように俺の耳元に手をあててきた。…そんなに周りに聞かれちゃ駄目な話しなんだろうか。

「それは」
「うん」
「お兄さんが理玖のことを『抱きたい』って思ってるってことだよ」
「だ………っ!?」

 思わず叫びそうになって両手で口を押えた。

「流石にその意味はわかるよな?」

 わかる。そこまではっきり言われれば、俺にもわかるっ。
 だから、やばい。顔が、めちゃくちゃ熱くて、ドキドキが強くなってしまって……本気で、やばい。
 颯はコクコク頷く俺から離れて、向かいの椅子に座りなおした。

「ま、そういうこと」

 ごく普通の会話をしたかのように、淡々と残りのコーヒーを飲む颯。
 けど、俺はもう弁当を食べれるような気分じゃなくて。

「やりかたまでレクチャーする気はないけどね。まあ、僕が教えなくてもお兄さんがそのうち教えてくれるんじゃないのかなぁ」

 颯はしれっとそんなとんでもないことを口にする。
 俺は………、もう心臓が口から飛び出しそうなほど、で。
 頭の中はそればっかりがぐるぐる回っていた。

 ……そうだよ。
 友兄、言ってたじゃん。処理してた、って。
 その言葉の意味はわかったのに、どうして他のことに気づけなかったの、俺。
 友兄のとこに泊まって、友兄と同じベッドで眠ればいい……って思ってたけど、ただの兄弟じゃなくて、今は恋人なわけで。恋人と同じベッドで眠る……ってことは、そういうことになってもおかしくないわけで。

「あー……うー……」

 どうしよう。
 考えなしでごめん……友兄。

 そういうの、考えたこともなかった。
 男女のやり方は流石に知っているけど、男同士……って、どうするんだろう。……俺、調べておいた方がいいのかな。
 友兄……ほんとに俺のこと、抱きたいって思っているのかな……?



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