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本編
友兄のあんな表情……見たことない
しおりを挟む絶句した。
なんでこいつ、知ってるんだろう。
「……なんで」
「ずっと言ってたじゃん。『恋人同士みたいだね』ってさ。まあ、反応が薄かったから自覚してないんだなとは思っていたけど。ただのブラコンじゃ、あそこまで吉川さんに攻撃的になったりしないでしょ」
そう言われて一気に力が抜けた。
「……俺、気付いたの金曜日の夕方だったんだけど」
「それはまた……。で?告白して振られた?」
「……そんなこと言えるわけないじゃん……。友兄は俺のこと大事な弟としか思ってないんだから」
兄弟で男の俺を、そんな風に見てくれるわけがない。
「大事な弟……ねぇ…」
「なんだよ」
「いや……。それなら、これからどうするつもり?」
「どうするも何も……」
「いっそ、すっぱりきっぱり諦めて、新しい恋をはじめてみるってのはどう?」
「は?」
「目の前に、いるでしょ。幼馴染で理玖のことをよく理解してる人物が、さ」
「それって……」
颯のこと――――って確認する前に、あろうことか押し倒された。
「ちょっ」
「僕なら、理玖をこんなに悲しませるようなこと、しないよ」
「だからって……なんでお前とっ」
颯の視線が、ちらっと後ろに向いた。
けれど、それも一瞬。
「そんなに、好き?」
試すような言い方に、カチンときた。
「好きだよ!好きになっちゃったんだよ!!」
その勢いのまま、ほとんど叫ぶように口に出す。
「こんなのおかしいってわかってるけど……でもっ」
両手が抑えつけられた。
こいつ、こんなに力あったっけ?
「僕も、そんな理玖が好きだよ」
……って、颯の顔が近づく。
「ちょ…っ」
唇の端に息がかかるほどに、近くに。
なんとか体を押しのけようと首を動かしたりなんだりしているとき、目に、入ってきた光景。
「――――っ!!」
薄く開いた扉の向こうに、友兄がいた。
表現できない表情で、俺と目が合うとすぐに顔を背けて……いなくなった。
「友兄……っ」
力の緩くなった颯の腕を振り切って、大急ぎで廊下に出た。
…けれど、姿は見えなくて。
「……殴られるくらいは覚悟してたんだけどな」
「颯、お前知ってて……っ!!」
「何事にもきっかけは必要なんだよ、理玖。ま、僕が理玖のことを好きだって言うのは嘘じゃないから、本気でお兄さんのこと諦めたくなったらいつでも声かけてよ」
きっかけってなんなんだよ。
あんな表情……見たことがない。
悲しさと、怒りと、動揺を、全部足したような、そんな、顔。
結局、居間にむかったときにはもう友兄は帰ってしまった後だった。
いくら電話をしてもつながらない。
長い呼び出し音が続くばかり。
俺は本当に……友兄に嫌われてしまった。
それから毎日のように電話をかけ続けたけれど、友兄は一度も出てくれることがなかった。
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