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本編
友兄を紹介してって言われた
しおりを挟む「吉川さん…何かあった?」
声をかけてきた吉川さんは同じクラスの女子で、それほど親しいわけじゃない。まあ、挨拶は普通にするくらいの、本当にごくごく普通のクラスメイトなわけだけど。
「あのね、矢坂くんにお兄さんいるよね!?」
「……いるけど」
そう答えたら吉川さんの顔がもっと嬉しそうになる。
「やっぱり!?お姉ちゃんが同じ大学で写真見せてもらったの。……それでね、今度紹介――――」
「駄目」
全部聞かなくてもわかる。
「格好いいからとかそんな理由で忙しい友兄の手を煩わせるわけにいかないから」
ああ、声が冷たいな、とか。
「で、でも…、本当に時間があるときでいいから…」
正直、うるさいと思った。
女の人には優しくしろ、とか。
そう思ってるしいつも実行している(はずだ)けど、友兄のことが絡むとそんな気遣いはできなくなる。
吉川さんは可愛い部類に入ると思うし普段からも好感がもてる人だけど、このことに関しては別。
「無理だよ。友兄にそんな時間はないし、時間があっても友兄は会わないと思う。会うきっかけが欲しいなら、俺に頼らないで自分で努力すればいいじゃん」
「…っ」
「人のこと自分勝手に利用しようとか……ずるくない?」
「私はそんなこと…」
体の横で握り締めた手が震えてる。
「…まあまあ。そういうわけだから、諦めた方がいいよ?吉川さん。理玖、相当なブラコンだからさ。吉川さんのお姉さんにお願いした方が確実だと思うよ」
っていう颯のフォローに、キッと唇を引き締めた吉川さんは踵を返して戻っていった。
その後ろ姿を見ながら、颯がまたも盛大に溜息をつく。
「理玖…」
「なに」
「あれじゃ吉川さんが可哀そうだよ」
「関係ないし」
なんか、イライラする。
「ほんと…理玖ってお兄さんのことになると人が変わるよね。まあ、前からだけどさ」
「……友兄は俺のだよ」
「はいはい」
颯は軽くあしらう。
…これも、思い返せばいつものことだ。
「……だってさ、都合よすぎじゃん。自分で何の努力もしないで見た目が気に入っただけで知り合いになりたい、とか」
「きっかけはどんなところからでも手にいれたいと思うのが、恋する乙女の心情じゃないの?」
「知らない。そんなの」
友兄は俺だけのものなのに。
俺だけの、兄ちゃんなのに。
他人が触れるなんて、許せない。
「それにしても……、ブラコンってところには全くなんの反応もしないんだね、理玖」
「へ?」
颯が面白そうに笑う。
「……だってお前いつも言ってるし」
それなりに、自覚してるし。
…折角、昨日久しぶりに友兄に会えて嬉しくて気分よかったのに。
「………会いたい」
呟いてしまった声は颯には聞こえなかったようで。
なんとなく、空を見た。
次は、いつ会えるんだろう。
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