88 / 89
本編
友兄は俺のだいすきな人
しおりを挟む家の中がごたごたしていた。
一人暮らしとは言いつつも、二家庭分の引っ越しを一遍にするというのは、中々大変なことらしい。
父さんは三十日からお休みで、引っ越しはその三十日だから、朝からてんやわんやだ。
そしてその日の午後、父さんと母さんが北海道行の飛行機に乗るから見送りにでる。
一週間後くらいに俺と友兄も一度北海道に行くことになってる。受験前の小旅行だ!
「クリスマスは帰ってこれないけど、年末年始にはちゃんと帰ってくるから。理玖、友君の言うことちゃんと聞いて、家事も手伝わなきゃだめよ」
「わかってるよ」
朝から何度か言われたことを繰り返し言われた。
「そろそろ時間だね」
「それじゃあ、連絡するから」
「何かあったらすぐ連絡よこしなさいね」
「うん。いってらっしゃい」
「行ってきます」
にこにこな両親が奥に進んでいって姿が見えなくなる。
それから友兄と二人、飛行機が飛び立つのが見える屋上に向かった。
「……やっぱり母さんと父さんがいないと、ちょっと寂しい」
「そうだね」
時間になって、飛び立っていく飛行機に、なんとなく手を振った。見えるわけがないんだけど。
「でも、友兄とずっと一緒にいられるのは嬉しい」
「俺もだよ」
一週間後には俺たちも北海道に行くけど。
「……それじゃ、理玖」
「なに?」
「デートして帰ろうか?」
「うん!」
家の中はまだまだちらかっているけど、夏休みだし、また明日やればいい。
今は友兄と二人の時間を楽しむんだ!
「服、買おうか」
「なんで?」
手を繋いだ。
人目はあるけど、別にいい。俺たち兄弟だし。
「俺が理玖に服を、プレゼントしたいだけ」
「……そう?」
「そう」
笑った友兄が、俺の耳元に口を寄せてきた。
「…その後その服を脱がせるのも楽しいから」
いくら小声にしたからって、公衆の面前で何を言いますか…!!
「よく言うでしょう?服を贈るのは、脱がせるためだって」
「そんなの知らないっ」
脱がせるくらいなら贈るなとか言いたい!!
「脱がせるのなしで、でも、デートは行く!」
そう宣言して友兄の手を握った。
友兄はずっと笑ったまま。
これから暫くの間……二人で暮らすんだ。
握った手に、ぎゅ…って力を込めた。
「理玖?」
「友兄…あのさ」
「ん」
「好きだよ」
嬉しそうな笑顔。
「すごく……大好きだから」
「俺も、愛してるよ。理玖だけを」
もう片方の手も、握った。
向き合ったまま友兄の顔が近付いてくる。
そのまま…、キスをしていた。
人目があるとかないとか、そんなこと全然、気にならなかった。
まるで、誓いのキスのようで。
幸せで、嬉しくて、嬉しくて。
傍にいたい。傍にいてほしい。
たった一人、全部、全部、――――だいすきな、人。
(おわり)
*****
最後までお付き合いありがとうございました^^
応援ありがとうございます!
12
お気に入りに追加
772
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる