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本編

友兄は俺のだいすきな人

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 家の中がごたごたしていた。
 一人暮らしとは言いつつも、二家庭分の引っ越しを一遍にするというのは、中々大変なことらしい。
 父さんは三十日からお休みで、引っ越しはその三十日だから、朝からてんやわんやだ。

 そしてその日の午後、父さんと母さんが北海道行の飛行機に乗るから見送りにでる。
 一週間後くらいに俺と友兄も一度北海道に行くことになってる。受験前の小旅行だ!

「クリスマスは帰ってこれないけど、年末年始にはちゃんと帰ってくるから。理玖、友君の言うことちゃんと聞いて、家事も手伝わなきゃだめよ」
「わかってるよ」

 朝から何度か言われたことを繰り返し言われた。

「そろそろ時間だね」
「それじゃあ、連絡するから」
「何かあったらすぐ連絡よこしなさいね」
「うん。いってらっしゃい」
「行ってきます」

 にこにこな両親が奥に進んでいって姿が見えなくなる。
 それから友兄と二人、飛行機が飛び立つのが見える屋上に向かった。

「……やっぱり母さんと父さんがいないと、ちょっと寂しい」
「そうだね」

 時間になって、飛び立っていく飛行機に、なんとなく手を振った。見えるわけがないんだけど。

「でも、友兄とずっと一緒にいられるのは嬉しい」
「俺もだよ」

 一週間後には俺たちも北海道に行くけど。

「……それじゃ、理玖」
「なに?」
「デートして帰ろうか?」
「うん!」

 家の中はまだまだちらかっているけど、夏休みだし、また明日やればいい。
 今は友兄と二人の時間を楽しむんだ!

「服、買おうか」
「なんで?」

 手を繋いだ。
 人目はあるけど、別にいい。俺たち兄弟だし。

「俺が理玖に服を、プレゼントしたいだけ」
「……そう?」
「そう」

 笑った友兄が、俺の耳元に口を寄せてきた。

「…その後その服を脱がせるのも楽しいから」

 いくら小声にしたからって、公衆の面前で何を言いますか…!!

「よく言うでしょう?服を贈るのは、脱がせるためだって」
「そんなの知らないっ」

 脱がせるくらいなら贈るなとか言いたい!!

「脱がせるのなしで、でも、デートは行く!」

 そう宣言して友兄の手を握った。
 友兄はずっと笑ったまま。
 これから暫くの間……二人で暮らすんだ。
 握った手に、ぎゅ…って力を込めた。

「理玖?」
「友兄…あのさ」
「ん」
「好きだよ」

 嬉しそうな笑顔。

「すごく……大好きだから」
「俺も、愛してるよ。理玖だけを」

 もう片方の手も、握った。
 向き合ったまま友兄の顔が近付いてくる。
 そのまま…、キスをしていた。
 人目があるとかないとか、そんなこと全然、気にならなかった。
 まるで、誓いのキスのようで。
 幸せで、嬉しくて、嬉しくて。
 傍にいたい。傍にいてほしい。
 たった一人、全部、全部、――――だいすきな、人。





(おわり)












*****
最後までお付き合いありがとうございました^^
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