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本編
友兄が傷ついてる姿は本物に見える
しおりを挟む友兄は急いでスマホを取り出して着信相手を確認した後、眉間に皺をよせながらボタンを押した。
「美鈴、一体どこから――――」
って友兄の声に、父さんも母さんも、はっとしたように顔をあげた。
「みんな心配して……っ」
友兄が言葉を切った。
眉間に皺を寄せたまま目を閉じる。それは、なんだか、すごく悲しそうな、つらそうなものだった。
「……」
そして少ししてスマホを耳から離した友兄は、暫く携帯を握ったまま俯いた顔を上げなかった。
誰も何も言えない時間は、酷く長く感じた。
多分、数分、いや、もしかしたら数秒後。
友兄は溜息を一つついて顔をあげて父さんと母さんを見る。
「美鈴さんからだったのか」
「はい。事件に巻き込まれたとかいうことではないようだけど…」
「美鈴さんは……なんて?」
「ただ……『ごめんなさい』を繰り返していて。……もう家には戻らない、と」
父さんと母さんの溜息が重なった。今、何を考えているんだろう。
「……そうか。友敬、あまり気を落とすんじゃないぞ」
「……はい」
「そうだわ。友君、今日は帰らないで泊っていきなさいね」
母さんの決定に、友兄は苦笑する。
「……はい」
友兄はつらそうに頷いた。
無理やりつくってるように見える笑顔に……、なんだか、胸が痛くなる。
「理玖の部屋に行っていてもいいですか?」
「そうね。……理玖もちゃんと連れて行ってね。まだ顔色よくないんだから、ベッドに寝かして頂戴」
「はい」
……なんか、俺、すごい子供扱いなんですけど……。
それでも拒絶する理由がないから、頷いて部屋にむかった。
俺は何も状況がわかっていないけど、美鈴さんのこれは、いくらなんで酷いと思う。
「友兄…」
部屋に入ってから、友兄を抱き締めた。
「……理玖」
掠れて、震えた声。
「…泣いてもいいんだよ?」
友兄が泣いてる姿は見たことがない。
顔を歪めて何かを必死に堪えている様子だけなのに。
「…泣いたら、きっと、楽になるよ」
俺も同じだったかもしれない。
「理玖」
友兄が俺を抱き締めた。
その腕は少し震えている。
「理玖………理玖……」
俺の肩口に顔をうずめる友兄の背中をなでて、髪に触れた。
颯と二人で出した結論は、間違ってはいないと思う。けど、こんなふうに。傷ついて見える友兄も……嘘じゃないように思える。
……本当に俺は友兄を失っていないんだろうか……?
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