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本編

友兄に伝えられた父さんからのまさかの提案

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「友敬、次の土曜日は仕事入っていないか?」

 食事中、父さんが珍しくそんなことを言った。
 友兄もほんの少し驚いたようで箸が止まったけれど、すぐにまた動き出す。

「仕事は入ってないけど、理玖と出かける予定」

 ごくごく普通に言われて飲んでいた味噌汁に盛大にむせてしまった。

「理玖、大丈夫?」
「ご、ごめん、大丈夫」

 母さんが驚いて俺の背中を叩いてくれた。
 ちらっと見たら友兄は口元だけで笑っていた。
 そりゃ、こんなふうにうろたえる必要はないんだろうけど、だけどびっくりするというか、なんというか……とにかく心臓に悪い。

「ああ、それなら少し時間を空けてもらってもいいかな、理玖?」
「え?」
「父さん?」
「友敬に会ってもらいたい人がいるんだ」
「俺に?」

 友兄に会ってもらいたい人…って。
 …なんか、微妙に、胸がチクチクする。

「断ってください」

 即答に、ほっとした。
 父さんは友兄の答えがわかっていたのか、苦笑してる。

「大体、俺はまだ学生です。見合いなんて必要ないと思いますが」

 改まった友兄の口調。
 ……胸がざわついた。
 父さんは「会ってもらいたい人がいる」って濁したけれど、友兄ははっきり「見合い」と言った。つまりはそういうことなんだろうけど、不安がむくむく沸き起こる。

「それはわかっているんだが、先方がどうしてもと言って譲らなくてな。相手のお譲さんは友敬より二つ年上になるんだが、思慮深くて綺麗な人らしい」
「断ってください」

 二回目の言葉はさっきよりも語彙が強かった。
 父さんはため息をつきつつ、お茶を一口飲む。

「会うだけでも会ってくれ。会ってさえくれれば断ってくれて構わない。……大体、お前には今つきあってる人はいないんだろう?なら、何も問題ないじゃないか」
「そうよ友君。一度お会いしてみたらいいじゃない。何もお会いしてすぐに婚約しろ!って言われてるわけじゃないし」

 ……どう考えたって、むこうは友兄を気に入るじゃないか。気に入らない方がおかしい。
 胸が痛い。
 心臓が、どくどくする。

「理玖も、いいな?友敬と出かけるのはその後にすればいいし、軍資金も出すから。な?」

 困ったように俺に矛先を向けてきた父さんに、どうして俺が「駄目だ」なんて言えるだろう。

「……うん、俺はいいよ」
「理玖?」

 友兄の声が遠い。
 俺と友兄が恋人同士だなんて言えるわけがないし、友兄だって断り続ける理由がない。
 友兄が相手のことを受け入れるとは思わない。……けど、不安はある。

「俺との予定はちょっとずれてもいいから」
「……」

 泣かないようにするのに必死だった。
 本音が言えないっていうのは、こんなにつらいことなんだ。

「……わかりました」

 ため息と一緒に友兄が頷いた。

「お会いするだけなら。昼食にしてください。午後からは理玖と出かけますから」
「ああ。先方にも伝えておくよ。ありがとう、友敬、理玖」

 父さんもほっとしたような顔をする。
 その後、俺は中々食事が喉を通らなくなった。
 頭の中は、真っ白になっていて、とにかく、早く、部屋に戻りたかった。



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