幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

文字の大きさ
上 下
175 / 247
幼馴染み二人と僕の15歳の試練

82 僕が神殿を出る日の前夜

しおりを挟む



 僕が高位神官になって季節が巡って。
 時々運ばれてくる不慮の事故に遭った人たちの癒やしをしながら、癒やしが万能ではないし、完璧なものでもないっていう神殿長さんの言葉を思い出しては唇を噛んだ。
 死んだ人を蘇らせたり、死を止めることができたり、そんなことだけを指す言葉じゃなかった。
 小さな傷跡でさえ、微かな跡が残る。
 大きな怪我であればあるほど、癒やしの効果は薄くなるし、何度もかけ続ける必要が出てくる。それに、傷跡もひどくて。赤く盛り上がった皮膚はそれ以上治らない。痛みは良くなるし、怪我としては治っているのだけど、それが僕達神官ができる限界なんだ。
 当然、千切れた手足が元のようにくっつくことはないし、千切れかけた手足がくっつくこともない。

 ……だから、僕が二人を癒やしたときのことが、本当に『奇跡』だったと言われて納得する。
 本来ならありえない癒し。
 あれ以来、僕がそんな神官の域を超えるような癒やしをかけれたことはない。
 神殿長さんやディーリッヒさんたちと変わらない癒し。ほんのちょっとだけ、傷の治りがいいらしい、程度の。

 人で在り続けなさい、って意味もわからないまま。
 僕は至って普通。
 とっても普通。

「ん……と」

 秋の二の月に入って、僕達の家が完成した。
 引っ越しの準備とか家具の手配とかで色々忙しくて、三人で相談して今月の一の日は会わないことにした。
 そして今日は二十の日。明日は僕が十六歳になる日。明日、僕は神殿を出る。

「荷物……は、明日ディーとエルが手伝ってくれるから……」

 このお部屋に引っ越したときから、そんなに荷物が増えたわけじゃないけど、あのときだって結局僕一人じゃ何もできなかったんだよね。
 みんな手伝ってくれて、神殿長さんまで荷物を運んでくれて。

「僕成長してないや」

 どこから手を付けていいのかわからない。えへ。
 色々諦めた頃に、キリルくんが部屋に来た。

「ラルフィン――――って、全然片付いてないじゃん」
「んー、やっぱり僕苦手で」
「神官位があがってもやっぱりラルフィンはラルフィンなのな。なんか安心したわ」
「むぅ」
「拗ねるなよ。それより、ほら、夕飯行こうぜ」
「うん」

 皆と食べる夕飯、これで最後だもんね。
 キリルくんと一緒に食堂に向かう。
 不思議と誰にも会わない。

「?」
「どうした?」
「なんで誰もいないの?」
「いるって」
「どこに?」
「ここに」

 ……って、キリルくんが食堂の扉を開けたら、中にいっぱい人がいた。

「ほわ」
「ラルフィンのお別れ会な、一応」
「えええ」

 ほんとにみんないた。
 今の見習いさんたちも、いつもあまり同席しない神殿長さんも。
 しかも、しかも!

「プリン!」

 ほんとにほんとに時々しか貰えないプリンが、たくさんある!
 嬉しい!!

「……色気より食い気」
「ラルフィンに色気を求めるのは無理だろ」
「でも恋人さんがいるんですよ~。格好いい男の子二人も!」
「未だに信じられない…」

 なんか色々言われてる気がするけど、気にしなーい。

「あ、こら、プリンよりご飯先に――――」
「いただきまーす!」

 キリルくんの注意も何のその。
 もうプリンを食べ始めたもんね!だから僕の勝ち!

 最後の夕食。みんなで楽しく過ごした。
 うん、本当に楽しかった!


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!

紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。 全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。 まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪ ……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか? そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ) 第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞 2019年4月に書籍発売予定です。 俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。 そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。 貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。 まぁ仕方ないよね。 しかし、話はそれで終わらなかった。 冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。 どうしたんだよ、お前ら……。 そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...