幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

文字の大きさ
上 下
167 / 247
幼馴染み二人と僕の15歳の試練

74 どうして/D

しおりを挟む



 西町の門が魔物に破られた。
 幸い、西町の冒険者は精鋭揃いだ。
 賑わう街だから避難も大変だが、討伐にそれほど時間はかからないと思っていた。

 ――――だが、思っていた以上の数の魔物と魔獣が一気に町になだれ込み、逃げ惑う住人をその毒牙にかけた。

 俺とエルは魔物殲滅の前衛から、逃げ遅れている住民の誘導に回された。討ち漏れ、町の奥まで入り込んだ魔物を倒しながら、住民たちが神殿や城に近い所まで逃げられるように庇いながら、魔物たちと応戦していた。

 余裕さえあると思っていた。
 だが、襲ってくる魔物の数がおかしい。
 そして、強さが一段階上のように感じる。
 左腕に鋭い一撃を食らってから、事の異常さを思い知った。






 驕っていたわけじゃない。
 依頼を片しながら、腕を磨こうと毎日鍛錬は欠かさずしていた。
 同じ冒険者達を下に見たこともないし、誘われれば模擬戦もしていた。
 冒険者として経験を積み上げていく中で、魔物を軽く見ていたつもりもない。いつも全力で挑まなければ、こちらの命を持ってかれることをよくわかっているから。

 ――――なのに。

「――――!!!」

 魔物の爪が腹を大きく抉った。
 込み上げてくる吐き気。口から溢れるのは鮮血だ。

 嘘だろ。

 なんで、こうなった?

 目の前には興奮し、目を血走らせた魔物。
 何度も対峙したことのある魔物なのに。

 なんで。

 どうして。

 俺の背後には逃げ遅れた住人。
 子供を抱えた母親。
 今すぐ後退しなければならない。この怪我はやばい。だが、この場を離れれば、俺の後ろにいる住民は、間違いなく死ぬ。

 剣がこれほど重いと感じたことはなかった。
 左腕はもう動かない。
 出血のしすぎか、視界が揺れる。

 エル。
 エルはどこだ。
 俺と同じように住民をかばってた。
 魔法もいくつか飛んでいた。
 定まらない視界で辺りを見回した。
 視界の隅に赤く濡れた銀色の髪を見た。
 血溜まりの中に立っていた。
 その顔は蒼白で、だらりと下がった両腕は、千切れかかっているのか使い物にならない。

 ふと、エルがこちらを見た。
 俺と視線が合うと、生気のない顔で笑った。
 その口が、僅かに動く。




『フィー』




 たった、それだけ。
 言いたいことはわかったよ。
 俺たちはこんなところで死ねないから。
 フィーを一人にできないから。

 死なない。

 死なない。

 死なない。




 死にたくない。




「あ゛、あ゛……!!!」

 楽観視したわけじゃない。

 油断したわけじゃない。

 なのに、なぜ俺は、魔物の攻撃を剣で防げない?
 足に噛みつかれ、骨が砕ける音がした。

 ……もう、痛みなど、何もない。

 何も、感じない。





 どさりと倒れる音がした。

 血溜まりの中にエルが倒れていた。

 その背を魔獣の太い足が押さえつけ、血が混じった涎を垂らしながら、魔獣はエルの首元に牙を向ける。
 だめだ。
 エルが殺される。
 助けに行かなきゃだめだ。
 こんなに傷だらけになって、フィーに怒られる。




 ………ああ、フィー。

 フィーに会いたい。

 フィー。

 俺たちの最愛。

 泣くだろうか。

 あの大きな瞳いっぱいに涙をためて。

 フィー。

 フィー。




 剣が手から離れた。
 魔物の牙が俺の眼前に迫る。
 目を閉じた。
 瞼の裏に、優しいフィーの笑顔が浮かぶ。







 ごめんな、フィー。

 一人にして。

 せめて最後に触れたかった。

 フィーの腕の中で逝きたかった。





 体に衝撃を受けるのを感じながら、俺の意識は闇に落ちた。



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!

紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。 全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。 まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪ ……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか? そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ) 第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞 2019年4月に書籍発売予定です。 俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。 そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。 貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。 まぁ仕方ないよね。 しかし、話はそれで終わらなかった。 冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。 どうしたんだよ、お前ら……。 そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。

処理中です...