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幼馴染み二人と僕の15歳の試練
73 襲撃の後
しおりを挟む神殿には、礼拝堂と宿舎の他に、遺体を安置する部屋とか救護室がある。
救護室は、怪我の癒やしをしたあとの人が休むための部屋。
一度の癒やしで治せないほどの怪我とか、その後も療養が必要な人のために用意されてる部屋だ。
春の日差しが暖かくて気持ちがいいから、窓を開けた。
爽やかな春の風が入ってきて、僕の髪をゆらしてく。
「寒くない?」
「……」
ディーが、頭を軽く振った。
「エルは?……あ、寝てる」
僕の方を向いて、エルはもう寝てた。
「ディーも寝る?」
きいたら頷くから、二人のベッドの間に置いた椅子に腰掛けて、僕は二人の手を握った。
ディーは少し微笑むと、手に力を込めて目を閉じる。
僕も目を閉じて、心のなかで祈りを繰り返す。
僕達を包み込むように、柔らかな光が生まれていった。
魔物の襲撃があったあの日。
ディーとエルは住民の人を庇って守って、取り返しのつかない怪我を負った。
神殿に運ばれてきたときには、もう手の施しようがないほどで、せめて苦しくならないように祈りながら逝くのを見守るしかできない状態だったらしい。
でも僕は、それを認めることができなくて。
願って、願って、願って、二人の命を繋ぎとめた。
それはありえない奇跡だって言われた。
僕が癒やしの力を使っているとき、僕の背中に光の翼を見た、って、神殿長さんとディーリッヒさんから言われたけれど、僕にはなんのことかわからなかった。
ただ、二人を助けたくて必死で使った癒やしの力は、礼拝堂の中に満遍なく降り注いだらしい。
ごめんね。
僕、他の人のことなんて、何にも考えられなかったのに。
毒に穢された人たちは毒が浄化されて、癒やし途中の人や癒やしを待っていた人、軽い怪我の人は、怪我が綺麗に癒やされていたらしい。
僕が癒やし終えた頃、西町での戦闘も終わった。
結果から言えば、前回の襲撃時よりも、亡くなった人も、怪我を負った人も多かった。
栄えていた町だから、犠牲者が増えたらしい。
ディーとエルの怪我は、薄っすらと痕を残すくらいまで癒せた。
けど、大量の血を失ってしまったことで、すぐに起き上がることはできなかった。
だから、あの日から、神殿の救護室で休んでる。
あれから五日。
僕は本来の仕事は何もせず、ただずっと二人についていた。
部屋にも戻らない。
二人のご飯を運んで、食べさせて、身体を拭いて、着替えさせて、よく眠ってもらって、あいた時間は、ずっと癒やしをかけ続ける。
穏やかな寝息を聞いて、身体から力が抜けていく。
二人の手はあたたかい。
千切れかけていたらしい手足には、その名残はない。
「……ねぇ」
この手を離したくない。
「……僕、癒やしを使えるようになったよ」
僕の誕生日まで、あと半年くらい。
僕、ここに居なきゃだめなのかな。
二人の傍にいたら駄目なのかな。
「離れるの……怖い」
あんな思い、したくない、よ。
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