幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

文字の大きさ
上 下
163 / 247
幼馴染み二人と僕の15歳の試練

70 西町には二人が

しおりを挟む



 怪我をした人や毒に侵される人が多い。
 礼拝堂の中は色々な匂いや声で酷く混乱してた。
 毒を持った魔物が含まれていることで、前回の襲撃のときより運ばれてくる人が多い。住民の人たちばかりじゃない。防具を身に着けた――――多分冒険者の人とか、お城の兵士さんらしき人も運ばれてくる。
 毒は対処できないんだ。
 殿下も出てるだろうけど、浄化をしてる余裕もないってことだ。

「……なあ、いつもこんなに酷いのか……?」

 浄化を終えたキリルくんが、兵士さんの腕に包帯を巻きながら話しかけてきた。

「いつも……っていうか、僕もこれで二回目だけど……」

 改めて見渡す。
 助かる人ばかりじゃないから、真っ白な布をかけられた亡くなってしまった方もいる。
 悲鳴も。
 嗚咽も。
 それから、感情が。流れ込んでくる。

「……運ばれてくる人は、前回のときより多い、かな。多分、西町だから……」
「西町だと何が違うんだ?」
「えと……、大きな冒険者宿があって、冒険者の人が多いから、商人の人も多くて、治安がいいから住人の人も多くて……」

 僕が毎月出かけてる西町は、すごく活気に溢れてた。
 お店が一杯で、人がたくさんで。
 門の近くにも、お店が広がってたはず。

「ラルフィン」

 その西町が襲われたなら、ディーとエルはすぐに駆けつけたはず。王都から離れるって連絡もらってないし。
 今のところ、毒を受けて運ばれてくる冒険者らしき人の中に、暁亭でみかけた人たちはいない。
 けど、もしかしたら。

「ラルフィン」

 頭を撫でられて、気付いた。
 キリルくんが心配そうな顔をしてる。

「そっか。お前の恋人たちって」
「……ん。西町の冒険者だよ」
「……じゃあ、心配だよな。ごめんな」
「ううん。大丈夫!だって、ディーもエルも、すっごく強いから!」
「ん」

 止まってしまってた手を、また動かす。
 ディーリッヒさんと神殿長さんにお水を運んで、低位神官さんたちが座り込んできたところで、僕が祈る。
 少し、広げられるだろうか。
 西町まで。
 届けられるかな。
 使いすぎない、ギリギリで。
 お願い。
 届いて。

 前のような、遠く離れた場所にいるみんなの姿が見えることはなかったけど、祈り終えたときに胸が苦しくなって、息が途切れそうになった。

「無茶するなと言っただろっ」
「で、も」
「ラルフィンは休め。キリル!ラルフィンを隅に寄せて休ませろ」
「はいっ」

 ディーリッヒさんに怒られた。
 とっても怒られた。
 頭を撫でる手は優しかったけど。

 キリルくんに背負われて、礼拝堂の隅に移動する。
 壁に背中を預けて、キリルくんがくれたお水を飲んだ。
 少し、目を閉じる。

「大丈夫か?」
「うん」

 倒れて、二人に心配をかけるわけに行かないんだから。
 お疲れ様、って、抱きしめるんだから。

 少しの間、目を閉じて休んでた。
 本当に礼拝堂の隅っこで、入口の様子とかも見えない。
 気持ち悪さがなくなってきた頃、僅かに礼拝堂の中がざわめいた。

「ラルフィン!!」

 神殿長さんの、声。

「え」

 僕は聞いたこともないほど焦った神殿長さんの声に、びくりと身体が震えた。
 すぐに立ち上がって、少しした目眩が引くのを待った。
 神殿長さんとディーリッヒさんが、怖い顔をしてた。
 二人の傍には、白い布が敷いてある。
 その布は、遠目からでも赤く染まっていくのが見えた。

 慌てて近づいて、怪我をした人を見て、僕の時が止まった。

「………え?」

 そこに、ディーとエルがいた。
 あちこちに血がついてて、ピクリとも動かない二人が。




しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!

紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。 全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。 まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪ ……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか? そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

処理中です...