幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人と僕の15歳の試練

31 あのときの話

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「あのね、なんか、お父さんに会う夢を見たよ」
「父さん?」
「フィーの?」
「うん」
「……ユファに帰りたくなった?」
「一度帰ろうか?」

 ディーとエルは僕にくっついたまま、なんだか心配そうに聞いてくる。

「んー……、や、大丈夫?手紙出すかな。中位神官になれたこと、まだ知らせてなかったし」
「それがいいな。……フィーが目を覚ましたこと、オリバー神殿長に伝えてくる。エル、フィーのこと頼むな」
「うん。任せて」

 ディーは僕にキスをすると、すぐ部屋を出ていった。

「…僕、そんなに寝坊したの?」
「そうだね。かれこれ三日くらい?」
「え?」
「…二度と目を覚まさないんじゃないかって、私もディーも不安で……っ」

 途中から声が震え始めたエル。……こんなエル、久しぶりに見た。

「フィー……」
「ごめん……ごめんね……エル?」

 さっきよりももっと力いっぱい抱きしめられた。
 エルの体温とか重みに、なんだかすごくほっとして……泣きそうになる。

「フィー……よかった……愛してる、愛してるからね。どこにも行かないで……っ」
「行かない…行かないよ、エル」

 僕もエルを抱きしめる。
 確かめるように唇が触れてきた。
 目を閉じた僕の頬に、温かい雫が落ちてくる。
 正直、状況が全くわかんないんだけど、エルをここまで悲しませて心配させたのは、僕なわけで。
 キスを繰り返してるうちに、エルの震えは落ち着いてきた。
 恋人のキスとは違う、触れ合うだけとの穏やかなもの。
 唇が離れて、エルがまた僕をぎゅって抱きしめているとき、扉を叩く音がして、ディーが戻ってきた。神殿長さんとディーリッヒさんを連れて。

「おはよう、ラルフィン」
「あ、あの、おはようござい、ます?」

 神殿長さんはいつもの優しい笑みで僕を見て、エルがすすめた枕元の椅子に腰掛けた。

「どこか具合の悪いところはあるかい?」
「えと……ない、です」

 起き上がろうとしたら、やんわりととめられた。

「何があったか覚えているかい?」
「………え、と?」
「緊急の鐘のことは覚えてるかい?」
「緊急の……」

 ……うん。覚えてる。沢山の人が傷ついて、神官さんが癒やして。でも、次から次に怪我した人が運ばれてきて。それから、亡くなった人も、いて。

 頷いたら、神殿長さんも頷き返してくれた。

「私がラルフィンに鎮魂の祈りを任せたことは?」
「………はい。覚えてます」

 酷く悲しかった。
 突然奪われた命が悲しくて。
 亡骸の傍にいる家族も、憔悴しきってて。

「そのとき、何があったか覚えているかい?」
「えと……鎮魂の、祈り、を」
「鎮魂の祈りだけだった?あのとき何を願った?」
「……皆の、悲しみも、一緒に癒やしたい、って。心が、少しでも軽くなれば、って……」

 とても、強く願った。
 ディーとエルが、無事でありますように、って。

「……王都で起きたことは、君の恋人たちのほうが詳しいけど、ラルフィンの祈りは神殿の中だけじゃなくて王都全体に浄化の光をもたらしたんだよ」

 思わずディーとエルを見たら、真剣な表情で頷かれた。


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