122 / 247
幼馴染み二人と僕の15歳の試練
29 眠り姫/L
しおりを挟む比較的大規模な魔物の襲撃というのは、定期的とは言わなくても、年に一度~二度はあるらしい。
不思議なことに、人が大勢住んでいるここのような王都や規模の大きな街が狙われるらしい。
私達がユファにいた頃には、そんなこと知らなかった。だから、人同士の戦争ごとがなくなっても、国は兵士を手放すわけに行かないのか。
私達がエルスター王都の西町に身を寄せてからの初めての襲撃。この一年は何もなかったというのだから、それはそれで驚きだ。
店主の迅速な対応にも驚いたが、前線で指揮を取っていた、青年の手腕にも舌を巻いた。
けれど、私とディーを驚かせたのは、魔物の襲撃でも、魔物の数でも、青年の手腕でも、店主の力量でもなかった。
突然王都に降り注いだ光。それは神官が発する浄化の光だった。今まで何度も目にしたけれど、ここまでの規模のものは見たことがない。神殿で複数人で儀式的なものでもしたのかと思ったけれど、その光はフィーの腕に包まれてるかのような安堵感を私達に与えた。
私もディーも、これがフィーが引き起こしたものだと瞬時に悟った。
特に打ち合わせることなく、二人同時に神殿に駆け出し、足には風魔法をかけた。
どこまでかけても光は消えない。
あちこちから『奇跡だ』と声が聞こえたが、私にはこれが奇跡だなんて思えなかった。
私には、これが、あの子の命の輝きに見えたから。
ディーも同じような焦りを感じているはずだ。
そして、神殿についた私達が目にしたのは、ぐったりと意識を失うフィーの姿だった。
「ディー、ちょっとそっちにフィーの身体よせて」
「わかった」
ベッドの端にフィーの身体を寄せてもらって、私はシーツを取り替える。
どれほど動かしても、フィーは目覚めることはなかった。
意識を失ってから、フィーは昏々と眠り続けている。
襲撃の日から二日が経った。
昨日は王都の南町では復旧作業やなんやらで騒がしかったらしい。壊された家はすぐに元通りになるわけではないけど、すでに再建設に関しては手配がなされているのだとか。
そんなことを、神殿長から聞かされた。
私とディーは、フィーが倒れた日から、フィーの部屋で看病してる。
食事は、神官が運んでくれる。基本、私達はこの部屋を出ない。
体を拭いて、服を着替えさせ、時折お茶を口移しで飲ませ、シーツを交換して清潔を保つ。
……正直、それしかできないんだ。
身体にはなんの異常も見られない。満足な水分も取らず、ましてや、食事もしていないというのに、フィーの肌はいつもと変わらないくらいに瑞々しくてしっとりしてる。
ただただ、眠っているだけ。
キスをしても、身体に触れても。
眠ってるだけで起きないフィー。
いつ目が覚めてもいいように、私とディーは常にフィーの傍にいる。
夜になれば、二人でフィーを挟むようにベッドに横になる。
……本当に、何が起きてるんだろう。
フィー、早く目を覚まして。
綺麗な空色の瞳で、私達を見て。
3
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!
紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。
全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。
まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪
……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか?
そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……
ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります
ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。
今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。
追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。
ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。
恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!
蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ)
第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞
2019年4月に書籍発売予定です。
俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。
そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。
貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。
まぁ仕方ないよね。
しかし、話はそれで終わらなかった。
冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。
どうしたんだよ、お前ら……。
そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる