幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人と僕の15歳の試練

26 お仕事です。⑦ 『鎮魂の祈り』

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 倒れていた他の神官さんたちが復帰して、入れ替わるように神殿長さんとディーリッヒさんが倒れるように休憩に入り、また戻って癒やしに回ってしばらく経って。
 礼拝堂に差し込む太陽の光が陰りを見せ始めた頃、ようやく終わりが見えた。
 礼拝堂の中には癒やしを終えた人があちこちに座り込んでいる。その人たちとは別に、癒やしに当たっていた神官さんたちと、補助で動き回っていた神官さんたちも、ぐったりと座り込んでいた。

「怪我人は――――もう、いないな」

 神殿長さんは礼拝堂の中を見渡していたけど、その顔はとても青ざめてる。

「――――ラルフィン」
「はい」
「鎮魂の、祈りを」

 掠れた声で神殿長さんに言われて、改めて周囲を見回した。
 癒やしが終えた人のむこうに、全身に白布をかけられた人が横たわっている。その人たちの傍には、ただ呆然と座り込む家族らしき人たちがいる。みんな疲弊していて、泣き叫ぶこともできないんだ。

「――――はい」

 多分、僕が一番動ける。
 他の神官さんたちのように、あちこち動き回ってた訳じゃない。神殿長さんとディーリッヒさんの間を動いてただけだから。

 今まで、鎮魂の祈りを見たのは、二度。
 人はその人の本質のようなものを象るための、入れ物を持っている。それを、『魂』と表現する。
 魂は本質であると同時に、女神さまからの借り物。身体の、人としての命を終えるとき、その魂は役目を終えて女神さまへと還る。そして、次の身体を与えられる。
 僕たち神官は、人が亡くなったとき、還るべき魂が迷わないように祈りを捧げる。鎮魂の祈りと言われるそれは、生を受けたときの祝福と同じくらい大切な役割。
 人は、正しい道を辿れなければ、魂ごと魔物化してしまうから。迷わずに女神さまに還るための道筋を示す祈りが捧げられれば、魔物化する哀しいことは起きない。
 王都は女神さまの御力が強いから、亡くなった方がすぐに魔物化することはない。ただ、遠く離れた村や町では、その日の夜を迎えたら、魔物化する。だから、小さな村や町にも教会があって神官さんがいるんだって。この一年で、僕が学んだことだ。
 万が一、夜に亡くなったり、神官さんの祈りが受けられないときは、緊急措置で火葬する。そうすれば、魔物化を遅らせることができるから。

 僕は少し震える足を何とか動かして、亡くなった方々が横たわるその場所に進んだ。
 途中、挫けそうになる僕に、女神さまのやさしい手が絡んでくる。
 その手は、いつものように――――いや、いつもよりも、優しく、慈しむ想いに溢れてた。
 それから、温かな雫。
 胸の前でその雫を受け取るように、手のひらを並べて上に向ける。
 僕の手の中に溜まっていく光の粒。
 僕はそれを零さないように、礼拝堂の端まで歩いた。
 そして、白い布を被せられたその人達の前で跪く。
 寄り添っていた家族たちは、胡乱な瞳を僕に向けてくる。

『今、この方たちは女神さまの元へと還ります』

 手のひらで作った器を、そっと、胸から離して天に向けて差し出す。

『悲しみも、痛みも、寂しさも、涙も、女神さまの元で癒やされます』

 キラキラとした光は、だんだん手のひらから溢れ、こぼれていく。

『僅かなひととき、女神さまの御手に包まれるまでの僅かなひととき、愛する方たちへ触れることができますように』

 ふわりと。
 僕の手から溢れる光に誘われるように、横たわる人たちから白い光が浮き上がる。
 その光は傍らにいる家族の周りを
ふわふわと漂っていた。

『正しき道を通り、女神さまの御下に届きますように』

 これは、なくなった方へ捧ぐ鎮魂のための祈りだけど。
 きっと、ここだけじゃなくて、王都はもっと悲しみに包まれてるんじゃないのかな。

『悲しみも、怒りも――――』

 せめて、せめて、みんなの心が、軽くなれば。
 女神さまの光の雫は、どんどん溢れる。

『全て、女神さまのもとで、癒やされますように――――』

 ………ああ。
 ねえ、ディー、エル。
 二人も、んだね。
 次の一の日まで王都から離れないって、言ってたもんね。

『愛しき人たちが、癒やされますように――――』

 怪我、してないかな。

 クリストフ殿下。
 。……でも、疲れた様子なんて見せないんだね。だから、みんな、頑張れるんだね。

「ラルフィン」

 女神さま。
 女神さまの御手が、傷ついた人たち全てに降り注ぎますように。

 お願いします、女神さま。

「ラルフィン!!」

 微かに意識に乗る声は、慌てたディーリッヒさんの声……だったと思う。
 はっきりとはわからないまま、僕は自分の意識を手放した。




 僕が鎮魂の祈りを捧げたのとほぼ同時くらいに、魔物の襲撃を受けた王都に光の粒が降り注いでいたらしいのだけど。
 僕がそれを知るのは、もう少し、あとの話。



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