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幼馴染み二人と僕の15歳の試練
24 お仕事です。⑤ 『緊急事態』
しおりを挟む中位神官になってから、これまでやらなかったことをあれこれ教えてもらってきた。
今まで一緒についていって補佐みたいに手伝っていたことも、ディーリッヒさんに促されながら、僕自身がやってみる。
……あまり、違いはないんだけど、直接人と触れ合うことが多くなった。
日が進んで、僕が二人へのお祝いをどうしようか本格的に悩み始めた頃、それが起きた。
滅多にならない緊急の鐘。
中位・高位の神官は、今の仕事を切り上げて、礼拝堂に集まる。
低位神官と見習いさんは、礼拝堂に近づかない。
…僕も例外でなく、この一年の間、緊急の鐘が鳴ったときは普段していたお手伝いもしなくていいと言われ、部屋で待機してた。
「ラルフィン、行くよ」
「はい」
ディーリッヒさんの表情は少し硬い。
緊急の鐘って、何なんだろう。
礼拝堂に向かう神官さんたちの間に、いつもの朗らかさはない。誰も何も言わない。ピリピリした雰囲気を感じる。
中位神官さんたちは、たくさんの荷物を持っていた。
大きな白い布とか、包帯とか。
礼拝堂につながる扉を開けて中の光景を目にしたとき、僕の背中にはざわりと悪寒が走った。
「いたい……いたいよ……おかあさん…おとうさん……」
「いや……いやだ、しにたくない、しにたくない」
なに、これ。
礼拝堂の中には沢山の人がいた。
いつもの清々しい空気はどこにもなくて、血の匂いが礼拝堂の中を満たしてる。
「ラルフィンは私のそばにいなさい」
「はい……」
足がすくむ。
他の中位の神官さんたちは、礼拝堂に入るとすぐに駆け出して、散っていった。
高位神官さんたちは、険しい顔つきの神殿長さんのところに向かって指示を受ける。
「神殿長」
ディーリッヒさんが声をかけると、神殿長さんは頷く。
「王都の南門から魔物が侵入した。かなりの数だそうだ。現在、クリストフ殿下と冒険者たちが対応している。……まだ増えるぞ、ディーリッヒ」
「心得ています」
魔物が、王都に。
「癒やしに回ります」
話が終わったらしい神殿長さんとディーリッヒさん。
でも僕は足が動かなくて。
礼拝堂の隅の方に、寝たまま動かない人が何人かいた。
大きな白い布を持った中位の神官さんたちは、一人一人にその布をかけていく。頭から、包むように。
「ラルフィン」
ざわざわと、背筋が凍る。
白い布をかけられて動かない人。
痛い痛いと泣き叫ぶ人。
疲れ切ったように壁に背を預けて座り込んでうなだれてる人。
親を探して泣き叫ぶ子供。
足をなくした人。
腕をなくした人。
「ラルフィンっ」
悲しみと、怒りと、嘆きと、諦めと。
そんな感情が、どんどん僕の中に入ってくる。
は…は…って息が早く、苦しくなってきたとき、がくって両肩を掴まれた。
「ラルフィン!!」
強く呼ばれて、僕の目はようやくディーリッヒさんを見た。
視界に、心配した顔の神殿長さんの顔も映る。
「あ………あ、ぼ、く」
「ラルフィン、無理ならこの場から離れなさい。咎めはない。……普通の神官でも辛いくらいだ。君は特に、感じすぎてしまうだろう。部屋で休んでおいで」
神殿長さんの言葉は僕を責めない。
ディーリッヒさんも、僕の背中をとんとん叩いて宥めてくれてる。
僕は女神さまを見あげた。
いつも微笑みをたたえているお顔は、今はとても苦しそうだった。
「……のこり、ます」
「ラルフィン」
「僕にできること、やります」
逃げちゃだめだと、思うから。
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