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幼馴染み二人と僕の15歳の試練
15 人であるために②/ディーリッヒ
しおりを挟む……だからこそ、ラルフィンが自らの欲望に忠実な『人らしい』思考をしていたのを聞いて、胸をなでおろしていた。
「ラルフィンも人だったか」
と思わず呟いてしまうほどに。
もともと人です、と、ラルフィンは怒っていたが。
その後、神殿長にそれを伝えても、やはり私と同じ反応だった。
俗っぽいところを見せられると、それだけで安心できる。御使いとしてではなく、人として生きていこうとしているみたいで。
そんな些細なところに安堵感を覚えながら、礼拝堂での作業を行った。
ラルフィンはまだ自覚がないのか、自分も清掃に加わろうとしていたから、思わず襟首を引っ張って引き止めてしまった。
まあ、半日で自覚も難しいか。
ラルフィンはもともとの性格もあってか、真面目に取り組んでいた。
手元の用紙を覗き込んで確認するが、それほどおかしなことは書かれていない。
『箒の扱いがうまい』『雑巾はもう少し絞ったほうがいい』……というのは、まあ、いらないかもしれないが。
礼拝堂の清掃が終わり、皆を解散させたあと、軽く話をしていたが、どうにもラルフィンの様子がおかしい。
「ラルフィン?」
「あ、……えと」
身体が妙に揺れていた。
頬は赤く、息遣いも荒い。
軽く額に手を当ててみたが、やはり、熱い。
「…熱があるな」
気を遣いすぎて疲れたのか、それとも、
「ラルフィン、何か視えたのかい?」
人の感情に敏感なラルフィン。特に憎悪の感情は受け取りやすいらしく、その波にあてられることもある。
私の言葉にラルフィンは不思議そうな顔をしていた。
何かが見えたわけではないんだろうか。
ラルフィンが書き込んでいたことに、何か手がかりがあるか、ざっと目を通したが、いまいちわからない。
このままラルフィンを部屋に一人で帰らせることも憚られ、目立つだろうがラルフィンを抱き上げて戻ることにした。
逃れようとするラルフィンを、幼馴染みたちには手紙で説明しておくからと説得して、部屋まで戻った。
「寝てなさい。いいね?」
「ぁぃ………」
額に濡らしたタオルを載せて、一旦部屋を出た。
書き込みがなされた名簿を持って神殿長の執務室に向かう。
扉を叩けばすぐに返事があり、躊躇いなく室内に入った。
「慌ててどうしたんだい?」
「神殿長…申し訳ありません。私がついていながら…」
「ラルフィンに何かあったのかい?」
「清掃が終わってから発熱しまして…。今寝かせてきました」
「ふむ」
促され、ソファに座った。
神殿長に名簿を渡すと、それをじっくり読み始める。
「……うん。細かくよく見てたようだね」
「何か異常な点はありませんか?」
「そうだね。これを見る限りでは、問題なさそうだけど。ただ、見すぎのようにも感じるね」
「見すぎ…」
「ああ。これでは神経をすり減らしてしまう。もう少し気楽にしてもいいんじゃないのかな。これでは見られてる方も、余計な感情を持ちやすい」
「……観察しすぎた結果として、無自覚な悪意に当てられ続けていたということですか」
「恐らくそうだろう。初仕事としては上出来だけど、昨日までは同じ立場だった者に、これほどじっくり見られていたら、彼らもいい気分はしないだろうし」
…納得した。そこまでは気が回らなかったな。
「ありがとうございます。では、ラルフィンの様子を見てくるので」
「頼んだよ」
「はい」
執務室を出てラルフィンの部屋に向かう。
扉を叩くか迷ったが、そのまま静かに開けた。
ラルフィンはよく寝ていた。
額に載せたタオルを取り、もう一度濡らし直し、額に乗せる。
「……ディー………、エル………」
一瞬、私の名を呼んだのかと思ったが、どうやら恋人の名らしい。
むにむにと笑みをこぼす寝顔に、また安堵を覚える。
……今日くらい、ラルフィンのために規則を捻じ曲げてもいいんじゃないだろうか。
恋人に会えれば、ラルフィンも安心するだろうし。
「……よし」
神殿長に提案してみるか。
反対されないと思う。
むしろ、既に動いていてもおかしくはない。
ラルフィンが人としてどんな反応をしてくれるのか、本当に楽しみだ。
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