幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人と僕の15歳の試練

14 人であるために①/ディーリッヒ

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「女神様も見てますもんね」

 ラルフィンは、時々こういうふうに話す。
 目の前に女神がいるように。その存在を当たり前のように感じ、話す。

『女神さまの御手は優しくて暖かくて柔らかいんです』
『僕が微笑めば、女神さまも微笑んでくれます』
『新しい命を祝福するとき、女神さまの瞳はとても優しく細められるんです』
『女神さまはいついかなる時も、僕達を見守ってくださっています』
『今、女神さまの元に魂が還られました。女神さまの手の中で、痛みも悲しみも癒やされます』

 屈託のない笑顔で私達に告げられること。
 人を慈しむ瞳で人々にかける言葉。

 それは、ラルフィンの中では当たり前のことであり、真実。
 私達高位の神官であっても、この身に女神様の御手を感じることなど無いに等しい。
 当然、声を聞くこともない。
 日々の祈りの中で、御力をお借りし行使する時に、女神様の慈愛を感じるだけ。





 半年くらい前だったか。
 突然神殿長に呼び出され、見せられたのはとても古い手記だった。
 共通語ではなく、古き時代に使われていた神聖語。
 現在使われている経典は、元々この神聖語で書かれていたものを、誰もが読めるようにと共通語で書き直したものだ。

「ディーリッヒ、読めるか?」
「……わずかの単語であれば」

 神殿内には神聖語で書かれた書物は意外と多い。高位の神官となってから、神聖語も覚えるのだが、これが、なかなか難しいものだ。

「神聖語がどうかされたんですか?」
「……ラルフィンはこれをすべて読める」

 何を言われているのか理解できなかった。

「まさか」
「真実だ」

 神殿長の思い詰めたような声音は珍しい。だからか、その事実があまりにも異常なことだと理解するのに時間は要さなかった。
 神聖語で書かれた書物は、大きな神殿にしか保存されていない。だから、ラルフィンがここに来るまでに習うことは不可能。
 では、どこで覚えたというのか。

「この間ここで話をしてたんだがな。少し席を外す間、気になる書物でも見ていてくれと伝えた。…私が戻ってきたとき、彼が手にして楽しそうに読んでいたのが、これだ」
「………」
「これは、女神様がこの地に降臨され、大地に祝福をなされたときの話が書かれている。それを彼は、きちんと理解し、私に話してくれたよ」
「それは、一体………」

 正直、なぜ私にそのようなことを話されているのかも、理解できなかった。
 神殿長はもう一冊、やはり神聖語で書かれた書物を持ち出した。

「女神の御使いについて書かれている」
「…御使い」
「数百年前らしい。薄い桃色がかった銀髪を持つ少女が、やはり神聖語を理解し、女神様の御力を誰よりも使いこなしたらしい。背格好はあまり大きくなかったようだ。同年代の者たちと比べても華奢だったと書かれている」

 それは、まるで、ラルフィンそのものではないか。

「………その少女は、成人の日、忽然と姿を消したらしい」
「え?」

 神殿長は更にもう一冊の本を取り出す。これは共通語で書かれていた。

「五十年ほど前。先程の少女と同じような容貌の少年が、女神様の御力を行使した。彼は神官として学ぶことはなかったようだ。………だが」
「消えた、んですね」
「そうだ。十八になったその日、『呼ばれているので』と家族に伝え、それきり帰ってこなかったそうだ」
「神殿長――――」
「これは、あくまでも、これを記載した神官の見解だが、は正しく女神様の御使いであり、肉体が成熟した後、女神様の元に戻り、この世界で起きたことを女神様に伝える役目があるのではないか、ということだ」

 神殿長は息をついてその本を撫でた。
 感情を押し殺すような瞳で。

「……ラルフィンがだと決まったわけではない。女神様がお決めになられたことに、私達が異を唱えることもできない。けれど私は、彼には消えてほしくない。自分の意志でその先を掴み取ってほしいと思っているよ」
「そう……ですね」
「このことは君の中に留めてほしい。他言無用だ。ラルフィンについては他の神官たちにも世話を見るよう伝えているが、それとは別に彼の様子を見てほしい。何かあればすぐに報告してくれないだろうか」

 …私は、頷くことしかできなかった。
 あまりにも、重大なことを聞かされた気がして。

「恋人という存在は、彼にとって良かったのかもしれない」
「………そうですね」

 こちらの世界に愛しい者がいるなら、簡単に女神様の元に行くという選択をするわけがない。……そう、願いたい。



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