幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人と僕の15歳の試練

12 お仕事です。② 『清掃活動』

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「礼拝堂に限らず、神殿内の清掃時には、神殿長からこの一覧をもらってくる。作業に当たる者の名前とか書かれてるから」

 神殿長さんの執務室に向かって廊下を二人で歩きながら、説明を聞いていた。

 そっか。
 いつもみなさんが持っていた物には、名前が書かれてたんだ。

「ただ見守るだけじゃなくて、清掃中の態度とか、私語とかを確認して、書き込んでいく」
「……そんなに細かく見られてたんですね」
「神殿は女神様のお住まいの一つだからな。その場所をしっかり綺麗にできないということは、女神様への信仰心も弱いと言うことだ」

 大切な人のお家はきれいにしましょー。
 つまりそういうことなのか。
 ……エルは綺麗好きだから、部屋の掃除とかうるさいんだよね。ディーはその点大雑把。……僕も、片付け苦手だけど。
 でも、神殿のお掃除は嫌いじゃない。特に、礼拝堂のお掃除。広くて大変だけど、一番女神さまを感じることができるから。

「女神さまも見てますもんね」

 うまくできたときは、ふわっと包まれる優しさを感じる。
 気持ちが入ってなかったときは、頭を撫でられる感じ。『次頑張れ』って言われてる感じの。

「見てる、か」

 ディーリッヒさんはそうつぶやくと、僕の頭をポンポン撫でる。

「ラルフィンらしい」
「?」

 どういうこと?
 よくわかんないまま神殿長さんの執務室について、ディーリッヒさんが扉を叩く。

「ディーリッヒです」

 返答待たずに扉を開けると、神殿長さんが待っていた。

「随分ゆっくりだったね」
「ええ。ちょっとラルフィンが」

 あえて触れなくていいと思うのに、ディーリッヒさん言っちゃうから…。

「ああ…。ラルフィンにも普通に人らしいところがあってほっとしたよ」
「……だから、僕、普通に人なんですってば……」

 ディーリッヒさんに訴えたことと同じことを神殿長さんにも言うと、やっぱり笑われて頭を撫でられた。
 何故に。

「さ、これが一覧。そろそろ行かないと、みんな部屋に戻ってしまうよ」
「あ、はい」

 手渡された紙と、それ乗せる薄い台のように加工された木の板と、小さめの羽ペン。なるほど。書きやすい。

「行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」

 神殿長さんはにこにこ笑いながら僕を見送ってくれた。
 そこからは少し早足で、ディーリッヒさんと礼拝堂に向かう。

 中に入ると、みんなもう掃除を始めてた。

「あ、ラルフィン」
「キリル君」

 箒を持ったキリル君が、僕達に気づいて近くに来てくれた。

「ディーリッヒ神官様、とりあえずいつもの清掃は開始していますが、何か追加のご指示はありますか?」
「特にないよ。キリルが皆に指示を出したのかい?」
「指示というか…、自分が動き始めたら、皆さんも動き出しただけですよ」
「そうか」

 ディーリッヒさんはなんだか満足そう。

「あ、じゃあ、僕も……」

 掃除道具を取りに行こうとしたら、ディーリッヒさんに襟首を掴まれた。

「こらこら」
「うぁ?」
「ラルフィンがやることは清掃ではないよ」
「あ」

 思わずえへへと笑ってしまった。
 だって、やっぱり染み付いた習慣があるわけで。

「キリルは清掃に戻るといい。ラルフィンは、ほら、確認作業」
「「はい」」

 僕とキリル君の返事が重なった。

「また後で」

 キリル君はそう言うと、戻って行った。

「キリルはしっかり者だな。近くにラルフィン例外がいるというのに、羨んで心を黒く染めることもない」
「?」

 例外ってなに?
 よくわからないけど、僕は手元の紙のキリル君の名前のところに、『しっかり者で働き者』って書いてみた。
 ふふ。
 だって、本当のことだもんね。

 ディーリッヒさんは僕の手元を覗き込むと、うんうん頷いて、僕の手から羽ペンを取ると、僕が書いた言葉の隣に、『自主性あり。自己顕示欲なし。有望』って書き足した。
 これが、ディーリッヒさんのキリル君に対する評価なんだ。
 なんか嬉しいな。

 それから、ディーリッヒさんと二人で礼拝堂内を確認して歩き回った。
 手元の紙には、僕の書いたものとディーリッヒさんが書いたものが、一杯書き込まれてく。

 いいことばかりじゃない。
 僕は今まで自分のことばかりだったから、周りのことなんて見えてなかったけど、中には真面目に作業してない人たちもいた。
 おしゃべりが好きで、手を止めたままお友達らしい人とおしゃべりしてる人とか、性格がディーよりなのか、どうにも掃除が不得意…というか、やり方をわかってないみたいな人とか。

 こんな風に人を観察していくことって、実はそんなになくて。
 僕はいつも感じない疲れを感じてて、終わる頃には大きなため息をついていた。



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