幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります

35 ラルフィン/キリル

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 神官見習いの中で最年少になる俺に、ある日、神殿長から、新しく入る俺よりも年下の子の面倒を見てほしいと頼まれた。
 そいつは俺より2つ下。年の割に小柄で、見た目が男なのか女なのかよくわからないやつだった。
 変なやつ。
 同じ男同士なのに着替えで部屋から出されるし、迷子になると思って手を繋ごうとすれば嫌がるし。周りを少しびくびくした目で見てるし。
 でも、見習いになれるくらいなんだから、素質がある、ってことなんだろう。




 そいつ――――ラルフィンがここに来てから何日かが経ったけど、中位や高位の神官が何かしらラルフィンを構う。
 三の鐘の勉強のときには必ずラルフィンに音読の指名がある。五の鐘の奉仕のあとは、必ずラルフィンが呼び止められる。
 それから、ラルフィンは風呂場に来ない。俺は夕食後はあいつと会わないから、いつ風呂に入っているのか知らない。

 そして、今日、騎士服を着た奴が、何故かラルフィンの隣りにいた。
 三の鐘の後からずっとだ。
 胡散臭い顔で『友人』と言ったが、ラルフィンの様子からそんな感じはしなかった。
 全くよくわからない。
 昼食後に神殿長に呼び出されたラルフィンは、結局五の鐘の奉仕には来なかった。

「流石、神殿長のお気に入りは待遇が違うよね」

 同じ場所の掃除をしていた俺と同じ神官見習いたちが、蔑んだ口調でそんなことを言い始めた。

「ああ。『神殿長のお手付き』だろ?」
「それそれ。毎日神殿長の私室に行ってるって話だ」
「へぇ。あんな年でねぇ。なあ、キリル、どうなんだよ」
「……何がですか」
「ラルフィンだよ。試験も研修もなしでいきなり神官になったって噂」

 ……そんな話、初めて聞いた。

「俺は知りません」
「ふぅん?――――ま、お気に入りは違うよな。呼び出されたまま奉仕にも来ない」
「しかも、今日の誰なんだろうな。騎士服の奴。神殿長の知り合いか?随分とラルフィンにご執心だったなぁ」
「今頃3人でヤってんのかもなぁ」
「うっわ。だったらここも落ちたもんだね」
「それが事実なら俺ほかの神殿に移るわ」

 戒律が厳しいわけじゃない。
 ここの神官達は、誰もが優しく感じがいい。
 けど、見習いや低位の神官は、そうとも限らない。
 大体、奉仕の時間にここまで煩く私語を重ねたり、蔑むような噂を垂れ流すなんて、どうかしてる。

「誘ったら足開くかもよ?」
「ああ。なら、今度部屋に行ってみるか。七の鐘の後なら部屋にいるだろ」

 ……気分が悪い。
 近くに担当の神官の姿が、無いからと言って、声はでかいし、そもそも話してる内容からして神官にあるまじきものだ。
 これは報告しなくちゃ…と思って顔を上げたら、奥の方にいた担当神官と目が合った。
 その神官は俺に対して頷くと、手元に何かを書き込んでいる。

 噂好きな馬鹿な奴らは、そんなことにも気づかずにひたすらいやらしい笑みを浮かべながら話し続ける。
 神官見習いは、正しく言うなら神官ではない。適正がないと判断されれば、すぐに神殿を出される。
 ……そう。『すぐに』だ。




 六の鐘とき、ラルフィンが戻ってきた。いつも通り祈りを捧げ、二人で食堂に向かう。
 ……奉仕のときにくだらない話をしていたあの2人の姿はなかった。

「なあ」
「なに?」
「毎日神殿長の部屋に行ってんの?」
「うん」

 なんとなく聞いてみたことに、隠すこともなく答えられて、危うくスプーンを落とすところだった。

「それって――――」
「僕、皆とお風呂に入れないから、そしたら、神殿長さんが自分のとこのお風呂使ったらいい、って言ってくれて」
「風呂?」
「うん。お風呂」

 なんで皆と入れない??
 神殿長もなんでそこまでする??
 結局疑問は疑問のままで。
 でも、こんな天然なぽやぽやした奴が、神殿長と、……そんな関係を持ってるとは全く思えなかった。



 数日後、疑問は一つ解決した。
 二の鐘の後、いつも通り部屋に迎えに行ったら、ラルフィンは私服になっていて、今日は出かけるという。
 なんとなくついていったら、突然駆け出した。

「ディー!エル!!」

 神殿の入口近くで待っていた二人に向かって駆け寄って、抱きつく。
 それから、自然な流れで二人にキスをして、二人もラルフィンにキスをしていた。
 俺はただ呆然とその光景を見ていたのだけど。
 突然、頭をぽんっと撫でられる。

「ラルフィン君」

 俺の横を通り抜けて、神殿長がラルフィン達に近づいた。

「いいかい?夕食を食べたら帰ってくるんだよ?」
「はい!行ってきます」
「就寝時間に間に合うよう送ります。神殿長殿、有難うございます」
「楽しんでおいで。たくさん甘えて。次は一ヶ月後だからね?」
「はい!」

 ラルフィンの笑顔。……あんな笑顔、見たことなかった。
 ラルフィン達は神殿長に改めて挨拶すると、ラルフィンを真ん中に、手を繋いで神殿を出ていった。
 思わず俺の手を見て、ああ、そうか、と納得する。

 あの二人はラルフィンの『特別』なんだ。
 幸せそうな背中を見ていたら、なんかすんなり飲み込めた。
 だから、俺とは手を繋げない。皆と風呂にも入れない。
 恋人が、いるから。

「なーんだ」

 わかってしまえば、簡単なこと。
 研修も試験もなしでここに入った、ってところも、今度聞いてみよう。案外あっさり教えてくれそうだ。


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