63 / 247
幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります
16 神殿の一日①
しおりを挟む神殿の中では、時間を告げる鐘がなる。
一の鐘は起床時間。
二の鐘は祈りの時間。終わった人から朝食。
三の鐘は勉強と奉仕の時間。勉強は、見習いと低位の神官。奉仕は、中位と高位の神官が、神殿を訪れた人たちの悩みを聞いたり色々。
四の鐘は昼食。
五の鐘は昼からの奉仕の時間。見習いさんと低位の神官も。主に神殿内の掃除や、他の神官の補佐的なことをしたり、何もなければ勉強時間。
六の鐘は祈りの時間。終わった人から、夕食、入浴、就寝の準備。
七の鐘は就寝時間。見回りとかはないから、自室からでなければ問題ないんだって。
鐘で管理されるのは楽かもしれない。夢中になっていても、強制的に引き戻されるから。
でも、祈りの時間が短い。
…単に、僕が長過ぎるだけなのかもしれないけど、キリル君に声をかけられて、中断してしまう。
慣れるしかないのかな…って思っていたんだけど、いいことを思いついた。
神殿に入って三日目の朝。起床の鐘が鳴るよりも早く目を覚ました僕は、身支度を整えて、礼拝堂に向かった。
朝日が僅かに入る時間。
まだ誰もいない礼拝堂は、静かに女神さまが佇んでいるだけ。
その女神さまの前で、僕は跪いて胸の前で手を組んだ。
……ああ。やっぱりこの場所がいい。礼拝堂の中は、凄く空気が澄んでいる。
『いらっしゃい』
女神さまがそう言ってくれた気がした。
意識の片隅で一の鐘が鳴ったのを聞いていた。
僕はそのまま祈り続ける。
村にいるお父さんたちとお母さんたちは元気かな。僕ね、一人で起きれたよ。
ディーとエルは今日何をするんだろう。女神さま。今日もあの二人を守ってください。
そうやって、ただ、ずっと、女神さまに祈り続けた。
心地のいい祈り。
女神さまに包まれてるような安心感。
誰にも邪魔されない時間。
二の鐘が鳴るのを聞いて、僕は目を開けた。
…ああ、これでいい。
女神さまがなんだかキラキラしてるように見える。
「ありがとうございます、女神さま」
誰かに咎められないなら、これが僕の正解なんだと思う。
ふわふわした気持ちで部屋に戻ったら、部屋の前でキリル君が待っていた。
「ラルフィン、どこ行ってたんだよ。祈りの時間だろ」
「あ、うん」
部屋に入ることなく、キリル君の後ろについていった。
祈りの時間に使う部屋には、小さな女神さまがいる。
僕たちが入ると、それなりの数の人たちが祈りを捧げていた。
キリル君の隣で僕も跪き胸の前で手を組んだ。目を閉じて、ほんの少しだけ、女神さまに挨拶する。
――――先ほどぶりです。女神さま。
そうして目を開けば、キリル君よりも早い。
周りをキョロキョロしながら見ていたら、キリル君が頭を上げて、僕を見て驚いた表情をした。
「ちゃんと祈ったのか?」
「うん」
「……今日は随分短いんだな」
「そう?」
「……あまり適当なことするなよ。女神様に見られるぞ」
「そう……だね?」
だから、ゆっくりお祈りしたんだもん。言われなくてもわかってるよ。
まだ変な顔をしていたキリル君と、食堂に向かった。
おかずは出される。少なくもできる。パンは自分で食べれる分をお皿に盛る。
「…ラルフィン、少ないだろ?」
「え?十分だよ」
そんなにたくさん食べないよ。
キリル君のトレイには、僕の倍くらいのおかずとパン。すごい。あ、でも、ディーとエルはもっと食べてたかも。
ご飯と一緒に持ってきたお茶を飲みながら、エルのお茶が飲みたくなった。
「いただきます」
「……いただきます」
ご飯を食べ始めても、ため息が出そうになった。
あと七日かぁ…。
早く、会いたいなぁ…。
3
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!
紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。
全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。
まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪
……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか?
そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……
ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります
ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。
今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。
追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。
ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。
恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる