54 / 247
幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります
7 少しの間…お別れ
しおりを挟む「僕、やだ……一人じゃ、やだ……っ!ディーとエルと一緒にいたい……!!」
「フィー…」
「落ちついて、フィー…」
二人は僕を抱きとめてくれた。
少し困ったように、背中をなでてくれる。
「笑顔で、って言ったのに」
「甘えん坊だね…フィーは」
「だって……だって……っ」
二人がいなくなる気がした。
いつもいつも二人がそばにいてくれたから、僕、ずっと幸せだった。
その二人がいなくなったら、僕、どうしたらいいかわからなくなる。
「お願い…っ、僕、なんでもできるようになるから…!僕のことおいていかないで……!!」
必死にしがみついていたら、二人から『くす』って笑う声がして、僕の目からもっと涙が流れ落ちた。
おいていかれるんだ。
僕、ここに一人で残されるんだ。
「ディー、エル」
声が震えた。
どうしてわかってくれないの……って思ったら、ディーが僕にキスをしてくれた。
ふわふわの、とっても優しいキス。
「ディー…」
ディーが離れたら、今度はエルが。おんなじ、ふわふわの優しいキスをしてくれた。
「エル……」
笑った二人は、僕の目元にキスをする。……涙が、引っ込んでいく。
「フィー、なんで二度と会えないようなお別れ方するかな…」
「え?」
「おいて行かないでほしいのは、むしろ、私達だよ?」
「なんで?」
意味がわからないよ。
だって、僕は一人なんだもん。
二人はずっと一緒なのに。
「俺たちはまだ冒険者になったばかりだ。見習いみたいなものだよ。けど、フィーは、もう神官として認められただろ?……見習いでもなく、上級神官にも引けをとらないものも持ってる」
「うん……」
「だから、私達はこの二年でフィーに追いつかなきゃならないんだよ?そうしないと、私達は恥ずかしくてフィーに結婚も申し込めない」
「……え?」
「なぁ、フィー。自分の色のアクセサリーを人に贈る意味、知ってるか?」
「……知らない」
「お互いの色をお互いに同じアクセサリーで身につけるのは、婚約の意味だよ、フィー」
「……え、え?」
「だから、そういうこと。いい加減意味をわかってほしいな、フィー」
「仲のいい幼馴染だけじゃ、もう私達は満足できないんだよ」
ディーとエルが、僕の耳元に口を寄せてきた。
ちゅ……って、ピアスのとこにキスされる。
結婚、とか、婚約、とか。
………流石に、僕にも意味は、わかる、けど。
わかったらわかったで、僕は顔から火が吹きそうなほど真っ赤になってた……と、思う。
「まあ、ピアスは、俺達が何も伝えないで贈ったものだから、あまり気にしなくていいけど」
「二年後にはちゃんと申し込むからね?それまで返事を考えておいて?」
「あう………」
ぽんぽん……って、二人に頭を撫でられた。
「ま、来月まであと10日くらいか?そのときはまた会えるからな。一月分たっぷり可愛がってやるから」
「はぅ」
「逃げたらだめだよ?毎月ちゃんと可愛がってあげるからね?」
「うぅ」
なにこれ。
なんで?
すごく、恥ずかしい。
「「フィー、愛してるよ」」
「ううう」
ちゅ、ちゅ、………って、たくさん、キスされた。
「返してくれないのか?」
「ほら。『特別』なこと、して?」
「うううぅぅぅっ」
すごく、胸がどきどきする。
いつも、もっと、簡単にしてたのに。
どきどき。
もぉ、だめ。
なんか震えながら、二人の頬に少し、少しだけ、キスをした。
「……まあ、いいか」
「フィーが私達のこと意識しまくってるってことだもんねぇ」
もーやだ。
どきどきは落ち着かないし、顔は熱いし、ディーとエルにおでこにキスされて、もっとどきどきが強くなるし。
「ほら、もう寂しくないだろ?」
「もう大丈夫だね?フィー?」
「うん………大丈夫……」
胸の中でぐるぐるしてた悲しさは、もうなくなってた。
「出かける時はなんていうんだっけ?フィー」
「フィーに見送られたら、私達はいつもより頑張れるなぁ」
笑う二人に、僕も笑い返す。
「いってらっしゃい、ディー、エル」
「「うん、行ってきます。フィー」」
今度こそ本当に、僕は二人を見送ることができた。
寂しいとか、悲しいとか、言ってられない。
だって、二人への返事、考えなきゃ……って、もうそのことばっかり気になってたから。
あのね、ディー、エル。
僕ね、すごく嬉しかったんだ。
だから、だからね?
お願いだから、危ないことはしないでね?
3
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王族なんてお断りです!!
紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。
全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。
まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪
……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか?
そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……
ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります
ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。
今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。
追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。
ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。
恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!
蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ)
第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞
2019年4月に書籍発売予定です。
俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。
そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。
貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。
まぁ仕方ないよね。
しかし、話はそれで終わらなかった。
冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。
どうしたんだよ、お前ら……。
そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる