【完結】夜啼鳥の幸福(旧題:俺はその歌声を聞きながら、目を閉じた)

ゆずは

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幸福の続き

手を取り合う、この先の未来へ《後》

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「マティ…っ、マティアス……っ」
「ヴィル……ヴィル……っ」

 俺が探していたもの。
 探し求めていたもの。

「マティ……顔を見せて」
「ヴィル……っ」

 涙に濡れた頬には、うっすら赤みがさしている。唇も肌に比べれば血色のいい色をしていた。

「…瞳が紫だ」
「私……やっぱり体が弱くて、何度も死にかけて、でも、どうしても、知らないはずの誰かに会いたくて……っ」
「うん……うん……っ」
「頑張って治療を受けて……っ、それで……っ」

 体がこわばった。また、なのかと。この華奢な体はまた病に侵されているのかと。

「ヴィル……ヴィル、私……っ」
「……お前が死ぬなら、俺も共に逝く」
「ヴィル…っ」
「すまなかった。お前が苦しんでいることに気づかなかった。一人で逝かせてしまった……っ」

 力を込めると折れてしまいそうなほど細い体。けれど、体温も鼓動もしっかりと感じることができる。
 奇跡のように再び出会えた。
 だから、何があっても、今度こそマティを一人になんかさせない。

「マティ…愛してる。愛してるんだ」

 煩わしい婚約者はいない。
 子をなさなければならない立場でもない。
 最期の時まで、心からマティだけを愛することができる。

「ヴィル……私も、私もっ、貴方を愛してる……っ」

 泣きながら微笑むマティの唇に、そっと口付けた。
 ふっくらした唇を舐めると、涙の味が舌先に触れる。

「マティ……今すぐ学園を出よう」
「……え?」
「お前と二人だけで過ごしたい。最期までお前を抱きしめていたい」
「え、と」
「一緒に眠りにつこう」
「ヴィル」

 困ったように微笑んだマティは、俺の頬を両手で挟んだ。

「ヴィル、あのね。……私、病に勝てたんだ」
「………え?」
「まだ無理はできないし、薬も必要だけど、前と全然違うんだ。食べれないものはないし、熱だってそんなに出ない」
「マティ…?」
「だから、王都にある美味しいお菓子屋さんに連れて行って。満天の星空も見たいし、ヴィルと一緒に馬で遠がけもしたい。……馬には、一人で乗れないんだけど……」

 微笑むマティの顔が揺れ始めた。
 熱いものが溢れ、自分の頬を濡らしていく。
 俺が涙を流していることに気づいたのは、マティの白く細い温かな指が俺の頬を撫で涙を拭ったときだった。

「……どこにだって連れて行く……っ」

 マティが望んだこと。
 一人で全部叶えて、墓前で報告した。
 それを、最初から、二人で。

「よかった……マティ……マティ……っ」
「うん……、頑張ってよかった……。また、貴方に会えた。私は……それだけで幸せだから」
「まだまだ足りない。幸せなんて、これからいくらでも感じさせてやる。何年も、何十年も、共に逝くときも手は離さない」
「うん」

 それから、抱き合ったまま、私達は語り続けた。
 マティの死を知って、自死しようとしたこと。そのときにマティの残してくれたものが、俺を止めてくれたこと。
 マティが言ったように、俺の息子は俺よりも優秀だったこと。

「病は辛くて……悲しくて、幸せな記憶なんてなかったけど、ヴィルに出会えて、……恋をして、私は本当に幸せでした。最後は悲しくなんかなかった。貴方の思いを聞きながら、幸福を感じて眠りにつけたから。
 ……でも私は欲張りだから。また、貴方に会いたかった。今度こそ、貴方の隣に立ちたいと願いました」

 共に在りたい。
 二人の願いは同じものだった。
 だからこの奇跡が生まれたのかもしれない。

「俺は、マティだけのものだ」
「私も貴方だけのものです」

 ベンチに座り直したマティの膝に頭を載せて横になった。

「マティ、歌を」
「はい」

 はにかんだマティは、俺の頭を何度も撫でながら、歌を口ずさむ。
 ああ。この歌声だ。
 俺に癒やしを与えてくれるこの歌声。
 昼の休憩時間なんてとっくに過ぎていた。 
 午後の授業も始まっている。
 けれど、そんなことは気にするようなことではなく、得られた幸福にただただ身を委ねていた。

 その後、マティが噂されていた第三王子で、一学年に入学するのではなく、俺たちと同じ学年に編入したのだと聞いた。
 俺は侯爵家の次男だと言うと、マティは小さく「よかった」と呟いた。

「前とは逆ですね」
「そうだな」
「あ……、でも、侯爵家と男爵家ではあまりにも違いすぎますね」
「そこはきっと、王子を娶るのに必要な身分を神が与えてくれたんだ」

 お互いに笑いあい、頭を上げて唇を触れ合わせる。そしてまた頭を膝の上に戻し、マティの歌を聞く。
 心が満たされていく。

 今更のように二人で名乗り合う。
 きっと、もう、「マティ」「ヴィル」と呼び合うことはない。
 彼らが生きた時代はかなり昔のことだ。
 俺たちには今の時代がある。二人で過ごしていく時がある。

「行きましょうか、ロレンツォ」
「……行かなくていいだろ。まだラウフェリエの膝枕で寝ていたい」
「そんなこと言って……。怒られますよ?」
「……ラウと怒られるならむしろ本望だ」
「……そうやってまた私を巻き込もうとするんですから……」

 渋々起き上がり、くすくす笑い続けるマティラウを抱き締めた。

「愛してる、ラウ」
「私もです。愛してます、レン」

 初めて出会ったのは学園の中庭だった。
 そして、再会したのも学園の中庭だった。
 季節も同じ春の穏やかな季節。
 二人手をつなぐ。
 もう離すことのない手。
 この先は、二人で歩む幸福な未来だけ。











*****
蛇足かと思いつつ、二人の幸福な未来を。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

四葩(よひら)

番外編❗読みました。
ずっと心残りだってのでしょうね、お互いへの愛が強すぎて。
再会出来た事に嬉しくて涙がとまりませんでした。
きっかけは、歌でしたね。

今度こそ、2人で人生を歩んでほしいです。
友人達はビックリでしょうね、噂に冷めていたリアクションから一転w
貴族達はガッカリしそうです。

でも2人はアツアツ( *´艸`)💕

ゆずは
2023.02.07 ゆずは

ハピエン好きな私としては、悲恋のまま終わりはやっぱり納得できず…、二人が幸福になるのならこれかなぁ、という感じでの番外編でした。
喜んでいただけたならとても嬉しいです✨

解除
るりまま
2022.11.23 るりまま

作者様
更新を有難う😭
有難うございます😭
2人が幸せになって良かったです。
作者様 大好きです❤️

ゆずは
2022.11.24 ゆずは

こちらこそありがとうございます^^
来世で幸せになったっていいじゃないか……と、突然書きたくなりました。
書きながらまたしても泣いてましたが(笑)
読んでいただけてとても嬉しいです。
ありがとうございました^^

解除
Salli
2022.05.28 Salli

ああああ・・・・悲しい切ない・・・読んでいて何度もなみだが止まらなくなりました。
でもとてもみんな優しい・・・優しくて切ない世界。
誰も傷つけず、頑張ってマティとの約束を守って、そしてマティにまた会えた。
きっと二人は穏やかに幸せに今頃過ごしているのでしょうね。
悲しいけど、切ないけど、美しい世界をありがとうございました。

ゆずは
2022.05.28 ゆずは

こちらこそ、閲覧ありがとうございました!
優しい世界の中で、マティは家族にも初恋の人にも愛されて、彼は彼なりの幸福を得ました。
書きながら私も泣いていたので、一緒に泣いていただけたと思うとそれだけで嬉しいです^^

解除

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