【完結】夜啼鳥の幸福(旧題:俺はその歌声を聞きながら、目を閉じた)

ゆずは

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本編

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 そして卒業後、マティは俺のもとに通ってきてくれた。
 城の者たちは、一度彼を見ると呆けたような顔をし、すぐに顔を赤らめていた。
 儚く美しい俺の最愛の人親友
 相談役として彼を招くことは、父にも了承を得たからなんの問題もない。

 部屋に座り心地のいいソファを置いた。
 マティに膝枕をしてもらいながら、髪をいじる。……それくらいの触れ合い、許してほしい。
 軽い言葉遊びも……俺にとっては本気のものだった。
 けれど、マティは絶対に靡かない。
 カサンドラの為に、頬を赤らめることがあっても、嬉しそうに笑うことがあっても、俺に『愛してる』と伝えてくることはなかった。

 春の日差しが暖かさを増した頃から、マティの登城が少なくなった。
 登城して俺と過ごしていても、以前のように笑うことも少なくなった。
 少し痩せた。
 俺の頭をなでながら、成婚式の準備は進んでいるのか、カサンドラに贈り物はしてるのか、そんなことばかりを聞いてくる。
 時折見せる憂いた表情に、マティが俺とカサンドラの成婚を気にしているのが、哀しんでいるのがよくわかった。……決して、言葉にはしないけど。

 成婚式が近づいてから、四日ほどマティは登城しなかった。
 城の中は成婚式の準備で慌ただしく、それに、気を使ってのことらしい。……そういう内容の書簡が届いたから。
 だが前日の昼過ぎ、マティが登城した。
 それなりに仕事も片付いており、俺はマティと二人きりで部屋に籠もった。そうしなければならない気がした。

「おめでとうございます、殿下」
「ありがとう」

 マティは愛らしい色の花束を贈ってくれた。
 花束を抱えてはにかむマティが誰よりも美しく可愛らしく愛らしい。
 花束を受け取るとき、不意に指先が触れた。
 離すことができずに、じわりじわりと指を絡めていく。

「……ヴィル」

 マティの瞳が揺れた。
 それを見た瞬間……マティを強く抱きしめていた。
 ばさり…と、花束が床に落ちる。

「マティ……マティ……っ」
「っ、ヴィ、ルっ」

 唇を重ねた。
 何度も夢見た。
 角度を変えながら、唇を割り開いて、舌を熱い口内に差し入れる。
 マティの手が俺にしがみつく。その手は震えていたけれど。

「愛してる……愛してる……っ、マティっ、愛してる……っ」
「ヴィル……私も……私も……」

 あの日が最後だと思っていた。
 最初で最後の触れ合い。
 戯れに手を伸ばすことはあっても、引かれた線は超えない程度の。

「ヴィル……ごめんなさい……っ」

 口付けの合間に、涙を流しながらマティが口にする。

「一度だけでいい。一度だけでいいから、ヴィルに抱かれたい……っ」

 思わず息を呑んでた。

「こんな、わがまま、……駄目だって、わかってる、わかってるけど、でも……っ」
「マティ」
「おねがい……っ」

 ボロボロと涙を流すマティを俺はすぐに抱き上げ寝室に向かった。
 口付けを繰り返し、丁寧にマティの服を脱がしていく。
 マティの体はどこもかしこも白くてほっそりとしていて、美しかった。
 一つの痛みも与えたくない。
 今が昼間でも。
 明日が成婚式だとしても。
 なにもかも俺にとって関係ないことだった。
 ベッドの棚に用意されている香油をたっぷりと使い、緊張でガチガチになっているマティの体をほぐしていく。
 何度も愛してると耳元で囁いた。
 白い肌を満遍なく舌で愛した。
 唇と同じ色をした胸の頂きも、薄い腹の凹みも、幼さの残る彼の象徴も、俺の指を咥えて収縮を繰り返す蕾も、筋肉がほとんどついていない下肢も、足の指先までも、全て。
 俺が己をマティの奥深くまで沈めたときには、マティは何度か達していて、腹は白濁や体液で濡れていた。

「しあわせ――――」
「ああ。夢のようだ」
「ゆめ……、そうだね。いちやのゆめのよう。わたし……、しあわせだったよ……ヴィル。あいされて、あいして……、すごく、しあわせだった」
「俺もこれ以上の幸福なんて知らない。マティがいないと……俺は幸せになれない。マティ、これからも俺の傍にいてくれ。決めたんだ。もう、マティを手放さない。俺の、ものになって」

 マティは何も答えず、俺にしがみついて胸元に顔を隠した。
 ちらりと見えた頬も、耳も、真っ赤だった。

「一度だけになんてしない。これで終わりじゃない。マティ……愛してるよ」
「ヴィル……、わたしも、わたしも……あいしてる。ヴィルだけ。ずっと、ずっと、あいしてる」

 顔を上げたマティに口付け、きつく抱きしめた。

「動くよ」
「ん…っ」

 マティから嬌声があがる。
 優しく、優しく。甘さだけを感じてほしくて。
 ねだられて、奥に欲を吐き出した。
 俺の腕の中でマティは涙を流し続ける。

「ヴィル……うれしい――――」

 本当に幸せそうに、嬉しそうに、マティは涙を流し続けた。


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