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番外編
運命はすぐ傍に③
しおりを挟む十五歳になった年、王太子となった。
体格はほとんど大人に近くて、筋肉もついた。
魔力の扱いも剣の扱いも、力を入れて学んだ。
当初は兄上を差し置いて…と悩んだりもしたが、兄上自身が祝福をしてくれたから、最終的には受け入れた。
その兄上は華奢なままだ。背もあまり高くはなくて、私とは既に頭二つ分くらいの差ができている。
一般的から見てもかなり小柄な方だと、宮廷医に言われた。
剣術は無理だった。筋肉がつかない。その代わり、魔力量や魔力の扱いは私よりも才能があった。
いつだったか、父上から染み染みと、「お前も苦労するな」と言われたのはなぜだ。
私達にはもう一人弟ができた。今年四歳になったウェルテも、兄上と同じように華奢だ。髪色はミルクティー色で完全に母様の色を継いだらしい。瞳色が空色だから、母上が悔しがっていた。
ただ、ウェルテが生まれたときはちょっと大変だった。ミルクティー色の髪は、私達にとってはいつも目にしている色だが、他の者は違う。母上の不貞も疑われた。……まあ、父上が母上の家系で以前ミルクティー色の髪の花嫁を娶っているから、その先祖返りだと資料も付けて反論したため、異を唱えていた貴族たちが全員黙り、その騒動はすぐに解決された。
兄上の顔立ちは母上よりだが、ウェルテは顔立ちも母様よりで、愛想のいい甘い笑顔をあちこちに振りまいていた。
兄上も私も、年の離れた弟を溺愛していた。
当然、私は兄上も溺愛している。
あの夜から、週末になると兄上の体に触れていた。
まだ挿入はしていない。
いつ兄上が私のことを好きだと言ってくれるか待っていたが、中々言ってもらえなかった。
父上と母上には、私が立太子したときに兄上を伴侶にすることを話した。相談ではなく、決定事項として。兄上は私の運命だから。
父上も母上もあっさりと認めてくれた。
十六歳になり、十八歳の兄上の卒業も間近になったとき、兄上が寝込んだ。
父上も母上も落ち着いていたし、宮廷医からも「問題ない」と聞かされた。
そしてなぜか、私が兄上を見舞うことは禁止された。
どうして私が見舞ってはならないのか、誰も教えてくれない。
そのことに苛立ちをつのらせていたある日、母様から呼ばれて部屋に向かった。
母様の部屋でウェルテが眠っていた。母様はそんなウェルテの頭をなでて、私に優しい笑顔を向けてくれる。
「イサーク、おいで?」
おずおずと近寄っていくと、母様は私を抱きしめ、幼子にするように背中をなでてきた。
「母様」
「大丈夫。エリーのことは心配ないよ」
「……っ」
「ぼくのときは二人が傍にいてくれたけど…。きっと、エリーは熱が引いたらイサークを呼ぶよ」
「なぜ……私は見舞ってはだめなのですか」
「きっとね、怖いんだよ」
「……怖い?」
「うん。…きっとね、そうじゃなかったとき、イサークに落胆されるのが怖くて、会いたくないんだよ。……ほんとなら、ぼくが傍にいてあげたいけど……。サリムベルツは信頼できる医療師だし、エリーの周りには信頼できる花籠持ちの人しか置いてないから。間違いは絶対に起きないし、このままどうにかなることもないんだよ」
「……母様」
「今日で三日……四日目?」
「……四日目です」
「なら、あと三日くらいで落ち着くはずだから。呼ばれたらすぐに行けるように学院も休んでていいし、でも、公務は進めて?」
「………はい」
項垂れてしまった。
母様を抱き返すことはしなかったが、完全に頭を肩に預けてしまった。
母様はそんな私を叱ることなく、くすくす笑うとまた背中を撫でる。
「ほんと、イサークは父上と母上にそっくり。大好きな人のことで頭いっぱいになっちゃうんだね。ふふ。エリーは幸せものだね」
「………はい」
確かに私の頭の中は兄上のことで埋め尽くされてる。
兄上の口から知らない名前が出てくるだけで、嫉妬でドロドロした黒いものが溢れてくる。
体を重ねても名前を呼ばれても、まだ満たされない。自分に自信が持てない。
「おいで」
「え」
ぐいっと母様に引っ張られて、ウェルテの隣に転がされた。
「母様っ」
「少しお昼寝していきなさい」
体を起こそうとしたら母様に体を戻された。毛布までかけられてしまう。
そしたらウェルテがもごもごと口を動かしながら私に抱きついてくる。
……子供体温が心地よくて。
私はいつの間にか眠りについていた。
………………目を覚ましたとき、椅子に座った母上の上に乗り、裸の背中に汗を流しながら腰を振っていた母様の姿が目に入って頭を抱えたくなった。
どうしようかと悩んでいると、母上が笑って指で指示をしてくる。
私はそれに頷いて、まだ寝ているウェルテを抱き上げて、静かに部屋を出た。
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