上 下
48 / 54
愛しい人を手に入れたい二人の話

そして思い描いた幸福な未来へ

しおりを挟む




◆side:レイナルド

 長男のエリアスが誕生してから二年目。次男のイサークが生まれた。
 俺達が守る天使が増えたのだ。

 そして幸福な日々を過ごしていたとき、王妃――――俺の母が亡くなった。

 死の間際、セレスとアベルの了承を貰い、エリアスとイサークを母の部屋に連れ出した。
 部屋の中から俺と子供たちだけを残すと、それまで一切俺を見なかった瞳が、俺をはっきりと捉え、手を伸ばしてきた。
 その手は枯れ枝のようにやせ細り、僅かな力さえもない。
 王族と貴族の食い物にされ、辱められ、心を壊した俺の母。
 エリアスはその手を怖がることなく、大人しく頭を撫でられていた。イサークは俺と同じ空色の瞳で、細い指をじっと見つめている。

「レイナルド」
「はい」
「……お前は、間違えるんじゃない」
「……母上」

 心が壊れ、まともに話したこともない母。
 その母が、じっと俺を見据え、薄い唇を動かしながら王族が母にした仕打ちを全て語った。
 …それは、かなり酷い内容だった。婚姻式で全裸を求められたアベルよりも、尚酷い扱いだ。

「私が弱いばかりに」
「母上」
「レイナルド、ちゃんと守りなさい。貴方の最愛を悲しませないように。この子たちの未来を守るために」

 母の指が、エリアスの右目――――セレス譲りの緑色の瞳の方を優しく撫でた。
 その仕草に、母が全てを知っているのだと気づいた。

「母上」
「ありがとう、レイナルド。二人を連れてきてくれて。…よかった。本当なら、あと二人に、会いたかったけれど」

 あと二人。
 アベルと、セレス。

「…この部屋には子供たちしか連れてこれず」
「ああ、わかってるよ、レイナルド」

 母は力無く笑い、手を下ろした。

「……話ができてよかった」
「…はい」
「幸せに、なるんだよ」
「……はい」

 エリアスが手を伸ばし、母の手を取った。
 イサークも俺の腕の中から手を伸ばす。

「……ああ、なんていい子たちなんだろう」

 母の目尻から一筋の涙が流れ落ち、瞳が閉じた。

「…………母上、どうか、安らかに」

 口元に薄っすら笑みを浮かべたまま、母は息を引き取った。





 恙なく葬儀を終え、アベルに母から聞いた話を聞かせた。
 その顔にありありと嫌悪の色が浮かぶ。

「なんでそんなに腐ってんの」
「臣下である貴族たちの王家に対する不満を失くすために始められたことらしいな」

 もともと王族にあまり権力はなかった。いつ貴族たちに乗っ取られてもおかしくない立場だった王族が、王妃を貴族たちへの生け贄にすることで権力を維持してきた。
 王妃は王以外も受け入れなければならなかった。常に数人。そうして生まれてきた子供たちの中から、金髪で魔力の高い者を王太子とし、次代の王とした。
 やがて、王族の魔力そのものが強くなり、貴族たちを掌握できるようになってから、王妃を共用することはなくなったらしいが、婚姻式にも晩餐会にも初夜にも、その流れは色濃く残っていた。

「もう終わらせる」
「そうだね。エリアスとイサークをそんなことの犠牲になんかできないよ」
「ああ」

 俺がやらなければならない。
 この魔力で貴族たちを抑えつけてでも。

 子供たちを乳母役の者に預け、アベルを伴って寝室へ戻る。
 寝室には入念に鍵をかけ、室内に問題がないか探索もかけた。
 使うのはこの部屋ではない。
 寝室に問題がないことを確認してから、隠し扉を開けた。
 俺達のセレスを隠すための部屋。
 その中で、カーテンをひいていない窓から差し込む月の光を浴びながら、暗い室内の中でベッドに座るセレスが白く輝いて見えた。
 剥きだしの背中に、本当に純白の羽根があったとしても驚きはしない。

「セレス」

 名を呼ぶと、セレスはゆっくり俺達の方を向いた。

「レイ、アベル」

 月明かりを浴びて微笑むセレス。
 俺達のせいで部屋から出ることもできず、家族に会うこともできず、ただただ、ベッドの上で過ごしているだけのセレス。
 けれど、幸せだと微笑んでくれる。
 二年が経っても、セレスは少しも変わらない。
 体に少し柔らかくなった。

「エリアスとイサークはもう眠った?」
「ん。ちゃんと僕たちが眠らせて、任せてきたよ」
「よかった。明日天気がよかったら、二人を連れてお庭に出ようかな」
「いいね。日を浴びないと体に悪いからね」

 アベルと共にベッドにあがり、セレスの頬に口付けた。

「サリムベルツが二人の成長は順調だと言っていた。…明日、セレスの診察に来るそうだ」
「そっか」
「僕が一緒にいるからね。花籠の様子も見たいから、って」
「ん」

 イサークを産んでから、花籠はまだ白っぽくなったまま。
 揺籠ができあがれば、また色づくだろう。

「……ここ最近の中では一番の子宝に恵まれた王になるな」
「ふふ」

 エリアスの後は二年で花籠に色が戻った。
 今度はいつ、戻るだろう。

「ぼくね、こうやって二人と過ごせるのが凄く幸せでね、ずっとずっと望んでいた通りになったんだよ。だからぼく、いっぱい二人の子供を産みたい。いっぱい愛されて、大切にされて、それから愛しい子たちを産むの」
「うん」
「だから、たくさん、傍にいてほしいの」
「ああ。当然、傍にいる」
「公務放り投げて部屋にこもるかな」
「それは次の花籠ができてからだな」
「もう……二人とも、お仕事はちゃんとしてよね?」

 くすくす笑うセレスに、俺達も笑う。

「……ほんと、幸せ」

 そう呟くセレスを、ベッドに沈めた。
 俺とアベルを見上げ、口元にはずっと笑みを浮かべたままだ。

「幸せに、して?」

 可愛い唇が、可愛い声で紡ぐ言葉。

「ああ」
「うん」

 王族の醜い姿など、セレスに見せる必要はない。
 セレスを軟禁状態にしている今の状態も、王族が今までしてきたことの延長線上のものかもしれないけれど。
 重い愛と執着と自分が求められる悦び。

 …他の者に抱かれながら嫌だと助けを求めてくる妃に、仄暗い感情を抱いた王がいたかもしれない。
 その涙を舐め取って性欲を満たしていた王がいたかもしれない。
 愛するが故に、他者に抱かせ、妃がどれほど自分を愛しているのか試した王がいたかもしれない。
 自分が愛している妃がどれほどまでに素晴らしい者かを見せつけたかった王がいたかもしれない。

 そんな王がいたかどうかもわからない。
 俺がセレスを閉じ込めて服も与えず他人の目に触れさせないように愛し続ける今のこの状態を、狂愛と言う者がいるかもしれない。

 けれど、これでいい。
 これが俺達にとっての幸せの形だ。
 俺がやることは何一つ変わらない。
 セレスが幸福を感じているならば、これが正しい形。

「セレス――――愛してる」

 何度も何度も言葉にした想いを、セレスを縛る鎖のように紡ぎだす。

「ぼくも愛してる」

 そしてその鎖は、セレスを絡めとり、俺達をも絡めていく。

「レイ、アベル」

 セレスの微笑みに背筋にゾクリと快楽が走り抜け。
 俺達はセレスに誘われるままその体をむさぼっていく。

 離れられない。
 鎖は深く深く俺達に絡みつく。

 でもこれが、俺達が求めていた未来。
 思い描いていた幸福な、未来――――





(おわり)









*****
間違っていたらごめんなさい。
レイは多分ヤンデレ…。
そして多分この物語はメリバの分類…。
でもハピエンと言い張る作者。
アベルは普通の子です。多分。

次回より番外編数話掲載し、完結します。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

# ふた恋~脱陰キャしたら、クール系優等生とわんこ系幼馴染から更に溺愛されました~

沼田桃弥
BL
 『――この古書が赤い糸のように、運命の人と繋がる力があるなんて知らなかった』  朝比奈優が幼い頃、隣の家に小向井春人という無邪気で負けず嫌いの男の子が引っ越してきた。優と春人は近所でも有名な程、仲が良かった。しかし、中学時代に春人とは突然のお別れ。  時は経ち、優は地元で有名な高校へ首席で入学する。優は人との別れに抵抗を持ち、誰とも付き合う事をしなかった。見た目も気にする事無く、ボサボサの髪に伊達眼鏡。  一方、綺麗な金色の髪を靡かせ、学園内でもイケメンだと噂された一ノ瀬楓雅は入学式での優の姿に心を奪われ、優に声をかけ、友達になる。  そして、とある事件をきっかけに、楓雅は優へ告白する。しかし、優は春人の事を諦めきれず、楓雅の申し出を断った。  高校三年生になり、春人が突然、転校生として戻ってきた。大きく成長した春人に優は胸が高鳴った。そんな偶然の連続の中で、楓雅と春人は互いに優の事が好きである事を認識し、いがみ合う。  そんな事が起きているとは露知らず、優は高校生活最後の学園祭で、三人で古書を題材にしたミュージカル風な劇をやらないかと提案する。しかし、一筋縄ではいかず、葛藤や障害が生じる。  その中で、優は二人の支えにより、自分に少しずつ自信を持つようになっていった。それと同時に、春人と楓雅の二人の事が気になり出し……?  しかし、それは偶然ではなく、必然。古書によって引き寄せられた三人。  クール系優等生とわんこ系幼馴染が溺愛してくるのは、古書の呪いのせい? そんな話ってあんの?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

処理中です...