【完結】ぼくは伴侶たちから溺愛されてます。とても大好きなので、子供を産むことを決めました。

ゆずは

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愛しい人を手に入れたい二人の話

王太子と公爵家嫡男の婚姻式の裏事情

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◆side:アベルシス

 入浴は花籠持ちでも手伝いを断った。入浴後の体温上昇で赤くなった花籠を見られるわけにいかないし。
 城で与えられた自分の部屋。
 それも今日までだ。
 今夜はここで支度を終えてから、レイの部屋に移る。

 鏡の前に座らされて、ひたすら髪をいじられる。
 春の季節に近づいたとは言ってもまだまだ冬の季節だからか、飾られる花は白い花が多い。その中に薄桃色や薄黄色の花が混ざっているのは、これから訪れる春の象徴だろうか。

「お綺麗です」
「ありがとう」

 僕の演技は終わる日がこない。
 思慮深く、慈しみ深く、穏やかで、優しい。
 ……本当にそれは一体誰なんだろう。
 ちょっと自分ってものがわからなくなってくる。

 用意されていた下着は、白の総レース。当然スケスケでセレスにつけてほしいものだった。
 皆の前で晒すことになる下腹部は、しっかり毛の処理も終えている。…こんな下着じゃ、陰茎も見えるんじゃないの…って何度突っ込んだことか。
 上着は前開きのひらひら。ベースは銀で金色の刺繍が施されている。…完全にレイの色。はぁ。

 支度を終えてから息をついたあたりで、担当の神官が呼びに来た。
 しずしずと返事をして彼のあとについていくと、神殿にある控室的な場所に案内された。

「アベル。待ちくたびれた」

 部屋の中にはレイがソファで寛いでいた。

「お待たせいたしました」

 ニコリと微笑む。
 僕はお前より支度がほんとに大変なんですよっ。
 案内してくれた神官は頭を下げて部屋を出た。
 僕は衣装の裾に気を付けながら、レイの隣に座る。

「――――セレスは?」
「それなりに食べてる。寝てる時間が多いが、心配いらないだろ」
「そっか…よかった」

 城に来た直後に眠るセレスを見たけれど、青白い顔色に本当に心がざわついた。

「やっと今夜――――」
「アベル」

 口元に指をあてられた。
 直後、部屋を開けて入ってくる人物。
 ……てかさ、ノックくらいしろよ。

「神官長」
「式の確認に参りました」
「そうか。だが、入室時にノックくらいすべきではないか」
「おや、それは申し訳ありません。準備が整ってると報告を受けたので、なんら問題ないかと来てしまいました」

 …この神官長も駄目な奴だ。目がいやらしく僕を見てる。

「………次からは注意してもらいたい」
「ええ、わかりました。殿下。さて、では、婚姻式の確認でありますが」
「貴殿の祝言いわいごとに続き神に祈りを捧げるのだろう」
「はい。そののち、祭場にて、参列している国王陛下並びに貴族たちにむけて、花籠のご披露をお願いいたします」

 僕はその言葉に体を震わせた――――ように見せた。レイの腕を掴む仕草もばっちりだ。

「披露、ね」
「ええ。殿下の手でもよろしいですし、花嫁自らが衣服を脱がれてもよろしいので。望ましくは全ての衣服を取り除くことですが、下着一枚は残してもよろしいかと」

 ……ああ、思っていた以上に下衆だ。
 ほんと、セレスじゃなくてよかった。

「どういうことだ。下腹を晒し、花籠を皆に見せればいいだけだろう」

 そうそう。そういう話だったでしょ?

「それはそうなのですが、花嫁様が――――アベルシス様が花籠持ちだということを疑う貴族が多いのです。花嫁様の潔白を証明するためにも、隠しようのない全裸での確認を求められました」
「………くだらない」
「ええ。ですが、これは総意であります」
「父も承知の上か」
「もちろん。国王陛下にも確認済みでございます」

 ……この国の身分高い人たちには、色狂いの人しかいないのかな?

「了承できん」

 そうそう。
 花嫁を溺愛しているという殿下のお言葉はそれでないとねぇ。
 そして、僕の役割は、

「……殿下、私が疑われているというのであれば、殿下のためにも証明してみせなければなりません」
「アベル……」
「殿下がお傍にいて下さるのですから。私はどのようなことも受け入れます」
「……ああ」

 ……神官長に背中むけてるからって、レイよ。そこで笑うな。揺れてる肩が、まるで泣いているかのように見えるから、効果的ではあるかもだけど。

「……わかった。神官長。それを受け入れよう」
「ようございました。皆の疑惑が晴れますよう、お祈り申し上げます」

 ニタニタとした笑みを浮かべて、神官長が部屋を出ていった。
 直後に張られる防音結界。
 僕の肩に手をつけて爆笑を始めるレイ。
 ……僕のこめかみがピキリとするからやめてほしいもんだ。

「お前……っ、ほんと最高だわ……っ」
「全部セレスのためだからねっ」
「わかってるわかってる」
「……はぁ。それにしても、全裸とくるとはねぇ。僕の玉のお肌が全公開ですか」
「酷い話だな。アベルじゃなかったらこの場で気を失うほどの話だ」
「全くだね。婚姻式で何も言われてなくて、勝手に婚礼服を剥かれてその場でショックで死んだ花嫁も過去にいたんだっけ。なんだって王族って反省しないんだろうね?」
「俺の代で絶対に変える。そこんとこはお前も協力しろよ」
「当然。僕たちとセレスの子がこんなことに巻き込まれるなんて、絶対に嫌だからね」

 色っぽく恥じらいながら脱いでやろうじゃないか。
 僕を侮るなよ色ボケども。
 みっともなく勃たせればいいんだ。





 時間になって、婚姻式が始まって。

「では証を」

 神官長の言葉を合図にして、僕たちは祭壇のある壇上で、参列者の方に向き直った。
 指先を震わす。
 もたついてボタンがうまく外せない様子を全力で演じて、ちらりと前を向きギラギラした目で僕を見つめる貴族たちに内心唾を吐きながら、上着を落としてシャツを落とす。
 見えてますか。乳首だってちゃんと処置してますよ。
 なんでわざわざ着せられた婚礼衣装を脱がなきゃならんのかと悪態をつきながら、涙、いりますね。
 涙……涙……。
 セレスがもし僕を拒絶したら……、って考えたら、自然と体が震えて涙がにじみ始めた。
 ここまでやって嫌われたら、僕立ち直れないなぁ……。
 トラウザーズも足元に落とすと、感嘆のような感心のような声が貴族たちから漏れ聞こえた。
 僕は別に見世物じゃない。花嫁だ。その花嫁に対して、下着も取れとか、足を開けとか、そんな野次を飛ばしてくる貴族の気が知れない。
 ほろほろと涙を流すと、レイが自分のマントを僕にかけて、ぐるぐる巻きにした。

「確認は十分だろう」

 レイがひょいと僕を抱き上げてそう言葉にすると、神官長がニタニタした顔で婚姻式は滞りなく終了したと宣言した。それとほぼ同時に、レイは足早に神殿を出て僕の部屋に向かった。
 足首に絡まったままのトラウザーズ……鬱陶しいな。

「お前、最高だな」
「当然でしょ」

 こそこそと囁くような声で。
 僕の演技力、舐めないでよね。



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