【完結】ぼくは伴侶たちから溺愛されてます。とても大好きなので、子供を産むことを決めました。

ゆずは

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愛しい人を手に入れたい二人の話

最愛を拉致して隠し部屋に軟禁する王太子

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◆side:サリムベルツ

 私は常々、今の王族の在り方に疑問を持っていた。
 何故、正妃となる人間を尊重しないのか。ただ子を成すためだけの道具のように扱うのか。
 花籠は古来から伝わる大切な魔法だ。それがなければ我々は既に滅んでいる。
 花籠が現出するまでは皆同じ生活を送る。けれど、花籠が現われたなら、家族にすらそれを見せるのは躊躇われるものだ。
 着替えは同じ花籠持ちの侍従に、入浴も当然。
 花籠は守られるものであって、虐げられる存在ではない。ましてや、不特定の人物に見せる物ではない。見せるとしたら、それは私のように医療師として資格を得たものが診察をするときか、自分の伴侶になる相手にだけ。
 けれどこの国の王族たちは、代々にわたり花籠持ちを軽んじる。
 婚姻式のときに貴族たちに花籠を晒すのも然り、初夜に数人もの未届け人がその行為を間近で見る上に、正妃となる人物の快楽を引き上げるために自分たちも愛撫に混ざることがあるというのも然り、間違いが起きないように出産時にまで立ち会うということも然り。これら全てが花籠持ちである正妃に強い負担を強いる。それこそ、花籠が枯れ落ちるほどに。

「お前は王族のしきたりについて、どう思う?」

 何度か会った王太子殿下に、そう問われたのはいつだっただろうか。
 私が返答に詰まっていると、殿下はさっさと防音結界をかけた。つまり、嘘偽りなく返答しろということか。

「非常に馬鹿げたしきたりですね」

 私がそう答えれば、殿下は何故か満足そうに笑った。

 それからだ。
 私が殿下の『協力者』になった。
 何度か本来のお相手であるセレスティノ様を見る機会もあった。
 あのお方は心が優しいのだろう。殿下とベニート公爵家嫡男様に向ける笑顔は、どこまでも純粋で輝いていた。





 卒業式当日、学院から一旦戻った殿下から、緊急だと呼び出された。
 それによると、予想していたよりセレスティノ様の様子がおかしいというのだ。
 それはそうなるだろう……と詰りたくなるのを堪えながら、私は着替え、執事に扮し、予定通りの荷物をあまり華美ではない、王族の印がついていない馬車に乗せて学院に急いだ。
 夜間に万が一セレスティノ様が出てこられても、すぐにお連れできるように。
 明かりを灯し、一晩待った。
 春が近くなったとは言え、まだまだ寒さは残る。
 けれど、セレスティノ様が殿下方の件でどれだけ傷ついているだろうと思うと、眠気も寒気もなにも感じなかった。

 翌朝。
 起床時間にもならない早朝の時間に、一人の生徒が小さなバッグを持って寮から出てきた。
 表情は暗く、ほっそりとしていた体つきは更に細さを増していた。

「セレスティノ・カレスティア様ですか?」
「――――はい」

 不自然にならないように彼を馬車の中に誘導する。
 馬車の中を見て一瞬驚いた様子だったら、それでも疑いもせずに馬車に乗り込んでいく。
 …駄目ですよ。そんなにあっさりと人を信用しちゃ。
 予定していた眠り薬を入れたセレスティノ様がお好きだというお茶を手渡し、飲み切るのを確認してから馬車を出した。

 途中、王都の一角で馬車を止める。
 中を確認すると、座席でクッションに埋もれながら、セレスティノ様はぐっすりと眠っていた。
 積んでいた荷物である箱を取り出し、中を確認する。
 ベッドと遜色ない箱。その中にセレスティノ様を抱き上げ、横たわらせた。
 ……軽い。軽すぎる。
 嘆息し、蓋を閉めた。空気穴は十分あるから問題はない。
 箱には緻密な装飾が施されている。
 これで、『王太子殿下への贈り物』が完成した。

 私は再び馬車を走らせる。
 王宮の敷地に入り、門を守る兵士に、ドーラン家から王太子殿下への贈り物を届けに来たと伝えれば、疑問も持たずに中に入れられる。
 そして、兵士の一人に手伝ってもらって、箱を慎重に馬車から降ろし、不自然にならによう殿下の居室を確認しながら運び入れた。

 私が部屋に着くと、護衛の騎士がドアをノックし、殿下を呼び出す。
 返答があり、騎士がドアを開けてから、箱を運び入れた。

「失礼いたします。ドーラン家から、婚姻のお祝いの品でございます」
「ああ。聞いている。サリムベルツに礼を伝えておく。ご苦労だった」
「は。それでは失礼いたします」

 ……無事、セレスティノ様を城に連れてくることができた。
 誰にも知られていない。
 あとは馬車を家に戻しつつ、変装を解いて再び城に登城する。セレスティノ様の荷物も一応持ち込んだ。
 ……私がセレスティノ様にお会いできるのは、いつになるのだろうな。





◆side:レイナルド

 そっと蓋を開けた。

「…セレス」

 ふかふかな寝具に包まれて、小さくなって眠るセレスが目の前にいる。
 顔色が悪い。
 そっと抱き上げたが、その軽さに唇を噛んでしまう。

「もう離さない……約束だ、セレス」

 寝室の奥の隠し部屋を開けた。
 セレスを迎え入れると決めたときから用意していた部屋だ。
 朝陽が入り込む明るい室内に置かれたベッドに、眠るセレスを横たえる。

「セレス……起きて」

 早く、俺にその瞳を見せて。




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