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愛しい人を手に入れたい二人の話

最愛のことしか見ていない卒業式

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◆side:レイナルド

 卒業後すぐに婚姻式を挙げるために、婚約式の後はその準備に追われた。
 その中で、セレスにつけている侍従から、セレスがあまり食事を摂らなくなったと報告を受けた。
 不安に思いながらも、セレスの好物を食事に用意するよう指示を出し、日々の準備に忙殺されていく。

「…セレス、卒業したらどうしよう、って考えてるんだろう」

 アベルがそんな中でポツリと零した。
 俺達は一緒にいたい、傍にいたいと伝えては来たが、はっきりとした婚姻の約束もしていない。その上、俺とアベルは婚約をしたのだ。セレスの中ではもう自分は一人だと思っているかもしれない。

「カレスティアに戻る…?」
「だとしたら、卒業の翌日には領にむけて旅立つかも」
「いや、だが、馬車の手配もしていない。男爵にも馬車の用意はいらないと言ってあるし、そもそもセレスが戻るとも思ってないだろう」
「でも、もしかしたら、が、あるかもしれないでしょ。ちゃんと考えておかないと」
「……そうだな」

 頼れるのは一人しかいない。
 俺やアベルが表立って行動することはできないのだから。





 卒業式当日。
 俺もアベルも久しぶりの制服に身を包み、王家の馬車で二人で学院に戻った。
 広間に足を踏み入れると、すぐに「おめでとうございます」と声がかかる。
 その声に軽く手をあげて応えながら、セレスの姿を探した。
 席はクラス毎に分かれて設置されているから、見つけ出すのは簡単だったのだが、十日ほどみないだけで、かなり痩せたのがわかる。
 顔色も優れず、下を向き、俯く姿に、胸が締め付けられるようだった。

「…セレス」

 傍らのアベルも周囲に聞こえないほどの小さな声を出した。
 確かに食事の量が減っていると報告は受けていたけれど。
 これは駄目だと、警鐘が頭の中で鳴り響いた。

 式が始まってからも、セレスを何度も見てしまう。
 壇上に上がり答辞を読み上げる間も、セレスから視線を外すことができない。
 セレスは全く顔をあげず、俺を見ない。
 まるで、全てを拒絶してるようだった。





◆side:アベルシス

 待ち望んでいたセレスとの何日かぶりの再会は、僕が思っていたようなものにはならなかった。
 仕方のない事とは言え、僕たちの周りには婚約を祝福する人で溢れ、個人的な話などなに一つもできない状況だった。それに加え、セレスも僕たちと目を合わせない。
 …こんなの、再会だなんて言えない。
 俯いたセレスからは拒絶の雰囲気すら伝わってくる。

 結局式が始まる前はどうにも自由にならず、式が始まってからは度々セレスを盗み見ていた。
 一向に上がらない顔。
 それは、レイが答辞を読むのに壇上に上がってからもだ。
 遠くてもセレスの肩が少し揺れているのがわかる。
 あの子が泣いている…と思っても、今歩みよるわけにいかない。

 あまり何度も後ろを振り返るわけにもいかず、でもセレスの様子が気になって、何度も何度も見てしまうのに、式が終わるまでセレスと目が合うことはなかった。
 それは壇上に上がったレイも同じだったようで、席に戻ると無言で僕に首を振った。

 せめて式が終わってから話を…と思ったけれど、終わったら終わったで、退場は僕たちのクラスから。
 しかも、一番最初に、移動させられて。
 外でセレスが出てくるのを待つ時間もないまま、王家の馬車に押し込まれ、卒業記念パーティーのための準備と言われ城に連れていかれた。

「セレス、まずいでしょ」
「…ああ。思っていた以上に酷い状態になってる」
「パーティーには来ないよね」
「来ないだろうな」
「……まさかと思うけど、今晩中に寮を出るなんてこと、ないよね?」

 僕がそう言うと、レイははっとした顔で頷いた。

「サリムベルツにすぐに待機するよう伝える。……セレスがいつ寮を出ても確実に連れてこないと」

 僕とレイは頷きあった。
 セレス、ごめんね。
 もう少し、もう少しだから。

 だからどうか、傷つけた僕たちを許してほしい――――



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