【完結】ぼくは伴侶たちから溺愛されてます。とても大好きなので、子供を産むことを決めました。

ゆずは

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愛しい人を手に入れたい二人の話

婚約発表後に落ち込む十八歳の冬

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◆side:レイナルド

 セレスを抱かなくなっても、抱きしめたりはしていた。
 セレスは時々俺を不安そうに見てくるが、それには笑顔を見せて「好きだよ」と伝える。
 口付けてしまえば抱きたくなる。
 セレスを泣かせるまで腹の奥に子種を注ぎたくなる。
 だから、卒業を二週間後に控えたころから、軽い口付けも自分の中で禁止にした。
 十日前には婚約発表の準備もあり、俺もアベルもセレスの傍にいられなくなる。
 そのことを伝えれば、セレスは泣きそうな顔で俺を見て、口付けていいかと聞いてきた。
 その口付けは軽く触れ合わせるだけのものだった。
 もし俺から返そうとしたら、俺の理性はあっというまにどこかに飛んで行ってしまう。
 なんとか理性を総動員してセレスからの口付けを受け入れ、ベッドに促したのだが。どうしても、抱きしめて眠りたかった。どうしてもセレスを近くに感じたかった。

 婚約発表を目前にして、アベルも城に入った。
 そこで確認されるのは、確実な花籠だ。
 俺と、父と、宮廷医であるサリムベルツが、アベルの花籠を確認する。
 アベルは頬を染め、恥じらいを見せながら服をはだけさせ、下腹部を晒しながら用意されていたベッドに横たわった。
 ……眩暈がしそうだ。
 誰だこいつ。

「…確かに花籠でございます、陛下」
「うむ」

 父がそこまで近づかなくてもいいんじゃないかって距離まで近づき、アベルの下腹を見る。

「……そうだな。これならば十分子を成せるだろう」

 父がアベルの下腹に触れようとしたとき、サリムベルツから俺に視線を流された。

「――――父上、私の花嫁です。お触れになりませんように」
「う、む。そうだったな」

 慌てて手を引いた父上。
 …危ない。
 まさか、息子の花嫁にまで手をだそうとするなんて。
 それほど溜まっているというなら、さっさと側室でも愛妾でも娶ればいいのに。

「アベル、もう大丈夫だ」
「……はい」

 僅かに震えるアベルの背に手をあてて起き上がらせ、父上から見えないよう俺の体で壁を作ると、べっと赤い舌を出してニヤリと笑う。
 ……ああ、大丈夫。アベルだ。

「では父上、三日後、アベルを私の婚約者として発表いたしますので」
「ああ、わかった。式典の準備を急がせよう。婚姻はいつがいい。半年後か、一年後か」
「卒業したらすぐに」
「……随分と急ぐのだな?」
「今すぐ欲しくて仕方ないのですよ。卒業して、そうですね。二日か三日か…。今から婚約式と婚姻式の準備に入れば間に合いますよね」

 ニコリと笑って父上に言えば、焦りながらも頷いたから、それでいい。

「では、アベルと俺は退室します。これからアベルの衣装合わせもしなければなりませんから」
「いいだろう。今夜は三人で食事を摂ろう」
「ええ。では、失礼いたします。サリムベルツ殿、確認感謝する」
「私の職務ですから」

 アベルの腰に手を回し、その部屋を出た。

「……陛下って色狂い?」
「まだ廊下だ。滅多なことを口に出すな」
「ま、そうだね。……まさか、僕に手を出そうとするとは思って無くてさ」
「だから」
「うんうん。じゃ、恥じらいのある令息を演じますから。レイもボロをださないでよね」
「わかってるさ」

 愛し合っているのだということを回りに見せつけながら、ゆったりと廊下を進んだ。





◆side:アベルシス

 そもそもだ。
 婚姻式まで一週間以上あるとは言え、花嫁の衣装を一から作り上げるというのはとても大変なことだ。
 けれどレイはそれをごり押しし、なおかつ婚約式の衣装まで間に合わせろと注文をかけた。
 …まあ、確かに、間に合わせてもらわなきゃならないんだけど、ごめんねぇと言いたくなる。

 婚約式はある程度の貴族を招き神殿で行う。
 神官長の前で婚姻を誓い、集った貴族たちに対して、王太子の婚約者としてお披露目される。
 …婚約式では花籠の披露目はない。
 あるのは花嫁のお披露目だけ。

「まさか……アベルシス様が花籠持ちだったなんて……」
「ベニート公爵家は次男が継ぐことになるのか」

 なんて話は、当人に聞こえないようにこそこそ話してもらいたい。
 ベニート家の僕の家族も使用人たちも、僕が「花籠持ち」で王太子の婚約者に内定していたことは知っていた。そうじゃなきゃ、宮廷医が態々診察に定期的に来るなんてことないからね。
 家はちゃんと弟が継いでくれるだろう。
 ま、継げないなら継げないで、別にいいんだけど。領地を持ってるわけでもないし。事業は他家に任せても、王家預りにしてもいい。王家には僕がいるんだから。

 筒が無く婚約式は終わり、広場に面したバルコニーから、お祝いで集まってくれた民に二人で手を振る。
 これで、お披露目は終わり。
 今頃、各貴族たちの家で、王太子の婚約者が僕だということが情報が流れていることだろう。





「……セレスの耳にも入るよな」
「そりゃ入るでしょ」
「……セレス、傷つくだろうか……」
「『なんで教えてくれなかったの』って、泣くかもしれない」

 夜、僕にあてがわれている部屋で、二人で落ち込んでいた。
 セレスに会いたい。
 セレスの声を聴きたい。

「駄目だ…セレスが足りない」
「セレスの頬を撫でながら抱きしめたい……」
「………やっぱり、アベルと婚約することを言うべきだったんじゃ…。他人から言われる方がショックを受けないか……」
「うん……。そうだね。僕もちょっとそこんとこは後悔してる……」

 自分たちからちゃんと言葉で伝えればよかったんだ。
 僕たちはその選択をしなかった。
 気持ちの上では婚約なんて意味のないことだと思っていたし。

 でも、セレスは。
 セレスにとっては、見えているものが事実で。

 けど、今後悔しても遅い。
 大丈夫と信じているしかないんだ。



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