39 / 54
愛しい人を手に入れたい二人の話
婚約発表後に落ち込む十八歳の冬
しおりを挟む◆side:レイナルド
セレスを抱かなくなっても、抱きしめたりはしていた。
セレスは時々俺を不安そうに見てくるが、それには笑顔を見せて「好きだよ」と伝える。
口付けてしまえば抱きたくなる。
セレスを泣かせるまで腹の奥に子種を注ぎたくなる。
だから、卒業を二週間後に控えたころから、軽い口付けも自分の中で禁止にした。
十日前には婚約発表の準備もあり、俺もアベルもセレスの傍にいられなくなる。
そのことを伝えれば、セレスは泣きそうな顔で俺を見て、口付けていいかと聞いてきた。
その口付けは軽く触れ合わせるだけのものだった。
もし俺から返そうとしたら、俺の理性はあっというまにどこかに飛んで行ってしまう。
なんとか理性を総動員してセレスからの口付けを受け入れ、ベッドに促したのだが。どうしても、抱きしめて眠りたかった。どうしてもセレスを近くに感じたかった。
婚約発表を目前にして、アベルも城に入った。
そこで確認されるのは、確実な花籠だ。
俺と、父と、宮廷医であるサリムベルツが、アベルの花籠を確認する。
アベルは頬を染め、恥じらいを見せながら服をはだけさせ、下腹部を晒しながら用意されていたベッドに横たわった。
……眩暈がしそうだ。
誰だこいつ。
「…確かに花籠でございます、陛下」
「うむ」
父がそこまで近づかなくてもいいんじゃないかって距離まで近づき、アベルの下腹を見る。
「……そうだな。これならば十分子を成せるだろう」
父がアベルの下腹に触れようとしたとき、サリムベルツから俺に視線を流された。
「――――父上、私の花嫁です。お触れになりませんように」
「う、む。そうだったな」
慌てて手を引いた父上。
…危ない。
まさか、息子の花嫁にまで手をだそうとするなんて。
それほど溜まっているというなら、さっさと側室でも愛妾でも娶ればいいのに。
「アベル、もう大丈夫だ」
「……はい」
僅かに震えるアベルの背に手をあてて起き上がらせ、父上から見えないよう俺の体で壁を作ると、べっと赤い舌を出してニヤリと笑う。
……ああ、大丈夫。アベルだ。
「では父上、三日後、アベルを私の婚約者として発表いたしますので」
「ああ、わかった。式典の準備を急がせよう。婚姻はいつがいい。半年後か、一年後か」
「卒業したらすぐに」
「……随分と急ぐのだな?」
「今すぐ欲しくて仕方ないのですよ。卒業して、そうですね。二日か三日か…。今から婚約式と婚姻式の準備に入れば間に合いますよね」
ニコリと笑って父上に言えば、焦りながらも頷いたから、それでいい。
「では、アベルと俺は退室します。これからアベルの衣装合わせもしなければなりませんから」
「いいだろう。今夜は三人で食事を摂ろう」
「ええ。では、失礼いたします。サリムベルツ殿、確認感謝する」
「私の職務ですから」
アベルの腰に手を回し、その部屋を出た。
「……陛下って色狂い?」
「まだ廊下だ。滅多なことを口に出すな」
「ま、そうだね。……まさか、僕に手を出そうとするとは思って無くてさ」
「だから」
「うんうん。じゃ、恥じらいのある令息を演じますから。レイもボロをださないでよね」
「わかってるさ」
愛し合っているのだということを回りに見せつけながら、ゆったりと廊下を進んだ。
◆side:アベルシス
そもそもだ。
婚姻式まで一週間以上あるとは言え、花嫁の衣装を一から作り上げるというのはとても大変なことだ。
けれどレイはそれをごり押しし、なおかつ婚約式の衣装まで間に合わせろと注文をかけた。
…まあ、確かに、間に合わせてもらわなきゃならないんだけど、ごめんねぇと言いたくなる。
婚約式はある程度の貴族を招き神殿で行う。
神官長の前で婚姻を誓い、集った貴族たちに対して、王太子の婚約者としてお披露目される。
…婚約式では花籠の披露目はない。
あるのは花嫁のお披露目だけ。
「まさか……アベルシス様が花籠持ちだったなんて……」
「ベニート公爵家は次男が継ぐことになるのか」
なんて話は、当人に聞こえないようにこそこそ話してもらいたい。
ベニート家の僕の家族も使用人たちも、僕が「花籠持ち」で王太子の婚約者に内定していたことは知っていた。そうじゃなきゃ、宮廷医が態々診察に定期的に来るなんてことないからね。
家はちゃんと弟が継いでくれるだろう。
ま、継げないなら継げないで、別にいいんだけど。領地を持ってるわけでもないし。事業は他家に任せても、王家預りにしてもいい。王家には僕がいるんだから。
筒が無く婚約式は終わり、広場に面したバルコニーから、お祝いで集まってくれた民に二人で手を振る。
これで、お披露目は終わり。
今頃、各貴族たちの家で、王太子の婚約者が僕だということが情報が流れていることだろう。
「……セレスの耳にも入るよな」
「そりゃ入るでしょ」
「……セレス、傷つくだろうか……」
「『なんで教えてくれなかったの』って、泣くかもしれない」
夜、僕にあてがわれている部屋で、二人で落ち込んでいた。
セレスに会いたい。
セレスの声を聴きたい。
「駄目だ…セレスが足りない」
「セレスの頬を撫でながら抱きしめたい……」
「………やっぱり、アベルと婚約することを言うべきだったんじゃ…。他人から言われる方がショックを受けないか……」
「うん……。そうだね。僕もちょっとそこんとこは後悔してる……」
自分たちからちゃんと言葉で伝えればよかったんだ。
僕たちはその選択をしなかった。
気持ちの上では婚約なんて意味のないことだと思っていたし。
でも、セレスは。
セレスにとっては、見えているものが事実で。
けど、今後悔しても遅い。
大丈夫と信じているしかないんだ。
52
お気に入りに追加
1,949
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる