32 / 54
愛しい人を手に入れたい二人の話
最愛を傷つけた相手に容赦はしない十八歳の春
しおりを挟む◆side:アベルシス
僕とレイに外せない用事ができた日。
夕方の時間にいきなりレイが僕のところに来た。
当然、屋敷の者たちは右に左にあわただしく動いたけれど、それを全く気にせず、レイは僕を部屋に押し込み、あっさりと防音結界を張った。
「やられた。ファニート・アルムニアが、自分が俺の婚約者になるからとセレスに言ったらしい」
「は?」
「俺とお前に纏わりついているそうだ。セレスが」
「逆じゃなくて?何言ってくれてるの、そいつ。同じクラスだったよね」
「ああ。…この件で、今から侯爵家に出向く。公表はしないが、お前が婚約者であることを伝えて、二度と学院に来れないようにするが……いいか?」
「いいもなにも、さっさとしないと。セレス、絶対傷ついてるよ?今も泣いてるかも……。というか、もう僕も行くし。圧を与えればいいんでしょ?『レイの婚約者は僕なんですが、なんでそんな嘘を吹聴してるのか』って。侯爵も同席してもらわないとね」
「それなら助かる」
それからの行動も早かった。
お茶を……と用意していた侍女に声をかけることなく、レイが乗ってきた王族専用の馬車でアルムニア侯爵邸に向かう。
何かあったらまずいって、協力者を得た途端これだ。…今までだってもしかしたらこういうことあったかもしれない。
「レイナルド殿下!」
前触れも出さずに侯爵邸に出向いた僕達を、むかつく笑顔で出迎えたファニート。
「アベルシス様まで…!僕に会いに来てくださったんですか?嬉しいです!」
て叫ぶファニートの後ろから、喜色満面な侯爵も現れて礼をされる。
そのまま案内された客間。
いつまでもニコニコしている親子。
「殿下、ベニート様。本日はどのようなご用件で?」
前触れも出さなかったことを咎めることもなく。
親も頭の中が花畑なのか。
「婚約のことだ」
レイがそう短く言っただけで、花畑親子の顔がみるみる綻んでいく。
馬鹿じゃないのか。
婚約するって話なら、なんで僕がここにいる。そんなこと、考えればわかるだろうに。
「今日、ファニート殿は学院で私との婚約のことを話したそうだが」
「ええ。僕は殿下の婚約者候補筆頭です。花籠ももう顕れています。ですから、僕が選ばれないはずはありません。あの身分が低いというのに弁えないカレスティアには僕から釘を刺しておきました。もう殿下とアベルシス様が気になさることはありません。僕はすぐにでも殿下のお子を――――」
「いつ、私がお前を婚約者に据えると言った?」
「……え?」
「私の婚約者はすでに決まっている。事情があって公表されていないが。お前がやっていることは王族を侮辱しているのと同じだ」
花畑親子の顔色が、あからさまに青褪めていった。
◆side:レイナルド
反吐が出る。
なんでこんなやつが高位貴族なんだろう。
嫡男はまともな男であることを願うばかりだ。
「で、ですが、殿下、僕より正妃にむいている人物がいると思えません…!知識も、魔力も、見た目だって……!」
「だ、そうだが。アベル」
「……え?」
「決まってもいないことを周囲に吹聴して回るのが、正妃の、いずれは王妃になる者の器とは思えませんね。…知識、魔力、そして容姿ですか。正妃になる条件がそれだけだというのなら、正妃になれる者は大勢いますね」
毅然とした態度。
本当にこいつは演技が上手い。
ゆったりと足を組む仕草が、明らかに自分が上位であると、親子に示している。
「ファニート・アルムニア。お前の行動は王族ばかりでなく、公爵家も侮辱している行為だということを自覚しているのかな」
冷たい氷を思わせる微笑み。
静かに漏れ出る魔力で、室温も下がっている。
「……まさか」
気づいたのは侯爵が先、か。
「こちらにも色々事情がありましてね。公表はまだ先ですが、レイナルド王太子殿下の婚約者には、私――――アベルシス・ベニートが内定しております。……それこそ、私であれば、先程ファニート・アルムニアが示した条件全てをクリアしていると思いますけれど。大体、そんな条件だけで選ばれるはずがないでしょう。私は殿下からの揺ぎ無い信頼を得ています。…他者を蹴落とすことしかできないような者は、王の伴侶に相応しくない。そう、思いませんか?アルムニア侯爵」
アベルは俺よりもよく口が回るな。
怒鳴るわけでも、声を荒げるわけでもなく。
静かに、諭すように。
冷気をまとわせて。
「お、思います。はい、そうです、正妃に相応しくない、と――――」
ガタガタと震え始めた侯爵。
ファニートの方はすでに茫然自失か。
…ベニート公爵家は権力の強い家だ。侯爵家としても、ベニートに喧嘩を売るつもりはないのだろう。
「カレスティアは私とレイの幼馴染という関係もあります。その子を貶めるということも、どういうことか、ご理解いただけますね?」
「は、はい……!」
「このようなことを吹聴して回った子息には、私はもうかかわりたくもない。侯爵、どうされますか?」
「ファニートは除籍し、王都から離れた場所にある修道院にいれます…!ですから、どうか、どうか……!」
「……わかりました。その修道院で自分が引き起こしたことをよく理解し、償って生きていくことを望みます」
「は……はい!」
二コリと微笑むアベルに、侯爵はテーブルに額をこすり付ける勢いで頭を下げていた。
「では、解決したので戻りましょうか。レイ」
「ああ」
……完全にアベルが全部終わらせた。
形式的に手を出してきたアベルの手に、俺は立ち上がって手を添える。
その瞬間に見せたひきつった笑みは、おそらく誰にも見られてはいない。
「アルムニア侯爵」
「は、はいっ」
「アベルが私の婚約者に内定していることは、誰にも漏らさぬよう。情報が漏れて万が一私の最愛に害が及ぶことがあれば――――」
「は……はい!!絶対に他言致しません……!!」
侯爵は何度も頭を下げてきた。
「それでは失礼する」
そう言い残し、二人で侯爵邸を出た。
――――その日のうちに、ファニート・アルムニアの侯爵家からの除籍申請書と、学院への退学届けが出された。
52
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
BLゲームのお助けキャラに転生し壁を満喫していましたが、今回は俺も狙われています。
mana.
BL
目が覚めたらやり込んでいたゲームの世界だった。
…と、いうのが流行っているのは知っていた。
うんうん、俺もハマっていたからね。
でもまさか自分もそうなるとは思わなかったよ。
リーマン腐男子がBLゲームの異世界に転生し、何度も人生をやり直しながら主人公の幼馴染兼お助けキャラとして腐男子の壁生活を漫喫していたが、前回のバッドエンドをきっかけで今回の人生に異変が起きる。
*****************
一気に書き上げた作品なのでツッコミどころ満載ですが、目を瞑ってやって下さいませ。
今回もR18シーンは☆を入れております。
写真は前に撮った写真です。
主人公にはなりません
negi
BL
俺は異世界転生したらしい。
しかも転生先は俺が生前プレイしていた18禁BLゲームの主人公。
主人公なんて嫌だ!ゲームの通りにならないようにするためにはどうしたらいい?
攻略対象者と出会わないようにしたいけど本当に会わずに済むものなのか?
本編完結しました。お気に入りもありがとうございます!
おまけ更新しました。攻め視点の後日談になりました。
初心者、初投稿です。読んだことあるような内容かもしれませんが、あたたかい目でみてもらえると嬉しいです。少しでも楽しんでもらえたらもっと嬉しいです。
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
婚約破棄から始まる人生
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
第二王子との婚約が破棄された。なんでも王子殿下と親しくしていた女性が懐妊したので責任を取りたいからだという。もともと気持ちを伴う婚約ではなかったから、怒りや悲しみといったものはない。そんなわたしに詫びたいと現れたのは、元婚約者の兄である王太子殿下だった。※他サイトにも掲載
[王太子殿下 × 貧乏貴族の子息 / BL / R18]
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる