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愛しい人を手に入れたい二人の話
周囲が騒がしくなり頭を悩ませる十八歳の春
しおりを挟む◆side:レイナルド
花籠は十歳から二十歳の間で現出する。
だから、学院に入学する前に花籠持ちだとわかる者もいるが、大概の者は学院在学中に現出する。
年齢は目安でしかない。
現出したからと言って、すぐに身籠れるかと言えばそうでもなく。
鮮やかなピンク色に定着していなければ、揺籠の機能も育っていないということになる。
俺達は常にセレスの体調に気を付けながら、一緒に風呂に入ったり着替えを手伝ったりと、不自然にならないように下腹部を確認していた。……肌を見ることで余計な欲が勃ち上がったが、それは意思の力で抑え込んだ。
あまりにも煽られすぎた夜は、セレスを深く眠らせ、可愛らしい小さな手に俺達の凶悪なほど育ったペニスを握らせて扱いたり、柔らかな太腿の間に強直を押し込んで腰を振ったりもしたが。些細なことだ。
とにかくセレスを大事に、大事にしてきた。
けれど、花籠が現出する兆候はなく、最高学年になってしまった。
一年後にはセレスを王宮に囲い込む。その日が待ち遠しい。
春になれば早々に俺とアベルは成人年齢を迎える。
それからだった。
父にしろ、重鎮たちにしろ、婚約者についての言及がうるさくなった。
勝手に婚約者候補のリストまで作ってくる。
当然、そのリストには伯爵以上の子息の名前しかなく、男爵家は含まれていない。
俺がセレスと親しくしていることはわかっているだろうに、「婚約者に」という声は全く上がらなかった。…どうせ、正妃を娶った後にでも「愛妾に」と薦めてくるくるのだろう。あの茶会の場に子爵家も男爵家も招かれていたのはそいういう意味だ。
……反吐が出る。あの汚らしい目にセレスの肌を晒すことなど、絶対にしないというのに。
そんな王城での反応に辟易していたが、学院でもそれが続くとは思っていなかった。
「殿下、殿下の婚約者候補にしていただいたこと、大変嬉しく思います。殿下に選んでいただけるよう、これまで以上に精進いたしますね」
「……ええ」
身に着けた「王族らしい笑顔」でひたすら答える。
顔の筋肉がどうにかなりそうだ。
アベルも同じようなもので、公爵家としても嫡男に婚約者が決まっていない現状にピリピリしているようだ。
「アベルシス様は将来殿下の側近になられるのですよね?」
「……まだ未定ですよ」
「アベルシス様でしたら、決まったようなものではないですか!」
「……そうですか?」
アベルの笑顔も張り付いてきた。
側近と言えば側近だな。正妃という一番の側近になるんだから。
ああ、はやくセレスに会いたい。
今日は顔を揉んでもらう。
あと、背中と腰と。
あの、小さなあたたかい手で。
◆side:アベルシス
最上学年ってこんなに煩わしいものだったのかと、嘆息してしまう。
「セレス、図書館に行こう」
「レイ、アベル」
寮部屋をどうにかできても、家柄重視のクラス編成では、セレスと同じクラスになるのは無理だった。
だから、放課後は癒しを求めてセレスを図書館に誘い、そのまま寮部屋に帰るのだけど。
その日はなんだか雰囲気がいつもよりとげとげしかった。
今までもセレスを迎えに来るたびに視線は感じていたけれど、ここまであからさまなものではなかった。
レイを見たら頷かれたから、レイも感じているんだろう。
ひそひそとした悪意。
これは恐らく、僕たちがセレスを贔屓していることを快く思わない感情だ。
「んー、今日はね、ちょっと数術でわからないところがあって」
「ああ、いいよ。セレスは俺たちが教えればすぐに覚えるだろ?」
「うん」
セレスはいつも通りだけど。
この五年間で友達を作らせないようにしてきたのは僕たちだけど。
それでもこの視線は、許容できない。
僕たちの大事なセレスを傷つける者は、絶対に許さない。
その日の夜は、寮部屋に泊まった。
セレスはすっかり夢の中だ。
レイと僕でセレスを挟んで、髪や頬をいじりながら今後の予定をすり合わせる。
「セレスに何かがあってからでは遅いからな…」
「セレスのクラスに誰か一人入れておこうよ。別にセレスを守らなくてもいい。僕たちとセレスの関係を知らなくてもいい。ただ、クラスの中で何があった、とか、何をいわれていたとか、そんな報告をしてくれる人」
「そんな簡単にいかないだろ…。……ああ、いや、もしかしたらうまくいくかもしれない」
レイの言葉にちょっと驚いた。
信頼できそうな人、あのクラスにいたっけ?
「ドーランの甥が同じクラスにいたはずだ」
「え。知らなかった」
「ドーランに協力を依頼しよう。なんとかしてくれるだろ。あの男なら」
「そうだね。彼なら、いいようにしてくれるような気がする」
なにせ、僕に刻む花籠を任せている人物だから。僕達がしようとしていることも、全て納得して協力を得ている人だ。
彼にはレイから連絡を入れてもらうことにした。
結果としては、心よく了承してくれて、僕達のところに彼の甥だという生徒が密かに情報を流してくれるようになった。
セレスに対してのクラスメイトからの中傷も。
クラスの中で言われているセレスの噂話も。
そして――――
ファニート・アルムニアがしでかしたことも、しっかり僕達の耳に入ることになったんだ。
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