上 下
31 / 54
愛しい人を手に入れたい二人の話

周囲が騒がしくなり頭を悩ませる十八歳の春

しおりを挟む



◆side:レイナルド

 花籠は十歳から二十歳の間で現出する。
 だから、学院に入学する前に花籠持ちだとわかる者もいるが、大概の者は学院在学中に現出する。
 年齢は目安でしかない。
 現出したからと言って、すぐに身籠れるかと言えばそうでもなく。
 鮮やかなピンク色に定着していなければ、揺籠の機能も育っていないということになる。
 俺達は常にセレスの体調に気を付けながら、一緒に風呂に入ったり着替えを手伝ったりと、不自然にならないように下腹部を確認していた。……肌を見ることで余計な欲が勃ち上がったが、それは意思の力で抑え込んだ。
 あまりにも煽られすぎた夜は、セレスを深く眠らせ、可愛らしい小さな手に俺達の凶悪なほど育ったペニスを握らせて扱いたり、柔らかな太腿の間に強直を押し込んで腰を振ったりもしたが。些細なことだ。
 とにかくセレスを大事に、大事にしてきた。
 けれど、花籠が現出する兆候はなく、最高学年になってしまった。
 一年後にはセレスを王宮に囲い込む。その日が待ち遠しい。

 春になれば早々に俺とアベルは成人年齢を迎える。
 それからだった。
 父にしろ、重鎮たちにしろ、婚約者についての言及がうるさくなった。
 勝手に婚約者候補のリストまで作ってくる。
 当然、そのリストには伯爵以上の子息の名前しかなく、男爵家は含まれていない。
 俺がセレスと親しくしていることはわかっているだろうに、「婚約者に」という声は全く上がらなかった。…どうせ、正妃を娶った後にでも「愛妾に」と薦めてくるくるのだろう。あの茶会の場に子爵家も男爵家も招かれていたのはそいういう意味だ。
 ……反吐が出る。あの汚らしい目にセレスの肌を晒すことなど、絶対にしないというのに。

 そんな王城での反応に辟易していたが、学院でもそれが続くとは思っていなかった。

「殿下、殿下の婚約者候補にしていただいたこと、大変嬉しく思います。殿下に選んでいただけるよう、これまで以上に精進いたしますね」
「……ええ」

 身に着けた「王族らしい笑顔」でひたすら答える。
 顔の筋肉がどうにかなりそうだ。
 アベルも同じようなもので、公爵家としても嫡男に婚約者が決まっていない現状にピリピリしているようだ。

「アベルシス様は将来殿下の側近になられるのですよね?」
「……まだ未定ですよ」
「アベルシス様でしたら、決まったようなものではないですか!」
「……そうですか?」

 アベルの笑顔も張り付いてきた。
 側近と言えば側近だな。正妃という一番の側近になるんだから。
 ああ、はやくセレスに会いたい。
 今日は顔を揉んでもらう。
 あと、背中と腰と。
 あの、小さなあたたかい手で。





◆side:アベルシス

 最上学年ってこんなに煩わしいものだったのかと、嘆息してしまう。

「セレス、図書館に行こう」
「レイ、アベル」

 寮部屋をどうにかできても、家柄重視のクラス編成では、セレスと同じクラスになるのは無理だった。
 だから、放課後は癒しを求めてセレスを図書館に誘い、そのまま寮部屋に帰るのだけど。

 その日はなんだか雰囲気がいつもよりとげとげしかった。
 今までもセレスを迎えに来るたびに視線は感じていたけれど、ここまであからさまなものではなかった。
 レイを見たら頷かれたから、レイも感じているんだろう。
 ひそひそとした悪意。
 これは恐らく、僕たちがセレスを贔屓していることを快く思わない感情だ。

「んー、今日はね、ちょっと数術でわからないところがあって」
「ああ、いいよ。セレスは俺たちが教えればすぐに覚えるだろ?」
「うん」

 セレスはいつも通りだけど。
 この五年間で友達を作らせないようにしてきたのは僕たちだけど。
 それでもこの視線は、許容できない。
 僕たちの大事なセレスを傷つける者は、絶対に許さない。




 その日の夜は、寮部屋に泊まった。
 セレスはすっかり夢の中だ。
 レイと僕でセレスを挟んで、髪や頬をいじりながら今後の予定をすり合わせる。

「セレスに何かがあってからでは遅いからな…」
「セレスのクラスに誰か一人入れておこうよ。別にセレスを守らなくてもいい。僕たちとセレスの関係を知らなくてもいい。ただ、クラスの中で何があった、とか、何をいわれていたとか、そんな報告をしてくれる人」
「そんな簡単にいかないだろ…。……ああ、いや、もしかしたらうまくいくかもしれない」

 レイの言葉にちょっと驚いた。
 信頼できそうな人、あのクラスにいたっけ?

「ドーランの甥が同じクラスにいたはずだ」
「え。知らなかった」
「ドーランに協力を依頼しよう。なんとかしてくれるだろ。あの男なら」
「そうだね。彼なら、いいようにしてくれるような気がする」

 なにせ、僕に刻む花籠を任せている人物だから。僕達がしようとしていることも、全て納得して協力を得ている人だ。
 彼にはレイから連絡を入れてもらうことにした。

 結果としては、心よく了承してくれて、僕達のところに彼の甥だという生徒が密かに情報を流してくれるようになった。
 セレスに対してのクラスメイトからの中傷も。
 クラスの中で言われているセレスの噂話も。

 そして――――

 ファニート・アルムニアがしでかしたことも、しっかり僕達の耳に入ることになったんだ。 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【本編完結】ゲイバレ御曹司 ~ハッテン場のゲイバーで鉢合わせちゃった義弟に脅されています~

衣草 薫
BL
大企業の御曹司である怜一郎はヤケを起こして人生で初めてゲイバーへやって来た。仮面で顔を隠すのがルールのその店で理想的な男性と出会い、夢のようなセックスをした。……ところが仮面を外すとその男は妹の婿の龍之介であった。 親の会社の跡取りの座を巡りライバル関係にある義弟の龍之介に「ハッテン場にいたことを両親にバラされたくなければ……」と脅迫され……!? セックスシーンありの話には「※」 ハレンチなシーンありの話には「☆」をつけてあります。

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

主人公にはなりません

negi
BL
俺は異世界転生したらしい。 しかも転生先は俺が生前プレイしていた18禁BLゲームの主人公。 主人公なんて嫌だ!ゲームの通りにならないようにするためにはどうしたらいい? 攻略対象者と出会わないようにしたいけど本当に会わずに済むものなのか? 本編完結しました。お気に入りもありがとうございます! おまけ更新しました。攻め視点の後日談になりました。 初心者、初投稿です。読んだことあるような内容かもしれませんが、あたたかい目でみてもらえると嬉しいです。少しでも楽しんでもらえたらもっと嬉しいです。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで
BL
塔野 匡(ただし)はバイトと部活に明け暮れる大学生。だがある日目覚めると、知らない豪奢な部屋で寝ていて、自分は第四王子ユールになっていた。 これはいったいどういうことだ。戻れることなら戻りたいが、それよりなにより義兄ガレルの行動が完璧にユールをロックオンしていることに気づいた匡。 これは、どうにかしないと尻を掘られる! けれど外堀が固められすぎてて逃げられないぞ、どうする!? というようなお話です。 剣と魔法のファンタジー世界ですが、世界観詰めてないので、ふんわりニュアンスでお読みください。 えっちは後半。最初は無理矢理要素ありますが、のちにラブラブになります。

処理中です...