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愛しい人を手に入れたい二人の話
学院長にゴリ押しをする入学直前の十一歳児
しおりを挟む◆side:アベルシス
セレスの前髪を少し伸ばすようにした。
可愛いくりくりの瞳を周りに見せたくない。
次の春の季節から僕たち三人は貴族学院に通うことになる。
カレスティア領から王都までは馬車で五日間くらいはかかってしまうから、ちょっと早めに男爵領を出るように、とは伝えている。
「ぼく、寮だよね。どんなとこだろ?」
学院の資料を見ながら、セレスが僕たちに不安そうな目を向けてきた。
「レイとアベルはお家から通うんだよね…?」
「まあ…そうだな。城からそれほど離れていないし」
「僕もだね。色々問題があるから、寮には入らないかなぁ」
「そっか……。ぼく、レイとアベルと、一緒のお部屋が良かったなぁ……」
寮の部屋。
あ、それは問題だ。
男爵の爵位も、多分学費以外の寄付金もそれほど出せないだろうから、セレスはよくて二人部屋か、下手したら四人部屋になる。
…そんな部屋になったら、同居人に犯されるの間違いない。それはまずい。
ちらりとレイを見たら頷かれた。
うん。断固として個室、いや、最上級の部屋を用意しなきゃ。
大浴場なんて使わせられない。
一応花籠持ち、花籠持ちと予測される学院生は、一般の浴室とは別の浴室が用意されてるはずだけど、それだって絶対じゃないんだ。
食事は学生食堂で摂ることはまあ、許容範囲内だけど、できれば部屋で熱いお茶とかも用意してあげたいし。
だから、なんとしても最上級の個室。
浴室・シャワー完備。ついでにベッドはでかいのに入れ替えて、いつでも三人で寝れるようにしなきゃ。
合鍵ももちろん手に入れないと。
はぁ。
あとは入学するだけと思っていたけど、案外やることが多い。
「一緒の部屋じゃないけど、僕はセレスと一緒に過ごしたいから毎日遊びに行くよ?」
「ほんと?」
「うん。もちろん。……セレスは、僕がいないほうがいい?」
「ううん!アベルがいてくれたら、ぼく、凄く嬉しい!」
「セレス、セレスっ、俺は!?俺はいらないのか!?」
「ふふ。レイだっていてくれなきゃ寂しいよ?」
「だよな~?」
ほっとしながらセレスを抱きしめて、頬にキスをするレイ。
あ、何抜け駆けしてんだよ。
僕もセレスを抱きしめて反対側の頬にキスをした。
可愛いセレスは笑いながら僕たちにお返しのキスをしてくれる。
……ああ、早くこのふっくらしてピンク色の可愛い唇を食べてしまいたい。
◆side:レイナルド
「学院長、忙しいところ済まない」
「レイナルド殿下。どうされました?入学に当たりなにか不手際でもございましたか?」
一応の前触れは出したと言っても、急な訪問には変わりない。
今季の卒業式を控えた忙しい時期というのは理解しているが、これはすぐに手配しなければならない案件だった。
「いや、今日は私のことではないんだ。寮に貴賓室があっただろう」
「ええ。王族の方々わ他国からの高貴な身分の方の為の寮室がございますね」
「その部屋は来期使用する予定は?」
「殿下が往生からご通学ということで、利用予定はございませんが」
「なら、丁度いい。その部屋をセレスティノ・カレスティアに割り当ててほしい」
「カレスティア……男爵のお子ですね?」
「ああ」
学院長は酷く訝しげな顔で俺を見てくる。
まあ、それはそうだろうな。
「彼は私とアベルシス・ベニートの幼馴染みなんだ」
「ベニート公爵家の嫡男様と…」
「ああ。私もアベルも王都住まいだから毎日の通学になるが、何かあったときは寮室を使用する。その際、手続きなく使える部屋がほしいのだ。幸い、セレスティノは私達と同学年だ。それに、これはまだ極秘ではあるが、将来は私とアベルの侍従にと考えている。寄付金は私とアベルで用意する。…学院で権力を行使するつもりはないが、それだけは飲んでくれないだろうか」
俺とアベルで考えた理由。
『俺とアベルの』と言ったことで、この学院長はどこまで深読みするだろうか。
もちろん、侍従になどするつもりはないが。
「なるほど…。しかしアベルシス様が花だとは。なるほどなるほど…。余計な詮索をされぬようまだ公表をしていないということですか」
学院長は一人で何かを納得し、うんうんと頷いている。
俺はそれに微笑むだけ。
否定も肯定もしない。
「ええ、わかりました。そのような大切な事情がお有りでしたら、殿下のお望みどおりにいたします」
「ありがとう、学院長。お願いついでなのだが、部屋に設置されているはずの寝具もこちらで用意したい。家具の搬入、撤去はすべてこちらで行うから心配しないでほしい。私達が卒業したときは、元の貴賓室に戻しておく」
「ええ、構いませんよ、殿下。では、その部屋の鍵も殿下とアベルシス様の分もご用意いたします」
「ああ、助かる」
……あまりにもとんとんと話が進んでしまった。
大丈夫なのか、この学院長。
もう少し人を疑ってもいいと思うのだが。
「では、学院長、時間を取らせてすまなかった」
「いいえ。春に貴方様がご入学されることを心待ちにしております」
俺とアベルにとっては都合がいいから、問題ない。
卒業してからテコ入れが必要かどうか判断すればいい。
これでセレスを他の誰かと同室にさせることは避けられた。
風呂も他人とは別。
今までより近くにいるようになるセレス。
ああ……楽しみだ。
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