28 / 54
愛しい人を手に入れたい二人の話
男爵に全てを暴露し許しを請う十歳児①
しおりを挟む◆side:アベルシス
「アベル、レイはどこ?」
「今、セレスのお父さんたちにご挨拶してるよ。だから僕と一緒に遊ぼうね」
「うん!」
あの運命のお茶会のときから五年が経った。
僕とレイはあれから何度もカレスティア領を訪れていて、セレスの家族からは仲のいいお友達として認められている。
セレスもベニート公爵家に遊びに来る。使用人たちには僕の大切な友人だから粗相のないようにと、しっかり言い含んである。
……最も、セレスがうちに来るときは必ずレイもいるから、粗相のしようがないのも事実。王族相手に仕出かすような使用人は使えないからね。
「あと二年で学院に入学だけど、セレスは準備進んでる?」
「うーん?…あのね、ぼく、行かないよ?」
「え、なんで」
「だって、学院、遠いし、お金かかるでしょ?」
こてんと首を傾げるセレスが可愛すぎて鼻血出るかと思った。
「ああ…。学院には寮があるから遠くても大丈夫なんだよ。それに、貴族の子供は必ず行かなきゃならないんだ。僕とレイも一緒だから、なんにも心配いらないんだよ?」
「ほんと?」
「うん?」
「ほんとに、アベルもレイも一緒?」
「もちろん。僕たちは王都に家があるから寮がじゃなくて通いになると思うけど、セレスの部屋に入り浸っちゃうから。一緒だね?」
「それなら、行ってもいいかも!」
「うんうん」
ふわふわのセレスの髪を撫でて、それから頭を撫でて。ちゅ、って頬にキスをしたら嬉しそうに笑ってキスを返してくれる。
……ああ、まじ可愛い。ほんと天使。
くりくりのエメラルドの瞳は澄んでて綺麗だし、肌は白いしぷにぷにだし、唇はふっくらしてて気持ちいいし可愛いし。
もうほんとセレスは可愛い。この子は絶対僕たちのセレスだよ。
兆候もなにもないけど、これだけ華奢で可愛らしくて愛らしくて、そんなセレスが花籠持ちじゃないなんてありえないんだから。
早く僕たちの為にお腹に花を咲かせてほしいなぁ。
◆side:レイナルド
「ようこそおいでくださいました、殿下」
「いつも前触れもなしに訪れて迷惑を掛ける」
「いえいえ。セレスティノも楽しそうですし。殿下のご友人になれたことを誇らしくも思いますよ」
カレスティア男爵。
笑ったときの目元がセレスによく似ている。
男爵夫人も温和な方だし、嫡男であるセレスの兄は五歳上か。
俺は自分についてきている護衛を部屋の外に出した。
室内にはセレスの家族と俺だけになった。
「殿下?」
さっさと終わらせて早くセレスのところに行こう。
俺は軽く指を動かし、セレスの家族と俺を包み込む防音結界を張った。
セレスの家族は魔力の動きに敏感ではないらしく、俺が魔力を使ったことにも気づいていないようだった。
「単刀直入に言う。俺、いや、私は、学院卒業後にセレスティノを貰い受けるつもりでいる」
「……は?」
意味がわからないのは仕方ない。
俺は王族らしく、少々威圧を含んだ態度を取った。
「…それは、どういう意味でしょうか…?」
「そのままの意味だが」
「ですが、正妃にしても、側近にしても、子爵、男爵家の者は相当優秀な者でなければなることができません。セレスティノは多少魔力が多いようですが、それだけです。飛び抜けて優秀ということもない」
「私がセレスティノを欲しいと望んだんだ。けれどそれは正妃としてでもない。正妃には据えない。側近としても扱わない」
「…愛妾にすると、殿下は仰っているのですか」
夫人の質問は当然のものだった。
子爵男爵家の者は正妃にはなれずとも、愛妾として城に召し上げることができる。……けれどそれは、正妃に子が宿らなかった場合のみだ。
「愛妾にするつもりもない」
「では、どういうことなのでしょう」
「私は城の中でセレスを囲う。そしてセレスには私達の子を孕んでもらう」
「っ、お言葉ですが、セレスが花籠持ちだとはまだ――――」
「セレスは間違いなく花籠持ちだよ、男爵。私にはその確信がある」
俺の子、すなわち次代の王となる子。正統な王族の血を継ぐ子。それは本来正妃との間にできる子だ。
「男爵、これは本来、王族の外には出さない話だ。…ここで私が話すことは忘れてほしい。――――王族に嫁ぐ者は、その多くが精神に異常を来したり、花籠が枯れるという状態に陥るんだ」
「!」
「だから、王族は兄弟が少ない。多くても二人、よくて一人。……歴代の王の中には、正妃に子が授からず、愛妾も五人目にしてようやく子を授かったということもあったらしい」
これは、俺がセレスを正妃にも愛妾にも据えたくない最大の理由。
恐らく、王族の悪しき慣習なんだろう。
「原因は恐らく、恐怖、羞恥、不信、そんな感情を嫁いできた者が抱えるからだと考えている」
「……恐怖?」
「王や王太子の閨には、必ず監視がつく。…一人や二人ならば恐らく他国でも行われていることだろうが、この国では十名ほどもいるらしい。しっかりと王や王太子の種付けがされているかを確認するために必要だと言うことだ。その際、花嫁が快楽を得やすいように、閨の最中にその監視が花嫁の体を愛撫することもあるそうだ。時には薬を飲ませ強引に快楽を引き起こす。……初夜にそんな扱いを受ければ、正常な感覚ならば狂うだろうな。己の夫に抱かれながら他人からも犯されているようなものだ。……現に私の母は今では生きた人形だ。花籠は私を産み落としたあとに枯れ落ちたと聞く。……ああ、婚姻式の時に花嫁が自らの花籠を祭壇で皆に見せるという馬鹿げたこともするらしいな。……陰部を見せることと変わりないことだろうに」
「……参列者の前で、ですか……?」
「当然。ほとんどの上位貴族が見ている中、自ら衣を寛げ、花籠を晒すんだ」
「そんな……そんなこと……」
夫人の顔色は青褪め、体が震えだした。
62
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から始まる人生
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
第二王子との婚約が破棄された。なんでも王子殿下と親しくしていた女性が懐妊したので責任を取りたいからだという。もともと気持ちを伴う婚約ではなかったから、怒りや悲しみといったものはない。そんなわたしに詫びたいと現れたのは、元婚約者の兄である王太子殿下だった。※他サイトにも掲載
[王太子殿下 × 貧乏貴族の子息 / BL / R18]
悪役令息は楽したい!
匠野ワカ
BL
社畜かつ童貞のまま亡くなった健介は、お貴族様の赤ちゃんとして生まれ変わった。
不労所得で働かず暮らせるかもと喜んだのもつかの間。どうやら悪役令息エリオットに転生してしまったらしい。
このままじゃ、騎士である兄によって処刑されちゃう!? だってこの話、死ぬ前に読んだ記憶があるんだよぉ!
楽して長生きしたいと処刑回避のために可愛い弟を演じまくっていたら、なにやら兄の様子がおかしくなってしまい……?(ガチムチ騎士の兄が受けです)
「悪役令息アンソロジー」に寄稿していた短編です。甘々ハッピーエンド!!
全7話完結の短編です。完結まで予約投稿済み。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
主人公にはなりません
negi
BL
俺は異世界転生したらしい。
しかも転生先は俺が生前プレイしていた18禁BLゲームの主人公。
主人公なんて嫌だ!ゲームの通りにならないようにするためにはどうしたらいい?
攻略対象者と出会わないようにしたいけど本当に会わずに済むものなのか?
本編完結しました。お気に入りもありがとうございます!
おまけ更新しました。攻め視点の後日談になりました。
初心者、初投稿です。読んだことあるような内容かもしれませんが、あたたかい目でみてもらえると嬉しいです。少しでも楽しんでもらえたらもっと嬉しいです。
ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる
野犬 猫兄
BL
本編完結しました。
お読みくださりありがとうございます!
番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。
番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。
第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_
【本編】
ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。
ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長
2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m
2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。
【取り下げ中】
【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ
ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。
※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
【完結】俺はライバルの腕の中で啼く。
オレンジペコ
BL
防音のきいた生徒会室。
そこで俺はこれまでライバルだとばかり思ってきた相手から告白された。
これは負けん気の強い俺がライバルに負けるかと頑張る、そんな話。
11/18 【本編】完結しました(^^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる