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愛しい人を手に入れたい二人の話
お茶会で運命の出会いをした五歳児
しおりを挟む◆side:アベルシス
暫定王太子であるレイが五歳になったとき、国中の同年代の子たちが集められて、王宮でお茶会が催された。
目的は暫定王太子の暫定婚約者を見つけること。
まだ五歳だから、自分が子供を産める側かそうではないかなんてわからないのに、こんなに早くやる意味があるのかな……って、遊び友達のレイを眺めながらぞんやり考えていた。
このお茶会の意味を正しく親が子どもたちに教えているみたいで、着飾った子達はみんなレイに群がっていて、ちょっとした壁になってる。
それでも頭一つ分くらいでてるレイは、時々僕に恨めしそうな視線を送ってくるけど、僕主賓じゃないし。お菓子食べてる方がいいんだよね。
それに、多分、レイも僕も『種付けする方』(…って口に出すと、家庭教師の先生が怒るから言わない)だから、婚約とかないし。僕がここに呼ばれてる意味がわからないよね。
あーつまんない。
お菓子は美味しいけど。
つまんなさ過ぎてお茶会が開かれてる庭を見回したら、ぽつんと一人、離れたところのテーブルにいて、お菓子を食べてる子を見つけた。
ミルクティー色のふわふわの髪は、触ったら気持ちよさそう。
興味とか好奇心とか、最初はそんなものだった。
「ね、ここ、あいてる?」
小さな手でお菓子をつまんでたその子に声をかけたら、驚いたように僕を見上げてきた。
そしたら、大きな綺麗な緑色の瞳が、長い前髪の間から覗いてて、その瞳を見たときに僕の心臓が止まりかけた。
え、なにこれ。
もちもちの白い肌と、ピンク色のふっくらとした唇。
こんな子、貴族にいたっけ?
「え、と、どう、ぞ?」
その子はおどおどしながらも、そう言ってくれたから、僕は遠慮なく隣の椅子に腰掛けた。
「ありがと。僕はアベルシス。アベルって呼んで。君は?」
「あの……、せれすてぃの、です」
「セレスティノ。可愛い名前だね。セレスって呼んでもいい?」
「は、い」
セレス。
可愛い。
なにこれ可愛い。
名前を聞いてもピンとこない。どこの家の子だろう。こんなに可愛かったら、絶対噂になってるだろうに。
お菓子を口元に運んだら、素直に口を開けるし。
紅茶を飲んだことがないのか、恐る恐る口に入れて、途端可愛い顔で笑うし。
ああ……駄目だ。この僕が悶えてしまう。
この子がほしい。
公爵家の跡取りとして厳しく躾けられてきたこの僕が。
一目で、恋に落ちてしまった。
◆side:レイナルド
同い年の子息を全員集めての茶会なんて必要ないと訴えてきたのに、父上に強行された。
どうせ父上が勝手に俺の結婚相手を選ぶのだろうから、こんな見世物になるような茶会なんて必要ないんだ。それに、俺と結婚しても相手に幸せなんてない。今の父上と母上のように。
強行された茶会には嫌になるほど沢山の子息が集まっていた。
どの子も幼い子供につけるには重すぎるし高すぎる宝石類で飾り立てているし、親の趣味なのか香水がきつすぎて臭い。
それでも次期王太子として、王族らしい『笑顔』は絶やせない。なんの苦行なんだろう。
茶会なんだから、指示されたテーブルで大人しく座って菓子を食べていればいいんだ。なのに、どいつもこいつも俺に群がってきて……。
途中、幼馴染みのアベルに救援要請の視線を投げかけたが、華麗に無視しやがった。
誰が誰だが自己紹介されても全く頭に残らず、それでも一通り挨拶を終えたとき、アベルは離れたテーブルでミルクティー色の髪の子と二人で肩を並べていた。
同い年にしては華奢な体躯だ。
俺のことは無視しておいて自分は何してんだ…と、不自然にならないように人集りを抜けてアベルたちがいるテーブルに向かった。
「アベル?」
声をかけると、今まさにアベルがその子に菓子を食べさせるところだった。
ミルクティー色の髪の子はちらりと俺を見たようだったが、長い前髪で顔がよくわからない。
「レイ。取り巻きはいいの?こっち見てるけど」
「挨拶したし。なんでお前が早々に離脱してんだよ」
「んー?だって、僕、今日の主賓じゃないし」
「助け舟くらい出せよ。……こいつは?」
「セレスティノ。セレスだよ。可愛いよね~。レイに群がる子たちより、断然可愛い」
可愛い、ね?
アベルがそんなふうに言うのは珍しい。
白い頬を触る仕草も見たことがない。
「セレス、あーん」
「あーん」
……こんなに甘やかしてるのも見たことがない。というか、アベルの顔がニヤけまくっている。
警戒心全くなし…っていう感じのセレスは、小さな口を目一杯開けてアベルを待っている。
その口が菓子を咀嚼しているさまを、思わずじっと見てしまった。
「………小動物?」
「なんか、構わなきゃ!って気になるんだよね~。セレス、こいつのこと、どう思う?」
アベルに問われて、セレスが俺を見た。
前髪で隠れていた瞳が少し見えて、こてんと首をかしげた姿にもう目が離せなくなった。
「こわくないよ?」
「「……可愛い」」
アベルと声が重なった。
何も考えずセレスの隣の椅子に腰掛け、邪魔な前髪をかきあげると、溢れるんじゃないかと思うくらい大きな緑色の瞳が俺を見ていた。
「おっきな目だな…。エメラルド…綺麗だ」
そう、言葉にしたら、そうするのが当たり前……っ勢いで、俺はセレスの額にキスをしていた。
「あ、レイ…っ、僕もまだなんだけど!」
アベルも同じように額にキスをしていたけれど、セレスがは意味がわからないようで、額に手を当ててまた首を傾げていた。
無意味に可愛い。
俺が名乗ってもセレスはきょとんとした目でいるだけ。
きっとセレスはこの茶会の意味を知らない。でもそれでいい。
俺が愛称呼びを許す理由にも気づかない。
カレスティアは男爵家。
どうやってセレスを手に入れようか?
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