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本編
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しおりを挟む王族や高位貴族の子供の中には、幼い頃から婚約者が決められている場合がある。
花籠持ちかどうかは体格に表れることが多いから、幼いときの婚約でもそれほど間違いはないみたい。
でも確実じゃなくて、ぼくみたいな体格でも花籠持ちじゃないこともあるし、逆に、レイみたいにがっしりした体格の人に花籠が出たこともあるって。
跡取りを重視する王族や貴族にとって、万が一が起こるととても都合が悪いから、婚約自体を遅らせたり、非公表にする場合もあるんだって。
……政治的な話はぼくにはわからないけれど、派閥とか、勢力図とか、なんか色々大変らしい。
今の王族は、子供がレイしかいない。
国王様も王妃様もご健在なのに、レイには一人の弟もいない。
だから王太子っていう立場は絶対で、レイが将来国王様になることも決まってる。そして、レイの子供がその次の国王様になることも。
そんなレイには、婚約者がいない。
王太子の婚約者だもの。
簡単に決まるはずはない…とは、思うけれど。
「は……ぁ……っ、あっ、ぁん、あー…っ」
「セレス…セレスっ、愛してる、愛してる」
「ん、ぼくも、レイ……すき……っ」
夏の季節に始まったぼくたちの関係は、秋の季節の終わりになっても続いていた。
レイはいつも熱でギラギラした目でぼくを見て、孕め、傍にいろ、って言う。
ぼくもレイが好きで、子供がほしいと願ってしまうけど、ぼくの体にあるはずの揺り籠はその口を固く閉ざしたままだった。
ぼくは自分が花籠持ちだと思ってる。
お風呂に入るときになんとなく見た自分の下腹部に、薄っすらと何か痣のようなものがあったから。
多分、あれは花籠。
だから、間違っていないはずなのに、どうしてこんなに朧気な痣のような花籠になっているのかわからなかった。
学院でも花籠のこととか習うけど、こんな形、聞いたことなかったし。
レイやアベルに相談することもできなかった。
……相談するまでもなく、いつもぼくのお世話をしてくれてる二人には、この花籠のことは知られてると思うし、特にレイはよくわかってると思う。
もしかしたら、なり損ないなのかもしれない。
花籠のなり損ない。
子供を宿すことができない、偽りの花籠持ち。
でもレイは、毎回、毎回、ぼくの奥深いところに、たっぷりの子種を注いでくれる。愛してるって、沢山言ってくれる。
凄く嬉しい。
ずっと一緒にって言ってくれるのも、凄く嬉しい。
レイはぼくを大切にしてくれる。
レイの気持ちを疑うこともない。
――――でも、レイから結婚しようとか、婚約してほしいとか、そういう言葉を聞いたことはない。
冬の季節に入ってから、なんだかざわざわとまわりが煩くなった。
誰が誰と婚約したとか。
誰が誰かの子供を孕んだとか。
卒業したらすぐに結婚するだとか。
………王太子の婚約者について、とか。
「やっぱり公爵家なんじゃない?」
「公爵家……って、アルムニア家?でもファニート様はご病気だと噂されてるし…」
「ベニート家だとアベルシス様だけど、確かに仲はよろしいみたいだけど、アベルシス様は籠持ちではないだろうし」
「……少なくても伯爵家以上の家格がないと無理だよね」
「男爵家とかない」
「国王様もお認めにならないだろうし」
……クラスメイトたちは、ぼくの方をちらちら見ながら話してた。
そんなこと言われなくたって、ぼくだってわかってる。
レイに抱かれているけど、レイがぼくにその話をしないということは、……そういうことなんだと思うから。
父様。男爵家に生まれたこと、恨んだりとか、そういうことじゃないから。父様と兄様はぼくの大切な家族だから。
「…………ん」
お腹の奥で、昨日注がれた子種が騒ぎ出す。
足りない。
何か足りない。
レイが好き。
レイの子供を授かりたい。
お腹の奥にレイの子種を沢山注がれたのに、何故か足りないと感じてる。
何が足りないの。
わからなくてお腹に手を当てた。
そこからは当然なんの鼓動も感じ取れなくて、無性に悲しくなった。
教室を移動するとき、レイとアベルのクラスの前を通った。
前は休み時間ごとにぼくのところに来てた二人だけど、休み時間にもやらなきゃならないことができて、秋の季節の終わり頃から短い休み時間にはぼくの所にこなくなった。実技の授業で着替えをするときは、前と同じように空き教室に連れて行かれるけど。
レイとアベルのクラスは、家柄も成績もいい生徒ばかり。
そのクラスから、賑やかで明るい笑い声が聞こえてくる。
つい視線を向けると、賑やかな話し声の中心にはレイとアベルがいた。
穏やかな笑みの二人。
ぼくといるときと全然違う表情。
大人びて、綺麗で。
……ああ、こっちがほんとうの二人なんだ……って思って、胸が苦しくなった。
それに、二人の周りには、華奢な体格で綺麗な子たちがたくさんいた。何人かは、レイやアベルの腕を自分の胸の中に抱き込んでる。
「………っ」
見なきゃよかった。
なんかきもちわるい。
見るのも声を聞くのも嫌で、早足でそこから離れた。
気持ち悪さが抜けない。
甘えたい。
抱きしめてもらいたい。
きもちわるい。
吐きそう。
駆け足気味に階段を上がった。
足元を見てた視界の中に、誰かの靴が映る。
「ほんと邪魔」
「え」
とん…っと押されて、その子の顔を見ることもなく、ぼくの体は上がってきた階段から浮いた。
周りからの悲鳴とか。
そんなのを聞きながら、階段を落ちていく途中で、ぼくは気を失った。
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