9 / 54
本編
8
しおりを挟む王族や高位貴族の子供の中には、幼い頃から婚約者が決められている場合がある。
花籠持ちかどうかは体格に表れることが多いから、幼いときの婚約でもそれほど間違いはないみたい。
でも確実じゃなくて、ぼくみたいな体格でも花籠持ちじゃないこともあるし、逆に、レイみたいにがっしりした体格の人に花籠が出たこともあるって。
跡取りを重視する王族や貴族にとって、万が一が起こるととても都合が悪いから、婚約自体を遅らせたり、非公表にする場合もあるんだって。
……政治的な話はぼくにはわからないけれど、派閥とか、勢力図とか、なんか色々大変らしい。
今の王族は、子供がレイしかいない。
国王様も王妃様もご健在なのに、レイには一人の弟もいない。
だから王太子っていう立場は絶対で、レイが将来国王様になることも決まってる。そして、レイの子供がその次の国王様になることも。
そんなレイには、婚約者がいない。
王太子の婚約者だもの。
簡単に決まるはずはない…とは、思うけれど。
「は……ぁ……っ、あっ、ぁん、あー…っ」
「セレス…セレスっ、愛してる、愛してる」
「ん、ぼくも、レイ……すき……っ」
夏の季節に始まったぼくたちの関係は、秋の季節の終わりになっても続いていた。
レイはいつも熱でギラギラした目でぼくを見て、孕め、傍にいろ、って言う。
ぼくもレイが好きで、子供がほしいと願ってしまうけど、ぼくの体にあるはずの揺り籠はその口を固く閉ざしたままだった。
ぼくは自分が花籠持ちだと思ってる。
お風呂に入るときになんとなく見た自分の下腹部に、薄っすらと何か痣のようなものがあったから。
多分、あれは花籠。
だから、間違っていないはずなのに、どうしてこんなに朧気な痣のような花籠になっているのかわからなかった。
学院でも花籠のこととか習うけど、こんな形、聞いたことなかったし。
レイやアベルに相談することもできなかった。
……相談するまでもなく、いつもぼくのお世話をしてくれてる二人には、この花籠のことは知られてると思うし、特にレイはよくわかってると思う。
もしかしたら、なり損ないなのかもしれない。
花籠のなり損ない。
子供を宿すことができない、偽りの花籠持ち。
でもレイは、毎回、毎回、ぼくの奥深いところに、たっぷりの子種を注いでくれる。愛してるって、沢山言ってくれる。
凄く嬉しい。
ずっと一緒にって言ってくれるのも、凄く嬉しい。
レイはぼくを大切にしてくれる。
レイの気持ちを疑うこともない。
――――でも、レイから結婚しようとか、婚約してほしいとか、そういう言葉を聞いたことはない。
冬の季節に入ってから、なんだかざわざわとまわりが煩くなった。
誰が誰と婚約したとか。
誰が誰かの子供を孕んだとか。
卒業したらすぐに結婚するだとか。
………王太子の婚約者について、とか。
「やっぱり公爵家なんじゃない?」
「公爵家……って、アルムニア家?でもファニート様はご病気だと噂されてるし…」
「ベニート家だとアベルシス様だけど、確かに仲はよろしいみたいだけど、アベルシス様は籠持ちではないだろうし」
「……少なくても伯爵家以上の家格がないと無理だよね」
「男爵家とかない」
「国王様もお認めにならないだろうし」
……クラスメイトたちは、ぼくの方をちらちら見ながら話してた。
そんなこと言われなくたって、ぼくだってわかってる。
レイに抱かれているけど、レイがぼくにその話をしないということは、……そういうことなんだと思うから。
父様。男爵家に生まれたこと、恨んだりとか、そういうことじゃないから。父様と兄様はぼくの大切な家族だから。
「…………ん」
お腹の奥で、昨日注がれた子種が騒ぎ出す。
足りない。
何か足りない。
レイが好き。
レイの子供を授かりたい。
お腹の奥にレイの子種を沢山注がれたのに、何故か足りないと感じてる。
何が足りないの。
わからなくてお腹に手を当てた。
そこからは当然なんの鼓動も感じ取れなくて、無性に悲しくなった。
教室を移動するとき、レイとアベルのクラスの前を通った。
前は休み時間ごとにぼくのところに来てた二人だけど、休み時間にもやらなきゃならないことができて、秋の季節の終わり頃から短い休み時間にはぼくの所にこなくなった。実技の授業で着替えをするときは、前と同じように空き教室に連れて行かれるけど。
レイとアベルのクラスは、家柄も成績もいい生徒ばかり。
そのクラスから、賑やかで明るい笑い声が聞こえてくる。
つい視線を向けると、賑やかな話し声の中心にはレイとアベルがいた。
穏やかな笑みの二人。
ぼくといるときと全然違う表情。
大人びて、綺麗で。
……ああ、こっちがほんとうの二人なんだ……って思って、胸が苦しくなった。
それに、二人の周りには、華奢な体格で綺麗な子たちがたくさんいた。何人かは、レイやアベルの腕を自分の胸の中に抱き込んでる。
「………っ」
見なきゃよかった。
なんかきもちわるい。
見るのも声を聞くのも嫌で、早足でそこから離れた。
気持ち悪さが抜けない。
甘えたい。
抱きしめてもらいたい。
きもちわるい。
吐きそう。
駆け足気味に階段を上がった。
足元を見てた視界の中に、誰かの靴が映る。
「ほんと邪魔」
「え」
とん…っと押されて、その子の顔を見ることもなく、ぼくの体は上がってきた階段から浮いた。
周りからの悲鳴とか。
そんなのを聞きながら、階段を落ちていく途中で、ぼくは気を失った。
71
お気に入りに追加
1,926
あなたにおすすめの小説
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
いつの間にか後輩に外堀を埋められていました
雪
BL
2×××年。同性婚が認められて10年が経った現在。
後輩からいきなりプロポーズをされて....?
あれ、俺たち付き合ってなかったよね?
わんこ(を装った狼)イケメン×お人よし無自覚美人
続編更新中!
結婚して五年後のお話です。
妊娠、出産、育児。たくさん悩んでぶつかって、成長していく様子を見届けていただけたらと思います!
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる