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本編

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 どうやって戻ったのか記憶にないくらい、呆然としながら寮に戻った。
 お腹がぐるぐるする。
 熱い。
 苦しい。

「レイ……アベル……」

 一番痛いのは、胸。
 息も、続かない。

 制服を脱ぎ捨てて、カーテンを引いて、真っ暗な中でベッドに入った。
 横になってもお腹のぐるぐるは治まらない。

 涙が落ちた。
 迷惑、だったんだ。
 ぼくが、二人に頼り切ってるの、迷惑……だったんだ。

 布団を頭から被って、泣いた。
 声を上げないように。
 体を揺らしながら。

 起きたくなくて、寝たままだった。
 夕飯は学食に行かなきゃならないのに、起き上がれないし、食欲もないし、結局何も食べなかった。

 嫌な夢に魘されて、夜中に何度も目が覚めた。
 一番ひどいのは、ぼくの目の前で、両親と兄様が斬首刑になったものだった。
 ……それから、眠るのが怖くなった。
 熱が下がらなくて、いっそう胸が苦しくなる。

 魔力だけなら、不相応なくらいぼくの魔力は高い。
 使えないだけで。
 使うのが下手くそなだけで。
 高い

 男爵家に生まれたこと、後悔なんてしていない。
 両親は優しいし、兄様だってすごく優秀で格好いい。
 領民のみんなも、すごくいい人たちばかり。
 裕福な場所じゃないけど、貧しくもなくて、みんな、幸せに暮らしてる……はず。
 でも、ぼくの存在が、みんなを不幸にしてしまう。
 だったら、やっぱり、ぼくは、レイとアベルから離れるべきなんだ。
 ……学院もやめてしまおう。
 こんな高いお部屋で過ごせるほどの寄付を、うちが払い続けることなんて無理だろうし。

 家に戻って、兄様のお手伝いをしよう。
 領のこと、もっと勉強して、いずれ、兄様と婚姻を結んで、子供を、産んで。
 幸せに、過ごせばいい。

 幸せに。

 思えば思うほど、涙が落ちる。

 ……熱が高くて、泣き続けて、食事も取らないで、飲み物も飲まないで。
 そんな風に過ごせば、体調は余計悪くなるだけだけど、もう、どうでもよくて。
 ぼくは、意識をなくすように再び眠りについた。
 真っ暗な、たった一人の部屋の中で。





 額が気持ちいい。
 唇に、柔らかな感触。
 ほんの少し、甘い、とろりとした液体。

「セレス」

 目を開けたら、レイの顔が、あった。

「……?」
「セレス、俺がわかる?」
「…………………殿、下」

 レイ、って、もう、呼べない。
 ぼくには、その資格もなにもない。

 けど、レイは、殿下って言ったら、凄く怖い顔をした。

「レイ、だよ。セレス」
「………で、も」
「セレス」

 強い語気。
 ビクリと、体が震えてしまう。
 でも、駄目。
 だって、夢のようになってしまう。

「ごめん、なさ、い。殿下。ぼく」
「ファニート・アルムニアは既に学院から消した」
「……え?」
「心配することはない。お前の家族に害が及ぶことはないんだ、セレス」
「どういう……」
「ファニートが俺の婚約者になるわけがないんだ。セレスは今までのままでいい」
「でも、殿下は」


 レイは、ぼくが『殿下』って言うたびに、険しい目をしてくる。
 ぼく、泣きたくなるのに。
 だって、いつかは絶対、『レイ』って呼べなくなる日が来るんだから。

「セレス……お願いだからレイって呼んで」

 額に、キスをされる。
 レイの手は、優しくぼくのお腹を撫でてきた。

「……レ、イ」
「セレス」

 レイの手がぼくの頬を挟む。
 ゆっくり近づいてくる顔は、額じゃなくて、真正面に。
 ふわりと、ぼくのくちに、レイの口が重なった。
 これは、キス?
 いつもと、違う、キス。

「レ……、んっ」

 額よりも、気持ちが良くて。
 口のとこ、何度も舐められた。
 ぴちゃぴちゃ濡れた音が恥ずかしい。
 レイが何をしたいのかわからなくてじっとしてたら、いきなり鼻を抓まれた。

「ふぁ……っ、んぁっ」

 当然息が苦しくなって口を開けたとき、レイの舌がぼくの口の中に入ってきて、すごくびっくりした。
 レイはぼくの口を舐めてたように、舌を舐め始めた。
 余計、ぴちゃぴちゃ音がする。
 逃げることは考えられなくて、されるがままになってた。
 舌を舐められ続けてるうちに、唾液がぼくの喉に溜まっていく。

「飲んで」

 ちょっと口を離した瞬間、レイにそう言われて、ぼくはなんの疑問も持たずにそれを飲み込んだ。
 レイの魔力が混ざったそれは、ぼくの体の中をぽかぽかにしていく。
 ぽかぽかがお腹にたまり始めた頃、また、ぼくのお腹を撫で始めたレイ。
 なんでそこに触れるんだろう…と思いながら、キスが続いて、言葉にはできなかった。




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