【完結】眠りの姫(♂)は眠らずに王子様を待ち続ける

ゆずは

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眠りの姫(♂)は眠らずに王子様を待ち続ける

第8夜

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 講義をサボることを伝えても、先生は何も言わず、むしろそれを喜んでくれた。流石にお年もお年だから、疲れが溜まっていたんだろう。ゆっくり休んでもらいたい。
 婚姻の申込み……にはまだ早いが、自分の想いを伝えるときに渡す贈り物は何がいいだろう。
 定番は、私の瞳と同じ色をした宝石を使った指輪や耳飾りかな?…でも流石にそれは今すぐ用意できない。どうせなら、私も姫の色を身に着けたいし。
 だとしてら何が…と考え込んでいたら、庭園に色とりどりの薔薇が咲き誇っているのを見て、これだ!と思った。
 庭師に大きな花束を作るよう依頼し、色は私が自分で選んだ。
 珍しい薄い水色の薔薇もある。そこに主張の激しくない薄い黄色の薔薇を足せば、姫の色が出来上がる。……ああ。あの陶磁のように真っ白な肌に合わせて、白い薔薇も足そう。そうだ。あの花茎のそそられるピンク色も。
 庭師からは変な顔で見られたけれど、これでいい。
 ありったけの私の愛が詰まった花束だ。

 今日は愛馬は連れて行かなかった。
 正門から堂々と外に出る。
 歩いてもそれほど時間がかかるわけでもなく、断れば護衛もついてこなかった。まあ、もしかしたら、こっそりついてきてるかもしれないけど。一応王太子だからな。

 昨日の二の鉄はふまない。
 行ったら、まず昨日のことを謝罪する。それから、花束を渡して、私の想いを伝えるんだ。

 問題なくついた茨の森。
 そして、問題なく茨の道が開かれる。

 考えるのは姫のことばかり。
 愛してやまない、愛しい姫のことばかり。

 既に見慣れた屋敷の中。
 一度呼吸を整えて扉を開けた。

 昼間だからか、姫は眠っていなかった。
 夜のような夜着も着ていない。
 むしろ、動きやすそうなシャツにズボンという、ごく普通の男性の服を纏っていた。

 姫は私を見て酷く驚いた顔をしていた。

「姫」

 私は姫にまた会えたことが嬉しくて、恐らく顔面が崩れに崩れていたと思う。
 けど、引き締めることはできなくて、固まったままの姫に、一歩、また一歩近づく。

「姫」

 瞳がよく見える近さまで歩き、その場に跪く。
 少し震えているほっそりとした手を、そっと握った。

「姫、昨晩の私の愚行を、どうかお許しください」
「………あ」
「私は貴方に軽い気持ちで触れたわけではありません。貴方を一目見たときから、私の心は奪われました。姫が男の方であってもそれは変わりありません。愛してます。私の妻になっていただけませんか」

 ……あ、順番、間違えた。

「つ、ま」
「あ、いえ、えーと、は!そ、そうだ!!この花を…!!貴方を思って、色を選びました……!ど、どうか、受け取っていただけませんか…!?それで、是非私の妻に……いや、いやいや、恋人から、始めていただけませんか!?」

 ……うっわ。
 なんだこの告白。
 私、あれほど格好良く決めようと心に誓ってきたのに、これじゃあ格好悪すぎるだろ!?

 最悪……と思いながら、姫の手を握りしめたまま項垂れてしまった。
 ……そしたら、頭の上で、くすっと笑う声。
 驚いて見上げたら、姫が涙をにじませながら笑っていた。

「そこは普通、『友達からでも』じゃ、ないの?」
「ええ!?いや、友人より恋人に……いや、それより妻に……!!」
「お付き合いすっ飛ばして求婚されちゃったよ……」

 面白そうに笑うばかりの姫。
 その姫が、私が握ってるのとは別の方の手を、差し出してきた。

「花束」
「はい!?」
「くれるんでしょ?俺に」
「ああああ!!!はい!!お受け取りください!!!」

 花束、渡すことさえしてなかった。
 想いを伝えることだけで、こんなに緊張してぐだぐだになるなんて……知らなかった。

「ふふ…綺麗」

 花束を抱え、微笑む姫が一番綺麗です。

「黄色…青、白、桃色………凄く綺麗。俺の色ってこと?」
「ええ。私が思う姫のお色です」
「……でも、この桃色は?」
「そ、それは…!!姫の愛らしい胸のお飾りと、顔を出した花茎の先端の………」
「なんてもの足してんの……!?」

 真っ赤になった姫。
 あああ、愛らしい……!!

「も、もう……っ、信じらんない……そんなの贈り物に選ぶとか……っ。ま、まあ?花に罪はないし、綺麗だから飾るけど…っ」

 真っ赤になりつつも、花束をテーブルの隅に置いた姫は、一度大きく息をついて、私を見て小さな可愛らしい口を開いた。

「いつまでもそこにいないで、座ったら?……少し、話そうよ」



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