210 / 216
自由の国『リーデンベルグ』
36 魔物討伐の演習があるんだって…!!
しおりを挟む「では、以前よりお知らせしていた通り、明日から二日間、デリエの森にて討伐演習です。各自、注意事項を確認、厳守し、必要物資の準備など行ってください」
あと少しで聴講生生活が終わるって言うとき、担任の教師がそんなことを言った。
「討伐演習?」
「そう。魔物討伐演習。魔法騎士団からも数名派遣される。デリエの森にはそんなに脅威になる魔物はいないから、演習に丁度よくて、一つ下の五学年も合同の――――って、そうだ。アキラ、行くの?」
「うーん……?」
そんな話聞いてなかったしなぁ。
「……聴講生のロレッロ君は、参加義務はありません。参加される場合は保護者の方の了承を必ず得て、明日集合してください」
「あ、はい」
絶妙なタイミングで教師から言われた。
胃の痛そうな顔をしてる。
チェリオ君とのやりとり聞こえてたかな。なんかごめんなさい。さすがに俺が参加するのは問題あるよな…。でもなぁ……。参加してみたいなぁ……。その演習でどんなことしてるのか興味あるし、今後のみんなの指導にも生かせるかもしれないし……。
「あー……」
あれこれ考えてると、隣のチェリオ君から苦笑気味の溜息が聞こえてきた。
なんだよ…って視線を流すと、やっぱり苦笑してオットーさんをチラ見した。
「……行く気らしいので」
「心得ております」
なーんて会話をしちゃったよ。
「なんで俺が行くって」
「そういう顔してるだろ」
……と。
うむむ。
侮れないな。チェリオ君。
魔法学院で行われる演習実習は、年に四回。五学年と最高学年の合同演習で、国から魔法騎士団――――って言うとつまりエリート騎士が護衛に派遣される。
討伐という名の通り、魔物を討伐する演習。まんまだけど。チェリオ君が言っていたように、それほど脅威度の高い魔物は生息していない森で、大きな街道も通っている生活に馴染んだ森でもある。
魔法騎士団を目指す生徒も、研究所を目指す生徒も、他職業希望生徒も、みんなまとめて受ける必修科目。
この世界、クリスも言っていたけれど、今は国同士の戦争はほとんどない。全くないと言えないのは、エルスターから遠く離れた国では大なり小なりの小競り合いは起きているから。でも、小競り合いしていたとしても、平和であったとしても、魔物にとってそんなことは関係ない。
俺がここに来てから何度か侵攻を受けたけれど、完全に防げる手段をどの国も持っていない。だからこそ、魔法を扱うことができる魔法師は、対魔物の戦力として期待される。剣で戦うよりもより広範囲に効果的に、魔物を倒すことができるから。
けど、それだって、魔物の脅威を知らなければできない。驕っても駄目。怯えても駄目。
学院で学ぶ若い子たちが、魔物と遭遇することはほとんどない。座学として魔物の知識は学ぶけれど、実物は座学では学べない意外な行動をとることもあるし、個体差もある。
だからこその、討伐演習。
――――なんだって。
「行きたい」
「駄目だ」
「なんで」
「お前がそこまで行く必要性を感じない」
「俺は、必要だと思う」
「なぜ」
「ノウハウ……えっと、指導の方法とかをしっかり学んで参考にして、帰国したらそれをみんなの訓練にも取り入れられるし」
帰城早々に、クリスの膝の上を陣取った。
討伐演習の必要性とかは、迎えに来てくれていたベルエルテ伯爵から聞いて確認したからばっちりだ。
マシロはまだリアさんに見てもらってる。
……マシロを遠ざけて、膝の上に座ってるからって、色仕掛けしようとか……は、考えてない。……考えてない、さ。うん。
「……駄目?」
……別に。クリスが俺の『お願い』の目に弱いとか、そんなことも計算済み…………なんてことも、考えてないけどさ?
クリスが眉間を指でもみほぐしながら、俺の腰を抱く手から力は抜かない。
「指導方法が知りたいのであれば、魔法騎士団長からでもグレゴリオ殿からでも話を聞けばいい」
「実際に経験するのとは全然違う」
「……アキがいてはなんの指導にもならないだろ」
「俺があまり手を出さなければいいだけだし」
「……お前が行くことで護衛手配の問題が生じる」
「護衛はオットーさんかザイルさんがついてきてくれるし。あ、ほら、近衛副騎士団長さんだって、手が空いてるはずだし」
だから、護衛に関してはこの国に迷惑をかけることはないと思う。
でもクリスの表情は硬いまま。
さてどうしたら保護者の了承が得られるだろうか。
「……アキ」
「うん」
クリスが無言の後、大きな溜息をついた。
「……泊まりだろ」
苦々しく響くクリスの声。いつもより低い声。
「泊まり……だね?」
二日…という演習は、一日ごとに帰宅するものじゃなくて、野営演習も含めた一泊二日。野営用のテントは学院側が準備しているし、魔法騎士団は専用のものがある。
「泊まりは駄目だ」
「あー……そこ?」
クリスは演習に参加すること自体には反対しない。そっか。頑なに賛成してくれないのは、泊まりってところがネックになってるのか。
「五学年ということは、お前に付きまとってるあの男も参加するんだろ」
「あー……まあ、そうだ、ね?」
俺の視界にちょこまかと現れる生徒会長さん。前みたいな『お誘い』はなくなったけれど、俺を見る目がなんだかイっちゃってる気がして怖い生徒会長さん。
「そんな者まで参加する演習に、俺が許可を出すと思ってるのか」
「……思わない……デス」
「だよな?…なら、明日は欠席。それで構わないな?」
構う。
演習に行かなかったら、それだけで俺の学院生活が終わる。演習の翌日が終わる日だから。
いいよな?と言われて素直に頷けない俺。
うんうん唸りながら考えて、あ、そうか、って思いつく。
「クリスも一緒に行こう!」
「は?」
うん。俺、いい提案したな!
*****
「あきぱぱ、おかえりしたのに、ましろとあそんでくれない」
「アキラさんは殿下に大事なお話があるらしいからね。マシロちゃん、もう少し我慢ね」
「も、すこし、これくらい?」
「ううーん……(あのアキラさんが色仕掛けで何事かの了承を得ようなんて思うことはないと思うけど……、それはそれでおいしいし……。ああ、でも、そしたら『もう少し』がもう少しじゃなくなるし……)」
「りーあ?」
「これくらいにしておきましょう」
「おてて、いっぱい、くらい?」
「ええ。夕飯までには大事なお話あいも終わってるはずだし」
「そなの?」
「そうそう。アキラさんが大好きなマシロちゃんをずっと放っておくことないでしょ?」
「……ましろ、だいちゅき?」
「もちろん、大好きに決まってるじゃない」
「う。ましろも、だいちゅき」
「あ、そうだ。マシロちゃん、今、アキラさんがどんな気持ちかわかる?」
「う?」
「何か感じない?」
「うー…?んー…とね、うれち、なてる?」
「ほうほう」
「あとね、どきどき?」
「ほうほうほうほう」
「どちたの?」
「んーん。なんでもない!」
*****
おまたせしました!
応援ありがとうございます!
31
お気に入りに追加
2,206
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる