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自由の国『リーデンベルグ』
35 魔導具づくり、協力したい(作ってみたい)
しおりを挟む「あ、チェリオ君、おはよ」
「………はよ」
教室に入ってきたチェリオ君に、いつも通り手を振りながら声をかけた。
チェリオ君は俺に同じように片手を上げて応えた後、オットーさんにもペコリと頭を下げる。オットーさんはザイルさんよりも無表情ながら、少しだけ表情を緩めて会釈を返す。
結局、昨日はあれからほとんど話す時間はなかった。元々、昨日は本当に『視察』だけで、ざっくりみたらそれで終わり、って予定だった。しっかり深く見るのは、俺が聴講生生活を終えてから。
昼からはマシロと合流して城下町の散策をしてたんだけど……まあ、あれだ。マシロのメイドさん姿は可愛かった。リアさん、やりすぎ……って、少し呆れもしたけれど。
「そういえば何作ってたの?」
魔導具を作るためにいたんだよな。何を作ってるんだろう。作り終わったんだろうか。
「………」
チェリオ君は俺をじっと見てから……、はぁってため息を付いた。
「内緒……って言いたいとこだけど、もういいや。杖、だよ」
「杖?」
「そ。アキラが言ってただろ。伸び縮みするやつ、って」
「あ、うん。言った。チェリオ君、それなら作れる、って。……あ。ああ……もしかして、それ?」
「そう。それ」
チェリオ君、苦笑しながらどかっと椅子に腰掛ける。
「……簡単だと思ったんだけど、ちょっと手間取って。家でやるには限界で、研究所に行ってたんだ」
「へぇ」
「んで、そもそも魔法陣の組み方から間違ってたかもしれないって教えてもらった途端、………あれだったから」
「あー…………」
「さっぱり手につかなくなって。……ま、あれだ。アキラがここでの修学期間が終わるまでには、なんとかするから。餞別、ってことで」
なるほど。
でも、そっか。
昨日聞いたし、授業でも習って少しは詳しくなったと思ったけど、魔導具作成は色々大変そうだ。
それに、魔法陣の組み立てに、古代語の存在。
それなら、遺失魔法の『組み立て』から検討して云々っていうことが理解できる。
クリスが洗浄魔導具と遮音魔導具を見せてくれたときに言ってたことが、ようやく理解できた感じ。
だってねぇ。
魔法はイメージ!なんだから、組み立てる必要ないじゃん、って、思うわけだよ。そういう魔法を込めればいいじゃん、って。
でも、ことはそんな単純じゃなかった。ごめんなさい、研究員の方々。
「あと五日くらいか……なんとか、なるはずだから」
「あー……」
ざっくり周りを見渡す。
まだそんなに人は多くない。
俺はチェリオ君に手招きして、少し近づいた彼の耳元で、「ここ終わってからもまだ少しいるから」って伝えた。
内緒話。
俺にとっては普通のことだったんだけど。
「………っ、ちか……っ」
「アキラさん、さすがに近いです」
と。
チェリオ君にはずさっと逃げられ、オットーさんが苦笑気味に俺とチェリオ君の間に手を入れてきた。
「なんで」
「なんでって……」
「内緒話するなら普通でしょ」
と首を傾げていたら、チェリオ君はがりがりと頭をかいて、
「頼むからこの天然っぷりをどうにかするように伝えてください」
と、オットーさんに訴えていた。
「ええ。すみません。伝えます」
オットーさんはやっぱり苦笑気味で。
……この世界には内緒話が駄目なルールでもあるんだろうか……。
「ま、まあ、とにかくわかった。わかったから、もう内緒話は必要ない。ほら、言葉を選べばいいだけだし。な?」
「え?……うん、まあ……そりゃ」
「とりあえず、アキラの滞在期間は理解した。あとは俺がどうにか頑張るから」
「それさ、俺も手伝えない?」
「は?」
またなんとも言えない顔をされた。
「だから。魔導具作り。えーと、今回は杖作り?」
「いや……、それは」
「授業だって中途半端なところしか聞いてないから何ができるってこともわかってないけど、俺さ、魔力量だけは多いよ?」
使える属性も多いけど、魔導具づくりに必要なのって属性じゃなくて魔力量だと思うんだよね。
だったら、ノウハウを俺がしっかり身につければ、帰国してからでも魔導具づくりができるってことだし。
チェリオ君は眉間にしわを寄せながら何かを考え(というか、俺のお手伝い宣言って、そんなに苦悶の表情をしなきゃならない案件なのか…?)、細く、長いため息を付いた。
「……危険はないと思うが、念のため、伯爵とアキラの保護者に確認してからじゃないと、俺からは何も言えない」
「あ、うん」
てか、保護者とな。
「確認します」
わかってますーって顔で、オットーさんが頷いた。
「お願いします。くれぐれもアキラ一人で暴走しないようにしてください……」
……と、オットーさんに頭を下げるチェリオ君。
「や、暴走とかしないし」
「……アキラさんは目を離すと予想外の行動をしますから」
なんと。
そんなはずない。
俺は常に理性的に行動してるはずなのに。
……まあ、そりゃ?ちょっと興味惹かれることに遭遇すると、ちょーっとね。先行しちゃうこともあるけどさ。最近はないよね?クリスにお伺いたてながら行動してるよね?一応王族として自覚を持って行動してる、よね?
「頼むから、一人で行動しないでくれ」
「平和のためにお一人での行動はおやめくださいね」
二人からほぼ同時にたしなめられた。
解せぬ。
*****
「あきぱぱね、まほぅ、いっぱい、の」
「ほう。アキラ殿は魔法がたくさん使えるのか」
「う!ましろね、おみじゅ、うーん、て、だすの」
「マシロも魔法を使えるのか」
「う!あね、ましろの、れんちゅ、みるの」
「アキラ殿がマシロの教師ということか」
「きょうち?」
「……教える者、ということだな。マシロはアキラ殿から魔法を学んでいるのだろう?」
「う!」
「ならば、親であり、教師でもあるのだな」
「う!あね、ましろね、あきぱぱのまりょくも、ういすぱぱのまりょくも、だいちゅき」
「大好き?」
「う。おいちぃの」
「美味い?」
「……マシロ、女王陛下が困ってしまわれるから。そのあたりでやめなさい。ほら、しっかり食べないとアキが心配する」
「あーぃ!」
「……魔力を食べる……というのは、聞いたことがありませんが……、一体それは」
「グレゴリオ殿下。幼子の言うことなので気にしないでいただきたい」
「クリストフ殿下、幼子ほど真実を喋る存在はいないと思うが?」
「陛下、それは」
「……まあ、いいだろう。いずれ詳細が知れるだろう。さあ、マシロ、私のところにおいで。甘いものを食べよう」
「あーい!」
「(女王陛下様の方がクリストフ殿下よりも一枚も二枚も上手だわ……。いいわ。こういう方こそ『女傑』だわ……!! )」
昼食風景。
クリス、マシロ、リアさん(給仕)、女王様、グレゴリオ殿下。
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