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自由の国『リーデンベルグ』

34 友達って、やっぱりいいな

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「……………」
「……………」

 場所を変えましょうか、と、苦笑したベルエルテ伯爵に促されて、俺たちは全員で研究所の客室みたいなところに移動した。
 オットーさんとザイルさんは他の護衛さんと一緒に部屋の外で待機だ。
 俺とクリスは並んでソファに座り、テーブルを挟んだ向かい側にチェリオ君が座ってる。もう相当顔色が悪い。確実にカチカチに固まってる。
 グレゴリオ殿下は、俺たちの右角隣で、その向かい側の一番扉に近いひとりがけソファに伯爵が腰掛けている。

「えっと……」

 さて、どうしたものか。
 幸いなのは、クリスの機嫌がそこまで悪くはないことかな。チェリオ君を威嚇するような気配はない。よかった。

「あの……、クリス、俺が学院に行ったときに、親切にしてくれたチェリオ君……っていうのは、もう話したと思うけど」
「ああ。…昼食のときにも同じテーブルについていた者だろう。覚えている」
「うん」

 クリスは俺の腰から手を離さない。
 ……うん?あれ、もしかして、これ、クリス、牽制してるのか?俺が感じてるよりずっと機嫌が悪いのか?

「クリス」
「ん?」
「大丈夫だから」
「……アキ」

 違う。
 クリスのこの目は『心配』だ。

「チェリオ君は大丈夫だよ」
「……アキが、それでいいなら」

 うん、大丈夫。
 言いふらすような人じゃないし、俺のことがバレたって、それで態度を変える人じゃない……と、思う。
 クリスは俺の頬と額にキスをして、腰から手を離してくれた。
 ……やっぱり心配の他に牽制の意味もあったな。多分。

「ええっと、チェリオ君、あの……」
「本当に王族?……ですか」

 とってつけた言い方に苦笑してしまう。

「うん。エルスターの、クリス……と、結婚してる。あ、けど、元々は平民だし」

 この世界の人間でもないけど。

「………冗談、ではなくて、……ですか」
「うん。ごめん。ほんと」

 まだ呆然とするチェリオ君と、俺しか話さない空間。

「俺さ、むこうで魔法学院作りたくて。そしたら、ギルマス……えっと、ベルエルテ伯爵のお兄さんが、こっちの学院見てきたら良いって教えてくれて。それで、学院と研究所の視察に来たんだよね」
「学院を作るって、え、なんで……ですか」
「チェリオ君、普通に話してくれていいよ?」
「いや、あ、ですが、王族の方に」
「チェリオ君、友達なのに」
「おれ、私、ずっとアキラ様のことを、呼び捨てに――――不敬罪、とか」
「それで不敬罪とか言われたら、一緒に来てるリアさんとか、それこそ護衛コンビだって不敬罪って言われちゃうし」

 正式な場所なら多分問題になることもあるんだろうけど、学院もここも、正式な場所じゃない。

「学院では同じ生徒だし。聴講生の俺に色々教えてくれたのチェリオ君だし。俺ね、チェリオ君と友達になれてよかったーって、ほんとに思ってるよ?俺が学院生活楽しめてるの、チェリオ君のおかげだと思ってる」

 駄目かな。
 やっぱり萎縮しちゃうんだろうか。
 楽しかったけど、距離置かれちゃうんだろうか。
 チェリオ君がどう答えてくれるか、もう内心ドキドキのハラハラだった。
 無意識に手も硬く握りしめていて、気づいてもそれを解くことができなかった。

「………ごめんね。無理はしなくていいから。できれば俺のことは――――」
「アキラ、って呼んでいいの?」

 ぶっきらぼうな返答。
 でも俺が視線を上げたら、照れたような、困ったような表情のチェリオ君と目があった。

「うん。もちろん。今まで通りにしてくれたら、俺も嬉しいし――――」
「……それでいいなら、そう、呼ぶ」

 答えてくれたチェリオ君に、ようやく俺の緊張が解けた。

「よかった~~」

 ぐったりとソファに体を投げ出してしまった。すかさずクリスが俺の肩を抱き寄せる。

「クリス、チェリオ君がわかってくれた!」
「そうだな」
「へへ…嬉しい」
「……そうだな」

 クリスは珍しく微笑んで、静かに俺の額にキスをする。
 向かい側から「ひっ」てひきつるような声がしたけれど、チェリオ君、何があった。

「あー………、ああ……、言ってた。確かに言ってた。父上が言ってたの、こういうことだったのか……」

 ぐったりと天井を見上げたチェリオ君。
 ぶつぶつ呟いているけど、大丈夫だろうか。

「それにしても、なんでチェリオ君が研究所にいるの?まだ入所してないよね?」
「チェリオは去年から時々ここで魔導具制作に携わっているんですよ。魔力制御もうまく、所員にも可愛がられています」

 フォローを入れてくれたのは伯爵だった。
 すごい。まだ学生なのに、ほぼ研究所の職員じゃん。

「……なんで教えてくれなかったの」
「別に、言いふらすようなことじゃないし」

 うん、いつものチェリオ君だ。安心した。

「あ、じゃあ、今日も何か作りに来てた?」
「まあ」
「どんなの?」
「言わない」
「え?」
「秘密。まあ、出来上がったら見せるから」

 なるほど。できたら見せてくれるんだ。なら、待ってよう。

「うん。楽しみにしとく」

 こういうやり取り、友達!って感じがしていい。やっぱりいいな。嬉しい。










*****
「お菓子作りは明日にしましょうね。マシロちゃん、準備の最後の確認をしましょう」
「らじぁー!」
「うふ。可愛い。さて、アキラさんと殿下が帰ってきたら、まず言うことは?」
「あぃ、おかえぃ、いう!」
「正解~!それから?」
「んと、あきぱぱと、くりすぱぱ、だいしゅき」
「うんうん」
「ましろね、いいこしてた」
「うんうん!」
「あね、あね、ごはんたべりゅの」
「そうね」
「んと、んーと、『おいちくなぁれ』って」
「おしい!」
「はぅっ、う、あね、『もぇ、きゅう』?」
「それもおしい!けど、可愛いからおけ!」
「おけ?」
「うんうん。そしたらつなげて言って」
「あい。『おいちくなぁりぇ、もぇ、きゅうぅ』う?」
「ばっちり!!!!」
「きゃあ!」
「マシロちゃん、可愛い!!」
「うひゃ」




※「ちょっとリアさん、マシロに何おしえてるの!?」(アキ)
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