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自由の国『リーデンベルグ』

30 生徒会長さんとか言う人が鬱陶しいっ

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 生徒会長という人、しつこい。鬱陶しい。





「アキラ殿、生徒会室でお茶を」
「いりません」

「馬車までお送りします」
「間に合ってます」

「教室までご一緒しても?」
「学年がちがいます」

「今日の昼食に私の家の――――」
「チェリオ君と食べるからいらないです」

「今日は私の学年が魔法実技演習なんですが、私も杖を使用してみようかと思い」
「ご自由に」

「他国の珍しい菓子が手に入ったので、どうでしょう」
「食べたくないです」

「アキラ殿はどのような魔法をお使いになりますか?」
「答える義理はないと思います」

「アキラ殿――――」





「ってさああああ!!!!」

 俺の八つ当たりを受けたクッションが、ボフンとベッドに転がった。

「あきぱぱ、おこ」
「そうですね。珍しいですね。マシロちゃん、『おこ』って可愛いです。満点です」
「うひゃ」

 マシロとリアさんの会話を聞きながらも、俺の八つ当たりは止まらない。
 なんなんだよ、あの人。本当に鬱陶しい!!

「アキ」

 ぎゅむってクリスに抱きしめられて、椅子に座ったクリスの膝の上に座る形になった。
 それでも俺の鼻息が荒い。

「すみません…。私がついていながら」
「ザイルさんのせいじゃないですっ」

 ザイルさんはしっかり護衛の仕事をしてくれている。
 俺が逃げ遅れて手を取られそうになったり腰に腕を回されそうになったりしても、ザイルさんがしっかり阻んでくれているから、あのしつこい生徒会長さんを不意の魔法で吹っ飛ばすような事態にはなってない。

「毎回っ毎回っ、断ってるのにさ!!初日から始まって、朝馬車を降りたらもういるし、休み時間にも現れるし、昼なんて食堂で待ってるし、授業終わったら迎えに来てるしっっ。生徒会室断ったら馬車までおくられるし……!!」

 ああ、ほんとに苛々する。
 苛々するからクリスの胸元に頭をこすりつける。
 そしたら、クリスの手が俺の頭をなでてくれた。……それでちょっと、心が落ち着く。

「エアハルトより酷そうだな」
「そうですね。……未成年ということでこちらとしても手が出しにくいですし」

 クリスとオットーさんの、エアハルトさんの評価が酷いことを改めて認識した。……けど、そのエアハルトさんより酷いと称される生徒会長さんの行動。

「……最近、エアハルトさん、意外と普通になったと思うけど……?」

 ちょっと不憫でそんな助け舟をだしたら、クリスとオットーさんが示し合わせたかのうようにタイミングばっちりの溜息をついた。なんで。ザイルさんを見たら苦笑顔。

「まあ…エアハルトのことはいいとして」
「そうですね。今考えなければならないのは、そのふざけた貴族子息への対応ですね」

 クリスの指が、今度は俺の首筋をなでる。ちょっとくすぐったいよ。

「ザイル」
「はい。――――初日に接触を図ってきたときは、ベルエルテ伯爵に紹介してもらいたい意図があったと思いますが、最近ではアキラさん自身に興味があるようにも見えますね」

 ザイルさんがそう報告した途端、クリスから上がる気配が変わる。
 俺の苛々がおちついてきたのに、今度はクリスが苛々し始める。

「……ういすぱぱ、おこ」
「そうですね。おこですね。セシリアはうきうきしてますが」
「うき?」
「マシロちゃん、『しー』です」
「しー」
「上手!」

 ……聞こえてるからね?リアさん……。マシロの『しー』は可愛いから許すけど。

「明日からザイルとオットーは交代だ。オットー、徹底的にアキを守れ。ザイルはそのふざけた侯爵子息とやらを調べ上げろ」
「「御意」」

 護衛コンビがその場に膝をついた。
 いつ見ても格好いい。

「さてと。アキ、お前は少し息抜きだ」
「うん」
「俺と――――」
「マシロ、ぎゅーしよ!」
「ぎゅぅ!」

 息抜きならマシロだよね、と、クリスの腕と膝の上からすり抜けて、マシロに向かって手を伸ばした。
 マシロはすぐに満面笑顔で俺に向かってかけてくる。

「………殿下、がんばってください」

 笑いを抑えたリアさんの言葉に、マシロを抱き上げながら振り返った。……そしたらそこに、軽く不貞腐れたクリスの姿。
 俺、クリスの機嫌損ねるようなこと、何かした?





 ザイルさんから変わった護衛オットーさん。
 効果覿面だった。同じクラス(学年)のみんなにも。

「……人が寄ってこない」
「まあ……そりゃ……」
「チェリオ君は見捨てないで……」
「いや、見捨てるとかおかしいだろ。友達だし」

 それでもオットーさんをチラチラ見てて、かなり気にしてる。
 この反応は仕方ないと思う。
 ザイルさんは立ってるだけで周りを威圧するような雰囲気はなかった。こう、柔らかさがあるような感じ。
 けど、オットーさんは違う。基本、表情が動かない。俺が話しかけるといつものオットーさんになって、表情も柔らかくなるけど、それ以外は本当に動かない。
 視線は常に周囲を観察し続けていて、教室や廊下――――学院の構造をしっかりと頭に焼き付けてるんだと思う。
 俺は、この雰囲気に慣れてる。警戒中のオットーさんはいつもこんな感じだし。
 でも、ここにいるのはまだほとんど実戦も知らないような魔法師見習いの人たちばかり。手練の剣士の迫力に耐えられるわけがない。

 オットーさん護衛初日は平和だった。
 生徒会長さんは近くまでは来てたらしいけど、俺に接触すること叶わずで、とても平和だった。オットーさんを乗り越えてでも俺に声をかけようとする気概はなかったらしい。

 そしてオットーさん護衛二日目。
 クリスと相談して、オットーさんに頼るばかりじゃなく、俺自身も防衛の一手段として、範囲の狭い感知を張ることにした。
 お試しなので、効果範囲を狭めて、大体、俺を中心に半径一メートルくらいの。
 感知なので、何かを防げるわけじゃない。障壁とは違うから。でも、より早く気付けることで、逃げることはできるよね、ってこと。それに、感知なら周りに気づかれないし。
 オットーさんっていう護衛がいて、魔力を持つものがわかりやすい感知を使って、ちょっと気持ち的に緩んでたと思う。
 昼食にチェリオ君と連れ立って移動してたとき、斜め背後から突然魔力の塊のようなものがのびてきて、俺の腕をつかもうとしてきた。
 俺はを、振り向きざまに『障壁』で防いでしまった。あまりにも咄嗟のことで、防衛本能みたいなものが働いたと思うんだけど、もうちょっとしっかり意識していれば、障壁なんか使わずに回避できたはずなのに。
 剣すら弾く障壁。下手したら大怪我をさせてしまう。

「………生徒会長さん」

 俺のすぐ後ろに、目を丸くした生徒会長さんがいた。
 俺に伸ばした手はオットーさんがしっかり掴んで止まっていたけど、指先が赤いから障壁で弾かれたのは確かだ。
 大怪我にはなってないようだけど、なんでこんなに呆然としてるんだろう。

「あの…?」
「…………、だ」
「へ?」
「結界、魔法」

 呆然と呟かれた言葉。
 知らないなぁ……そんな魔法。







*****
「はーい!」
「はい、マシロちゃん!」
「あきぱぱの、ちゅかれをとるための、おはなしあいを、はじめましゅ!」
「さすがマシロちゃん…!!」
「…アキの疲れを取るなら俺が」
「ういすぱぱ、あきぱぱを、じめするから、め」
「………だが、アキは」
「殿下、自分の娘が一生懸命考えてるんですから水を差すのはよくありませんよ」
「む……」
「マシロちゃんはアキラさんと過ごす時間が少なくて寂しい思いをしてるんですから、その貴重な時間まで殿下が奪って良いはずありませんよね?」
「……む」
「あねーあねー」
「大体、私だってアキラさんからリアル学園モノの話を聞きたいというのに――――」
「あね!」
「マシロ?」
「マシロちゃん?」
「あきぱぱ、びっくーで、ばーん、した!」
「びっく?」
「う?」
「……咄嗟に障壁魔法使ったのか」
「あのはた迷惑な侯爵家の嫡男絡みでしょうね。……オットーがついているのでアキラさんには害は及びませんし、嫡男に対しても怪我を負わせるようなことはしないかと(怪我をさせる前に制圧するでしょうし)」
「そうだな」
「(ザイル様のご自分の旦那様に対する信頼度が半端なくてイイ……)」



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