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自由の国『リーデンベルグ』

28 何故かザイルさんとチェリオ君が通じ合う

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「……何アレ」
「選民意識が強い上に魔力も高いから、侯爵家実家でちやほやされて育って、自分の思い通りにならないものはないと考えてるやつ」
「ああ……なるほど」
「生徒会に入ったのだって家の権力だとか金の力だとか言われてるしな。…俺にはどうでもいいんだけど」
「……チェリオ君ってそういうのに興味なさそうだもんね」
「まあ」

 殺伐とした空気が少し和んだ。
 よかった。

「でも、あいつ、あんな感じでも頭が悪いわけじゃないんだよ。魔力だって確かに強いし、扱える属性も四属性あるからな。大概のやつは敵わない」
「四……」

 そうなんだ。
 感知使ってないからわからなかった。
 でも、本当に魔力の強い人って、感知しなくてもなんかわかるんだけどな。こう、肌にびりびりってくる感じで。

「そこまで強い人じゃないと思うんだけどなぁ」
「え?」
「あー、うん。独り言!」

 ザイルさんには聞こえたようで、一歩下がった隣で苦笑してた。

「……まあ、気を付けた方がいいとは思う。アキラに興味持ったみたいだし」
「今の生徒会って、じゃああの生徒会長さんのシンパの集まり?」
「しんぱ??」
「あー……えっと、めっちゃ尊敬してる、って感じの」
「いや。むしろ、迷惑被ってるはずだ。さっきも仕方なく……みたいな顔してたし」
「そうだっけ?」

 インパクト大きすぎて生徒会長さんのキラキラしい笑顔しかみてなかった。

「皆さん、黙々とお食事されていましたよ」
「そうなんだ?」

 ザイルさんが付け足すように教えてくれた。
 生徒会長さんは手をつけていなかったのに。

「なんで誰も不平不満言わないんだろう」
「強いから」
「……へぇ?」
「あと、興味ないから、ってのもある」
「チェリオ君だけじゃなくて?」
「そう。……ここは魔法学院だろ?」
「うん」
「ここに来るやつは、大概が魔法に興味津々なやつらばかりなんだ。生徒会なんて雑務、魔法を突き詰めたい奴らは誰もやりたがらない」

 おお……なるほど。
 研究者が権力に興味ないのと一緒か。

「……強いと文句言わなくなるもの?」

 クリス隊は完全実力主義。今のところ、オットーさんに勝てる人がいないから、設立して今まで、団長はずっとオットーさん。

「そうですね。私たちの場合は団長が絶対的な力を誇示してきますからね。あれですよ。『文句があるなら俺より強くなってから言え』みたいな」
「ザイルさんも何も言わない?」
「私は……というか、皆、意見は言いますよ?まあ……文句も言いますけどね。リオがいつも喚いてるじゃないですか」
「あー……」

 リオさんは確かにいつも文句を言ってる。訓練が厳しいとか、休みたいとか、もっと優しく、とか。
 それをオットーさんの前で言ったりするから、訓練量が倍になったりしてるけど。

「多分、生徒会という彼らの関係と私たちの関係は全く違うものですから、文句、というのも少し違うかもしれませんね」

 ザイルさんはどこか思案するように言葉を紡いだ。

「報復を恐れて言いなり、ってところでしょうか」
「なるほど……?」

 ザイルさんはそれを言ったきり、また表情を戻して、きりりっとした護衛顔に戻った。

「あってる?」
「あってる」

 俺たちの話を黙って聞いていたチェリオ君に聞いてみたら、あっさりと肯定された。

「だから、生徒会の他の面子がいても安全ってわけじゃない。あいつならそいつらも使ってアキラのことを手の内に入れようとしてくるかもしれない」
「なんで俺」
「伯爵の縁戚だからだよ」
「うーん?」
「あいつは伯爵に近づきたいんだよ。侯爵って身分を使っても、国内の現最高位の魔法師で、研究所の所長で、殿下からの信頼も厚い伯爵だから。別に伯爵を出し抜こうとか、そんなことじゃない。伯爵に顔を覚えてもらって好待遇で採用してもらいたいだけ。あわよくば、そのつながりで第二王子殿下の側近になりたいだけ」
「……俺、完璧な踏み台」

 なるほどな。
 まあ、俺が感じたことがほぼ間違いじゃなかった。
 うんうん、って頷いていたら、チェリオ君が『はぁ』ってあからさまな溜息をついた。

「搦め手であまり効果がなさそうだったから、次は直接来るだろうから。どうにも嫌な目をしてたし。…ってことで、多分問題が」

 後半、チェリオ君は何故かザイルさんの方を見た。
 ザイルさんはそんなチェリオ君に笑顔で頷く。

「ええ。わかっていますから」
「お願いします。友人として、心配なので」
「ええ」

 ……俺、わからんが。

「なんの話?」
「アキラに護衛がついていてよかったな、って話」
「そんな話してた?」
「してた。というか、今、した」
「うん????」

 わかんない。
 絶対、そんな話はしてなかった。

「それにしても、護衛って……、よく許可が下りたよな」
「あー……、えー……っと」

 うまい言い訳がでてこなくて、曖昧に笑ってごまかした。

「護衛がつくのなんて、王族が入学したときくらいなのにな」
「ははは……」

 意図のないチェリオ君の発言に、俺の乾いた適当な笑い声は続く……。








*****
「ぴ」
「マシロ?」
「マシロちゃん?」
「うー…」
「どうした」
「あきぱぱね、うーんうーんってしてる」
「あら。何か悩み事かしら」
「マシロ、他には?」
「う?…うー、ない」
「そうか。なら心配いらないな(帰ってきたらザイルに聞くか)」
「……(めっちゃ心配そうな顔してますよ、殿下)」



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