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自由の国『リーデンベルグ』
27 キラキラしい人たちは
しおりを挟む「えっと……どちら様?」
「アキラ」
チェリオ君の苦笑。
え、何か、駄目だった?
「生徒会だ。どうせアキラの噂を聞いたんだろう」
俺の噂とは。
それに生徒会。生徒会とな。
「俺、何か悪いことした?」
「は?」
「生徒会が俺に用事あるってそういうことじゃないの?……あ、俺に用事ってことじゃない?お昼一緒にしよーってお誘いだったっけ。俺はいいけど、チェリオ君は?」
「……ああ、俺も構わないけど」
キラキラしい人たち――――生徒会の面々らしき人たちは、俺たちの会話に一切言葉を挟むことなく、胡散臭い笑顔のままそこにいた。
「えっと……そういうことで、どうぞ?」
「ありがとう」
ニカっと笑うとキラっとする白い歯。古いCMの文句がでてきそうな感じの。
「食事を受け取ったら適当な場所にいてください。後から私たちが向かいますから」
「あ、はい」
……『生徒会専用の場所に』って言われなくてよかった。そんなところに招かれたら緊張で味がわからなくなりそう。
俺とチェリオ君が頼んでいたものが出来上がって、とりあえず隅っこのあたりを陣取った。俺の右隣にはチェリオ君が座って、左隣にザイルさんが座って、さっそくリアさんお弁当を広げている。
「生徒会なんてあるんだ」
「そりゃね」
「…じゃあ、俺たちに話しかけてきたのは生徒会長?」
「そう」
「でも見たことないけど」
「生徒会は俺たちの下の学年が受け持つんだ。今の生徒会は、会長と会計の一人が五年で、副会長と会計のもう一人と庶務が四年だったはず」
「へぇ」
「声をかけてきたのは、俺と同じ侯爵家の嫡男。身分意識が強いくせに外面のいい厄介な奴だよ」
「へぇ……」
チェリオ君の言葉がとげとげしい。好きじゃないんだ。
身分意識かぁ…。それは俺も親しくはなれなさそう。
「アキラさん、私はそばを離れませんから。…ただ、魔法を使用されるとどうしても反応が遅れる場合があるので」
いち早くお弁当を食べ終わったザイルさんが、俺にそう耳打ちをして立ち上がった。お茶、飲んだかな。大丈夫だろうか。
「うん、大丈夫」
「はい」
ザイルさんは俺に笑いかけてくた後、護衛の顔に戻った。こう……軽い軽いとても軽い威圧を周囲に放ってる、そんな雰囲気で、俺たちの近くにいた生徒さんたちの間に緊張感が増したのがわかった。
「失礼しますね」
そんな中、キラキラしい生徒会長だという彼たちがやってきた。
みんなそれぞれにトレイを持っていて、俺たちの向い側の席に落ち着く。
生徒会長さんだという人は、俺の左隣――――ザイルさんが座っていた席をちらちら見ていたけれど、そこには座らせない。立ち上がってるけど、ザイルさんがいるしね。
諦めたらしい生徒会長さんは、俺の真向かいの席におちついた。
「改めて。生徒会長をしているコルラド・インザーギと言う。このようなお誘いをして申し訳ない」
「いえ…。えっと、アキラ・……ロレッろ、です」
……また噛みそうになった。あまりこの偽名を使わせないで。そのうち本気で舌がなくなりそう。
「えーと、それで、なんの用で…?」
「あまり警戒しないでいただきたいんだけど。昨日、君が杖について熱く語っていたと噂を耳にしたから、どんな人物なのか見ておきたかったんだ」
見て。
俺、観察対象ですか。
「えーと……、御覧のとおりごく普通の魔法師なんですけど。あ、まあ、そりゃ、ちょっと小さく見えるかもですけどね?こう見えてもちゃんとチェリオ君と同じ歳ですし」
右隣から吹き出す音が聞こえた。
……ひどいな、チェリオ君。
左隣からも、肩を揺らす気配を感じた。
……ザイルさんまでひどい。
「体の大きさは別に構わないんじゃないかな。君の可愛い顔に似合った体格だと思うよ」
歯をキラキラさせながら。
料理冷めるよ?
にしたって、似合った体格、ってさ。可愛いってのもゾワっと悪寒しか走らないし。
この人も初対面で大概ひどいな。俺からしてみれば、こっちの世界の人たちは、みんな育ちすぎなんだよ。
「えーと、アリガトウゴザイマス?」
口元がひくつく。
でもそこは、対貴族の鉄壁の笑みで……って思ったけれど、どうにも頬がピクピクしてうまくいかない。
「それで、かの伯爵家の縁戚であるロレッロ子爵のご子息があの考え方ということは、かの伯爵殿も同じ考え方と捉えてもいいのかな」
あ、理解。
この人、俺から伯爵につなぎをとりたい人だ。
「さあ……。あれはあくまでも俺の考えなので、伯爵がどうお考えかまではきいたこともありませんので」
「伯爵の兄上にあたる方は今この国にはいらっしゃらないけれど、確か、一度拝見したときには杖も剣も使ってはいなかったと思うのだけど、どうだろう」
「……さあ?」
そりゃ多分追い込まれてなかったんだね。軽い戦闘だったんだろうね。ギルマス、剣を使うからね。毎回じゃないけど。
俺は首を傾げた。
これでこの話は終わってくれよ、そんな意思を籠めて、生徒会長さんを見る。
「……黒い瞳なんて珍しいね」
「はぁ。…俺がいたところでは全然珍しくもなかったんですけど」
「そう?それは素晴らしい国だね。…それにしても、そんなに綺麗な瞳は見たことがない。どうかな。今度生徒会室に来ないかい?もちろん、一人で」
さて。
これはどういうお誘いなのか。
頭の中でむこうで読んだラノベがいくつも浮かんで消えて、学園もののラノベにたどり着く。生徒会、転校生、溺愛、婚約破棄――――一連の乙女ゲームみたいな内容が、駆け抜けた。リアさんが喜びそうな展開なんだけど、生憎俺は転校生ではないし既婚者なので、恋愛に発展する要素がこれっぽちもない。
「私にもブリアーニ殿と同じように『アキラ』と呼ぶことを許してもらえないだろうか?」
って、傍から聞けば甘ったるい猫なで声で言った生徒会長さんが、不意に手を伸ばして俺の手に触れようとした。その手をザイルさんが阻むのと、俺が瞬時に手をひっこめたのはほぼ同時。ついでに、手がアイスティーが入っていたグラスにひっかかって俺のトレイの上に流れた。
「護衛の分際で私に触れるな」
「ええ。そうですね。私も触れたくはないのですが、私はアキラ様の護衛ですから。許可もなく触れようとしている手を見過ごすわけにはいきません」
魔法師としてどれくらい強いのかわからないけれど、所詮は俺より年下の、まだ成人を迎えていない未成年。穏やかな声で凄んだザイルさんの迫力に敵うはずもなく。
「……っ、まあ、いい。……アキラ殿、それではお待ちしておりますから」
――――と、貼り付けた笑顔で手をひっこめて、生徒会長さんが席を立った。
……ごはん、手つかずだけどね?残すの勿体ないと思うんだけど。
そして気づく。
生徒会長さんの情報に気をとられてて、ザイルさんのリアさんお弁当を見るの忘れてた……!!!!
*****
「ザイルに弁当を持たせたのか?」
「ええ。さすがに護衛という立場ですと、その食堂を使うわけにいかないでしょう?それに、ザイル様お一人なので、交代で昼食を摂ることもできませんし。なので、ささやかながら私が厨房をお借りして、お弁当をおつくりしましたよ」
「……アキが欲しがるだろ」
「ましろも、りーあの、たべぅ!」
「ふふ。では明日のお昼にはマシロちゃんのお弁当も準備しましょうね。アキラさんが食べたいとおっしゃるのでしたら、もちろん腕によりをかけておつくりしますよ」
「これ以上アキをなつかせてどうするつもりだ」
「どうもこうも……。ええ、ただ、ちょっと、学院でのお話を聞ければいいかな、と。楽しそうじゃないですか。学院。そりゃ、殿下にとっては気が気じゃないでしょうけど、ザイル様という護衛もいらっしゃいますし、あの周囲に鈍感…………んんんっ、あまり気になさらないアキラさんなら、全くなんの問題もおきないですし」
「……まあ」
「あきぱぱ、め、なの?」
「ううん。ただね、マシロちゃんやくりすぱぱと離れたあきぱぱにね、好き好きーって言ってくる人がいっぱいいるかも、っていうことなの」
「しゅき?ましろも、しゅき」
「他の関係ない人がアキラさんを取るの、嫌でしょ?」
「う。いや」
「くりすぱぱは、それを心配してるの。ふふ。そんなの絶対ないのにね」
「ね!」
「………」
暗に嫉妬するだけ無駄とリアさん追撃。
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