上 下
199 / 216
自由の国『リーデンベルグ』

26 学院二日目です

しおりを挟む



「ロレッロ様、この杖を見てください!!このしなやかなところとか、はめ込まれた宝石が美しいと思いませんか!?」
「いや、この自然な木の曲がり具合の方が綺麗だろ」
「樹木素材もいいですが、僕の杖は水晶を削り出して作られた一品もので…!!」
「あ、あの、仕込み杖なんて、どうですか?」
「え、えっと、はい、全部、いいと思います…?」

 翌日の登校。
 チェリオ君と話してる間に、俺は多数の生徒さんたちに取り囲まれ、謎の自分の杖大披露大会に巻き込まれた。
 何故。
 チェリオ君よ。
 笑ってないで助けてはくれまいか。
 とりあえず、水晶製の杖はキラキラしてとても綺麗だった。




 俺が聴講生として学院に通うために、クリスといくつか約束をした。
 まず、護衛としてザイルさんを常に同行させること。これは、学院長先生からも了承を得ていて、今俺がいる教室の後ろに、しっかりと濃紺の制服を着こんで隙なくたたずむザイルさんがいる。教室に入ってきた生徒さんたちは、最初ぎょっとした顔をしていたけど、俺の護衛で…って説明したら、すんなり納得してくれた。そしてザイルさん、何気に女子生徒さんたちに人気。全て断ってはいるけれど、話しかけられたりお菓子を渡されそうになっていたりと、人気ぶり。大丈夫。オットーさんに告げ口したりしないから。
 それから、ムヤミヤタラに『格好いい』と言わないこと。俺がそれを言うことで、好意を寄せてくる人が出ないとも限らないし、そんな生徒さんや教師が出たら、クリスとしては気が気じゃないから通学は許せなくなる、と。『格好いい』だけじゃなくて、褒めちぎるのも駄目って言われた。
 そして、触らない、触らせない、こと。授業でどうしても必要なとき以外、って注釈付き。俺がごまかそうとしても、ザイルさんが監視の役目も担っているから、隠し事はできない。する気もない。

「アキラ、大人気」
「なんで突然……」

 ようやく人の波が引けた。
 教室の外の廊下には、恐らく下の学年の生徒さんらしき姿もちらほら見えるけど、気づかないことにする。
 チェリオ君はこの状況を面白そうに見るだけ。

「……まあ、予想はできてたけど」
「なんで」
「お前が昨日杖を褒めまくってたから」
「……だって」

 本心からの言葉だったわけで、こんなことになるなんて思ってなかった。

「駄目だったのかなぁ」
「そんなことないだろ」

 チェリオ君は俺の頭をなでようとして、すぐにひっこめた。昨日、俺が避けたからね。

「杖を持たないやつが杖持ちを馬鹿にする風潮はあったし、それ自体は嫌な雰囲気だったからな。教え方に偏りがあるせいってこともあるだろうけど」
「やっぱり杖を持たない方がいいっていう感じ?」
「まあな。杖がなきゃまともに魔法が使えない状況だと、いざってときに何もできなくなる時があるかも、だから基本は杖は持たない方がいい、ってやつ」
「変なの」
「偏ってるだろ?」
「うん」

 教師の人たちに杖もちの人、いないんだろうか。
 でも、そうか。
 俺の学院で杖についての教科を取り入れるのもいい。
 あと、食堂必須!おいしいごはん提供してほしい!

 教室を移動するとき、昨日よりも視線を感じた。
 魔法学院、基本的には一学年一クラス。魔法師になれる人がそれほど多くはないから、この規模。でも、魔法師の育成は国にとっても大事なことだから、設備としてはかなり充実している。食堂が基本無料でとてもおいしいこともその一環だし、一部の生徒さんのために寮が完備されているのもいいことだと思う。

 今日の授業は五講全て座学。
 その中でも魔物に関する授業については真剣に聞けた。……ほかのだってそれなりにちゃんと聞いているけど。
 今のところ知られている魔物の生態系とか弱点とか。最高学年になると、実際に郊外で魔物討伐に参加する実習もあるのだとか。
 これも、必要だよな。俺の知識も混ぜれば、専門的なものになりそう。




 午前の授業を平和に過ごし食堂に移動するとき、こっそりザイルさんに確認した。

「クリス、いる?」
「今日はいません」

 って、ザイルさんもこっそり教えてくれた。
 一応、朝のうちに予定は確認したけれど、予定になかった視察に来たのが昨日だったからな。
 ザイルさんがそういうなら間違いないだろう。
 内心ほっとしつつ、チェリオ君と肩を並べて食堂に入った。
 今日もそれなりの込み具合。

「あ、ザイルさん、お昼は?一緒に食べないと食べる時間ないよね」
「それなら、セシリア嬢がお弁当を持たせてくれたので」
「え」

 なんと。
 それは知らなかった。
 リアさんのお弁当……ちょっとうらやましい。絶対おいしいやつ。

「……アキラ、護衛の人とそんなに親しく話すんだな」
「え?」
「護衛はめったなこと話さないし、呼び方だってそんな呼び方しないだろ」
「あー……」

 改めてザイルさんを見たら苦笑された。
 ザイルさん、だし、アキラさん、だし。
 確かに、護衛と護衛対象の呼び方にしては、不自然だったかもしれない。

「別に。ザイルさん、俺のお兄さんみたいな存在だし、俺たちにとっては不思議じゃないから」

 嘘じゃないよ。ほんとにそう思ってるから。
 ザイルさんはどこか嬉しそうに笑ってくれた。

「そうなんだ」

 チェリオ君はうんうんと頷いてくれた。
 深く突っ込まれなくてよかったと思う。

「じゃあ、今日は何を食べる?」
「んー」

 メニュー表を改めて見ていたときだった。

「すみません。私たちも同席させてもらえますか?」
「え」

 俺とチェリオ君に、そんな言葉がかかった。
 驚いて振り向いたら、やたらキラキラしい人たちが五人。キラキラしい笑顔で立っていた。






*****
「きょう、ういすぱぱ、いっしょ?」
「ああ。今日はマシロと一緒だ」
「ふあああああ」
「よかったね、マシロちゃん」
「う!う!りーあ、ましろね、うれち!」
「……そうだ。マシロ、俺と城下町にでも行ってみるか」
「じょーか、まち?」
「そう。西町のように色々売っているだろうから、お前やアキが好む菓子もあるかもしれない」
「いく!」
「ん。じゃあそうしよう。――――セシリア、グレゴリオ殿下に連絡をいれてくれ」
「かしこまりました」
「同行はオットーとセシリア。それ以上の護衛はいらないとも伝えてくれ」
「はい」
「おでかけ~おでかけ~」
「マシロ、セシリアの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「う!きく!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。 僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。 僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。 えへへ。 はやくニールと結婚したいなぁ。 17歳同士のお互いに好きすぎるお話。 事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。 ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。 _______________ *ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。 *短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。 *不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。 *甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...