魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
195 / 216
自由の国『リーデンベルグ』

22 魔法実技演習

しおりを挟む




 訓練場での授業は、設置してある的に攻撃魔法をあてること。
 杖を使っている生徒もそうじゃない生徒も、いくつかある的に向かって魔法を放つ。
 こういうのはよくやることだよね。そう、わかってる。チート持ち主人公の場合、的を全部吹っ飛ばしたり壁に大穴を空けたり訓練場を更地にしたり、そういう規格外のことをして注目を浴びるんだ。
 俺は、わかってるから、そんなことしない。しないともさ!

 俺が『使う』のは、水と氷…ってことにしてあるけど、他の人は何種類の属性を持ってるんだろう。多分魔力感知を使えば全員の属性はわかるけど、それはなんか味気ないというか、そこまでする意味がない。戦うわけじゃないし、相手の魔力が見えたからと言って俺に利点はない。
 というわけで、特に感知を発動させるわけでもなく、生徒たちの動きを見続けた。
 攻撃に使われている属性には火が多い。
 的には何かしらの魔法がかけられているのか、火の魔法が当たっても燃えることがない。不思議な的だ。

「火球!!」

 詠唱というほどのものではないけど、技名を叫んでる生徒もいる。あれだな。俺が「ファイアーボール!」って叫ぶのと一緒。叫ばないけど。
 無詠唱は時間短縮ができるけど、それも慣れだと思う。叫ぶことで気合をいれる意味もある。長たらしい詠唱は無意味だけど、単語で気合を入れたりするのは有効かもしれない。味方に対しても行動の提示になるしね。
 防御に使う『障壁』がいい例かもしれない。

「水流」

 水の人がいた。
 すいりゅう……水竜?なんだそれ格好いいな!?って思いながら見たら、手元から水を放出しているようだった。どこが『竜』?って思ったけれど、自分の間違いの方に気づいて変な笑い方をしてしまった。
 『水竜』じゃなくて『水流』だ、きっと。多分。それにしても流れる水の量が多い。

「あ、わ、わ」

 出した本人も対応できてない。
 火魔法は霧散して終わってたけど、水魔法は大概その場に水が残る。

「魔力を抑えて」
「あ、うわっ」

 教師が近づいていくけど、魔力の制御がうまくできていないのか、その生徒は涙目で慌てるだけ。
 あ、これ、ほんと訓練場が水浸し案件だ……。
 魔力の放出を止めた上で、この水を消すかほかに移すか……、そうしたら訓練場水浸し案件は回避できるけれど……、俺なら多分できるけど……、はて、どうしたものか。

「落ち着きなさい」

 悶々と考えていたら、殿下が動いた。
 涙目生徒は殿下の方を見て、さらに泣きそうに……いや、泣き始めた。

「落ち着いて。自分の魔力の流れはわかるでしょう?杖を下にむけて、魔力を切っていくんだ」
「…っ、ですが」
「大丈夫」

 安心できそうな『大丈夫』だった。
 涙目生徒もそれをしっかり感じたのか、頷いて何度か深呼吸を繰り返し、ゆっくりと腕を下に降ろした。
 制御を失くした水が一気に地面に落下して大きな水たまりができた。…蒸発でもさせようか。こっそり使えばきっと誰も気づかない。……や、クリスなら気づくか。クリスなら気づかれてもいいや。
 じゃあやってしまおう……って魔力を向けようとしたら、すぐ近くで魔力が高まるのを感じた。
 はっとして魔力の元を確認したら、水暴走気味だった涙目生徒を宥めていた殿下だった。
 大きな水たまりに向かって指を振ると、熱風が駆け抜けた。火と風の複合魔法。……つまるところ、超巨大高性能ドライヤーってところか。
 やろうとしていたことは俺と同じ。そしてちゃんと目的を達成していて、地面はからっと少しの水気も残さず乾いていた。……若干、草が焼けているようにも見えたけれど。

「あー……またちょっとやりすぎた」

 って、苦笑する殿下。
 でも、周りの生徒たちからは感嘆の声が上がるし、教師は控えめに手を叩いてる。
 この気さくな感じで好かれてるんだろうか。憧れの対象的なことチェリオ君も言ってたしな。

「さすが殿下」

 こそっと、控えめな声でチェリオ君が称賛した。
 グレゴリオ殿下に聞かれたいとかそういうんじゃなくて、純粋な感嘆。
 俺としてはどこまで言葉にしたら良いか分からなくて、曖昧に「そうだね」と相槌を打つだけ。
 俺が不用意に属性とかの話をして、それが万が一秘匿情報とか周囲がわかっていない魔法の使い方だったら騒ぎになっちゃうから。
 大丈夫。
 ほら、俺、ちゃんとわかってる。ね。

「アキラ、ほら、やるぞ」
「あ、うん」

 チェリオ君に的を指さされた。

「そういえばチェリオ君の魔法って」
「俺は雷系統が得意なんだ」

 属性についての質問はもしかして駄目だったかとも思ったけれど、チェリオ君は軽く教えてくれた。

「見せて」
「まあ……いいけど」

 チェリオ君は的に向き合うと、手を伸ばして、パチンと指を鳴らした。そしたら、的にむかって小さめの落雷が起きた。……何個か。的を狙うなら一個で十分だと思うけど、何個か。

「あー……、やっぱまだ上手く行かない」

 本人的にも不満足な結果らしい。
 でも、でもさ、パチン、って、格好良くない!?指を鳴らしだよ!?なにそれ状態でほんと格好いいんだけど!

「チェリオ君、指パッチンで魔法使うの!?」
「ん?ゆびぱ………、ああ、これ?」

 また、パチン、と。
 俺は何度か首を縦に振った。

「いろいろ試したんだけど、これが落ち着いたんだよ。と言っても魔導具造るときにはこんなことしないけど」
「すごい!!俺、色んな人見てきたけど、そんな仕草する人初めて見た…!格好いいよ、すごくいい!!」
「そうか…?」

 俺の大絶賛に少し照れたように笑うチェリオ君。

「うん、ほんとに、かっこ――――」

 興奮気味に褒めちぎろうとした俺の背筋に、またしても悪寒が走った。
 ……うん、そう、ね。
 別に、忘れてたわけじゃない。決してそんなことではない。
 じっとりとしたクリスの視線に、俺は内心泣きそうになっていた。










*****
「あね………、りーあ」
「あれ。起きちゃった?なにか怖い夢でも見た?」
「う……。あね、くりすぱぱ、こぁい」
「殿下が??」
「あい。あきぱぱ、なぃちゃぅ」
「あらら。これは……、マシロちゃんがアキラさんと魔力で繋がってるからわかることなのかしら?」
「う。ましろ、あきぱぱと、いっしょ」
「でも、殿下のこともわかるのは?」
「くりすぱぱね、あきぱぱのまりょく、なの」
「…………………………(察し)。マシロちゃんは本当に二人の子供なのね」
「うふ」
「(マシロちゃん、無垢って無敵だわ)」
「くりすぱぱ、ぷんぷん、おわりゅ?」
「そうね。アキラさんをぎゅーってしたら、もうニコニコになるね」
「う。ましろも、ぎゅ、する!」
「帰ってきたらいっぱいしましょうね」
「あーい!」

しおりを挟む
感想 286

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...