魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

22 魔法実技演習

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 訓練場での授業は、設置してある的に攻撃魔法をあてること。
 杖を使っている生徒もそうじゃない生徒も、いくつかある的に向かって魔法を放つ。
 こういうのはよくやることだよね。そう、わかってる。チート持ち主人公の場合、的を全部吹っ飛ばしたり壁に大穴を空けたり訓練場を更地にしたり、そういう規格外のことをして注目を浴びるんだ。
 俺は、わかってるから、そんなことしない。しないともさ!

 俺が『使う』のは、水と氷…ってことにしてあるけど、他の人は何種類の属性を持ってるんだろう。多分魔力感知を使えば全員の属性はわかるけど、それはなんか味気ないというか、そこまでする意味がない。戦うわけじゃないし、相手の魔力が見えたからと言って俺に利点はない。
 というわけで、特に感知を発動させるわけでもなく、生徒たちの動きを見続けた。
 攻撃に使われている属性には火が多い。
 的には何かしらの魔法がかけられているのか、火の魔法が当たっても燃えることがない。不思議な的だ。

「火球!!」

 詠唱というほどのものではないけど、技名を叫んでる生徒もいる。あれだな。俺が「ファイアーボール!」って叫ぶのと一緒。叫ばないけど。
 無詠唱は時間短縮ができるけど、それも慣れだと思う。叫ぶことで気合をいれる意味もある。長たらしい詠唱は無意味だけど、単語で気合を入れたりするのは有効かもしれない。味方に対しても行動の提示になるしね。
 防御に使う『障壁』がいい例かもしれない。

「水流」

 水の人がいた。
 すいりゅう……水竜?なんだそれ格好いいな!?って思いながら見たら、手元から水を放出しているようだった。どこが『竜』?って思ったけれど、自分の間違いの方に気づいて変な笑い方をしてしまった。
 『水竜』じゃなくて『水流』だ、きっと。多分。それにしても流れる水の量が多い。

「あ、わ、わ」

 出した本人も対応できてない。
 火魔法は霧散して終わってたけど、水魔法は大概その場に水が残る。

「魔力を抑えて」
「あ、うわっ」

 教師が近づいていくけど、魔力の制御がうまくできていないのか、その生徒は涙目で慌てるだけ。
 あ、これ、ほんと訓練場が水浸し案件だ……。
 魔力の放出を止めた上で、この水を消すかほかに移すか……、そうしたら訓練場水浸し案件は回避できるけれど……、俺なら多分できるけど……、はて、どうしたものか。

「落ち着きなさい」

 悶々と考えていたら、殿下が動いた。
 涙目生徒は殿下の方を見て、さらに泣きそうに……いや、泣き始めた。

「落ち着いて。自分の魔力の流れはわかるでしょう?杖を下にむけて、魔力を切っていくんだ」
「…っ、ですが」
「大丈夫」

 安心できそうな『大丈夫』だった。
 涙目生徒もそれをしっかり感じたのか、頷いて何度か深呼吸を繰り返し、ゆっくりと腕を下に降ろした。
 制御を失くした水が一気に地面に落下して大きな水たまりができた。…蒸発でもさせようか。こっそり使えばきっと誰も気づかない。……や、クリスなら気づくか。クリスなら気づかれてもいいや。
 じゃあやってしまおう……って魔力を向けようとしたら、すぐ近くで魔力が高まるのを感じた。
 はっとして魔力の元を確認したら、水暴走気味だった涙目生徒を宥めていた殿下だった。
 大きな水たまりに向かって指を振ると、熱風が駆け抜けた。火と風の複合魔法。……つまるところ、超巨大高性能ドライヤーってところか。
 やろうとしていたことは俺と同じ。そしてちゃんと目的を達成していて、地面はからっと少しの水気も残さず乾いていた。……若干、草が焼けているようにも見えたけれど。

「あー……またちょっとやりすぎた」

 って、苦笑する殿下。
 でも、周りの生徒たちからは感嘆の声が上がるし、教師は控えめに手を叩いてる。
 この気さくな感じで好かれてるんだろうか。憧れの対象的なことチェリオ君も言ってたしな。

「さすが殿下」

 こそっと、控えめな声でチェリオ君が称賛した。
 グレゴリオ殿下に聞かれたいとかそういうんじゃなくて、純粋な感嘆。
 俺としてはどこまで言葉にしたら良いか分からなくて、曖昧に「そうだね」と相槌を打つだけ。
 俺が不用意に属性とかの話をして、それが万が一秘匿情報とか周囲がわかっていない魔法の使い方だったら騒ぎになっちゃうから。
 大丈夫。
 ほら、俺、ちゃんとわかってる。ね。

「アキラ、ほら、やるぞ」
「あ、うん」

 チェリオ君に的を指さされた。

「そういえばチェリオ君の魔法って」
「俺は雷系統が得意なんだ」

 属性についての質問はもしかして駄目だったかとも思ったけれど、チェリオ君は軽く教えてくれた。

「見せて」
「まあ……いいけど」

 チェリオ君は的に向き合うと、手を伸ばして、パチンと指を鳴らした。そしたら、的にむかって小さめの落雷が起きた。……何個か。的を狙うなら一個で十分だと思うけど、何個か。

「あー……、やっぱまだ上手く行かない」

 本人的にも不満足な結果らしい。
 でも、でもさ、パチン、って、格好良くない!?指を鳴らしだよ!?なにそれ状態でほんと格好いいんだけど!

「チェリオ君、指パッチンで魔法使うの!?」
「ん?ゆびぱ………、ああ、これ?」

 また、パチン、と。
 俺は何度か首を縦に振った。

「いろいろ試したんだけど、これが落ち着いたんだよ。と言っても魔導具造るときにはこんなことしないけど」
「すごい!!俺、色んな人見てきたけど、そんな仕草する人初めて見た…!格好いいよ、すごくいい!!」
「そうか…?」

 俺の大絶賛に少し照れたように笑うチェリオ君。

「うん、ほんとに、かっこ――――」

 興奮気味に褒めちぎろうとした俺の背筋に、またしても悪寒が走った。
 ……うん、そう、ね。
 別に、忘れてたわけじゃない。決してそんなことではない。
 じっとりとしたクリスの視線に、俺は内心泣きそうになっていた。










*****
「あね………、りーあ」
「あれ。起きちゃった?なにか怖い夢でも見た?」
「う……。あね、くりすぱぱ、こぁい」
「殿下が??」
「あい。あきぱぱ、なぃちゃぅ」
「あらら。これは……、マシロちゃんがアキラさんと魔力で繋がってるからわかることなのかしら?」
「う。ましろ、あきぱぱと、いっしょ」
「でも、殿下のこともわかるのは?」
「くりすぱぱね、あきぱぱのまりょく、なの」
「…………………………(察し)。マシロちゃんは本当に二人の子供なのね」
「うふ」
「(マシロちゃん、無垢って無敵だわ)」
「くりすぱぱ、ぷんぷん、おわりゅ?」
「そうね。アキラさんをぎゅーってしたら、もうニコニコになるね」
「う。ましろも、ぎゅ、する!」
「帰ってきたらいっぱいしましょうね」
「あーい!」

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