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自由の国『リーデンベルグ』
21 身に覚えのないことです
しおりを挟む俺は勉強が好きってわけじゃない。これは何度も言っているけれど。
でも、およそ一年ぶりの、数日間しかない限定的な学生生活に、俺はかなり浮かれていた。
それに、いるのは普通の学校じゃない。魔法師のための魔法学院だ。
エルスターで俺の近くにいる魔法師は限定的で人数も少ない。なのに、魔法学院にはそれなりの人数がいる。俺がいる最高学年だって、二十名ほどが在籍しているんだから、それだけでも俺にとっては新鮮な感覚だった。
なんか、当初の目的を忘れて楽しんでしまいそうだ……ってちょっと思う。でも、楽しんでいいはず。楽しんで、学んで、ここでのノウハウを持ち帰れれば。あわよくば、新しい学院で俺の考え方に賛同してくれる教師になれる人を見つけられれば。
……引き抜こうとは思ってない。そんなの、お世話になった国に対して失礼だから。でも、もし、「私が」って人がいてくれたら、それはすごく、嬉しいこと。
朝から気を使ってくれてるチェリオ君は、どこか俺と同じ空気を感じた。こう……「好きなことをとことん追求する」って面で。同類かどうか、話せばわかる感じの。
魔導具、エルスターでも作れればいい。こっちの研究機関と連絡を取り合いながらいろいろなものが作れれば、みんなの生活がまた少し楽になる、はず。
杖を使うことがある意味恥ずかしことと思われていることには納得できなかった。
理由はわからなくもない。確かに杖を使わずに魔法を制御できることは、魔力を理解して、鍛錬を積んで、エキスパートになったってことだ。魔法の専門家。魔力に長けた存在。
けど、必ずしもそうじゃないことを、俺は知っている。
ギルマスだってエルさんだって、自分の愛剣を杖の代わりに使ってるんだから。だから、杖を使うことは悪いことじゃないし、恥ずべきことじゃない。
むしろ、格好いいじゃないか。
某魔法使い代表みたいな彼が、自分だけの杖に出会うシーンやそれを自在に操る姿。あれは本当に格好いい。
だから素直に杖を振るう姿は格好いいて言った。本心だからね。
あー、新しい学院では杖の使い方とかも教えればいいのかな。ぶっちゃけ杖じゃなくていいってのは、ギルマスやエルさんが証明してるし、そういわれた。導くための道具だから。
「俺も杖もとうかな…」
いつもいつも左腰が寂しいんだよな。
女性のナディアさんだって、左腰には短剣を挿しているんだ。マウリオさんはナイフとか手斧みたいなものをつけてるし。トビア君は杖を手に入れたから、杖用のホルダーをつけてある上に短剣も装着済み。
俺だけ、なんにもない。本気でなんにもない。
「……作ろうか」
「ふぇ?」
「手元に戻ってくる云々ってのは今すぐ無理だけど、伸縮するやつならアキラがいる間に作れると思うから」
「ほんと!?」
「ああ。まあ、まだ学生の俺が作るものだから、そんなに手の込んだものもいいものも作れないけど――――」
「嬉しい!作ってほしい!!俺だけの杖!!」
「わかった。……期待はするなよ?」
「いや、期待しまくる!!」
「あのなぁ……、……ま、いっか。ちょっとやってみるな」
「うん!」
やった。
これで俺も杖ゲット!
テンション高めで喜んでいたから、周りがそわそわしてることに気づかなかった。恥ずかしそうに杖を持っていた生徒が、生き生きした目で俺をみていたことにも。
さて、そろそろ授業が始まるのかな……って待っていたら、校舎の方から歩いてくる人影が、……三つ、分。
遠目にそれを見て、俺はついつい凝視してしまった。
そして、意識することなく発動した感知は、見間違いとかではなく、クリスがこちらに向かって歩いてきてるってことを明らかにした。
「ク」
リス……って言いかけて、口を手で押さえた。
お昼食べて帰ったと思ったのに。
……や、感知しておけば、クリスの魔力が学院内にとどまっていることくらいすぐわかったのに。
ていうか、来るなんて言ってなかったよね?よね??
「皆さん、お静かに。授業を始める前にご紹介します。皆さんご存じの通り、グレゴリオ殿下と、先日から滞在されているエルスター王国のクリストフ王子殿下です。王族の方の視察でありますが、緊張せず、気負いせず、いつも通りにされてください」
担当教師の紹介後、クリスはみんなに対して軽く会釈した。
そして俺を見たとき、一瞬だけ目を細めて微笑んだけれど、俺の背筋にぞぞぞって悪寒が走った。
……なんで。どうして。
クリスが静かに怒ってるんですが。
え、俺、何かした?何かしたの!?
「あー…やっぱり」
「え!?」
チェリオ君の「やっぱり」発言に過剰に反応した気がする。
俺の慌てた様子に、チェリオ君はちょっと引き気味になりながら、「いや」って言葉をつづけた。
「やっぱり豊穣の国の殿下だったんだな、って」
「あー………そっち」
「そっち、って。ほかに何があるんだよ」
「や……、ないです。ないです。全然ないです」
ぶんぶん首を振った。
そしたらチェリオ君に変な奴って笑われた。
……ずっとずっと、ちくちくちくちく、視線が刺さってる。
ほんと。
俺、なんでクリスのこと怒らせてるの?
全く身に覚えないんだけど!!
*****
「んー……、お城に戻ってくるのは、お茶の時間あたり……。すぐに何かあるとは思えないけど、十中八九、二人一緒に帰ってくるわよね。夕餉までも時間はあるけど……、もしかしたら人払いされるかしら。だとしたら、寝室には軽いお菓子と果実水は準備しておかないとアキラさんが大変なことになるし……、ああ、入浴準備も必要かしら。マシロちゃんを一人にするわけにいかないから、昼間からするなら、私はいけないし…それだけの準備はしておかないとね。それから……」
「うぅ…、りーあ、うしゃぃ」
「あ、ごめんね?さ、お昼寝しようね」
「う」
「(ベッドに夜着は用意しておきましょう。白いのでいいかしら)」
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