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自由の国『リーデンベルグ』
20 『とにかく格好いい!』 ◆チェリオ
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聴講生だという彼は同年代にも関わらず、華奢で頼りない体格をしていた。
学院に聴講生として入ることが認められたということは、彼自身も魔法師であることには変わりない。
しかし、協調性がないだとか個性が強いとか言われることが多い魔法師の中で、彼はそんな壁みたいなものを作らず、静かに笑んで教室内を見まわしていた。
体格は華奢だが女性のように可愛らしい顔をしているわけじゃない。男らしいかと聞かれれば、それには首を横に振るが。
銀髪は少し長く、ぎりぎり肩にかかるくらいだが、すっきりとまとめられている。
思わず声をかけたのは単純な興味と、一応侯爵の爵位を持つ家の長男として、聴講生――――学院が招いた学生に対応する必要があるだろうと判断したからだ。……興味の方が強かったことは、そうなのだが。
この時期というのも気になる。
先日、豊穣の国から学院や研究所の視察のために第二王子一行がこの国を訪れている。そんな中での聴講生。もしかしたらかかわりがあるのかもしれない。
昼食時間、聴講生――――アキラを食堂へ案内した。
俺だけじゃなく、他の奴らも話したがそうにしていたが、俺が近くにいるからか遠慮して近づいてこない。
アキラはキョロキョロと周りを見ては楽しそうに目を輝かせる。
……よくよく見たら瞳の色は黒色だった。黒は珍しい。魔力が高い者に現れる色だが、俺は黒を身に纏う魔法師に会ったことがない。
そういえば、豊穣の国の王子殿下の伴侶が黒髪だったと、父が言っていた気がする。あまり興味がなかったが、もっと詳しく聞いておけばよかった。
昼食時の食堂は特に混む。
学生ばかりでなく教師たちも利用するからだ。だが、席が無くなるほどの混みあいはない。
今日は少し雰囲気が違った。
どこか緊張感が漂っていて、表情を硬くしている学生も多い。
アキラに説明をし、トレイを置いたところで、謎の緊張感の正体に気づいた。
食堂奥側の窓際の席に、グレゴリオ殿下が座っていた。グレゴリオ殿下は王族で唯一の魔法師だ。この学院に通う生徒なら、殿下のことを知らない者はいないから、当然の反応ともいえる。
それよりも、俺は殿下と共にいるもう一人の青年の方がきになった。
銀髪に、所々青色を有している青年。穏やかに微笑み、食事……というより、茶と、殿下との会話を楽しんでいるようにも見える。
その青年が、ちらりとこちらを見たような気がした。
彼らに気づいてから、アキラの様子もどこかおかしい。やはり何か関係があるのだろうか。
「……もしかして、豊穣の国から来ている第二王子殿下かな」
俺がそういうと、アキラは更に動揺した様子で、「そう、なの?」と言ってきた。……声が少し震えてる。え、ほんとになに。
ベルエルテ伯爵の遠縁にあたるロレッロ子爵家の子息……のはずだけど、アキラは伯爵から聞いていないんだろうか。今回の豊穣の国からの視察にはベルエルテ伯爵も関係があるから、聞いてると思ったけれど。
なんでもかんでも聞き出すのは悪いと思い、動揺し続けるアキラには触れないことにした。
席につくと、殿下方にアキラは背を向ける形になり、目に見えてほっとしてる。逆に俺は――――豊穣の国の殿下と思しき方から、謎の睨みを受けた気がした。それは一瞬で、気のせいだったかもしれないが。
そのうち、殿下方は奥の扉から食堂を出た。食堂内にあった緊張感が、ようやく晴れ晴れしいものになる。
アキラは彼らがいなくなったことを知ると、ほっとしたようだ。けれど、どこか寂しそうな目で奥を見ていた。
午後の授業が始まる前に、学院内を案内した。
アキラは特に魔導具に興味があるらしく、他のことよりも深く聞きたがった。
これには俺も嬉しくなった。なんせ俺は魔導具研究を専攻しているからな。自分が好きな比較的人気のない分野に対して興味があると言ってもらえるのは、とても気分がいい。
今日半日のアキラの様子をからかったときの拗ねた様子が可愛らしく見えて、弟にやるように頭をなでようとしてしまった。けれど、俺の手はアキラに触れることなく、行き場を失くした。
アキラは一瞬表情をこわばらせ、俺の手から逃げた。
気まずくなるだろうか…とも思ったが、俺が普通に声をかけ笑えば、アキラも態度を変えることなく笑い返してくれた。
そんなささやかな出来事があったが、俺たちは連れ立って訓練場へ出る。
これから行われるのは魔法実技だ。
必要な者は、杖も用意している。
「アキラ、杖は使う?」
「使わない。チェリオ君は?」
「俺もいらない」
そっかそっかと一人頷くアキラ。
それから何か思い至ったのか、比較的大きな目を更に大きくして俺を見上げてきた。
「でもさ、杖を使うって格好良くない!?」
「は?」
「こう……いかにも魔法師!って感じでさ、様になるっていうか似合うっていうか、とにかく格好いいと思うんだ!」
そんなことを無邪気に言うアキラ。
その声は訓練場にいるほかの学生たちにもしっかりと聞こえていて、杖を持っていた学生たちが驚いたようにアキラを見ていた。
「…杖を使うのは自分の魔力をうまく引き出せない、操作ができないからだと言われる」
「そう?まあ、そりゃさ、杖とかなくても全力で魔法が使えるならそれに越したことはないだろうけど、それと格好良さは違うし、俺が知ってる手練れな魔法師の人だって、時と場合によるって感じで、必要があれば剣を杖代わりに使ったりしてるよ?」
「剣……」
「その人は剣も魔法もできる人だからだけどさ。でも、疲れたり集中できないときに杖みたいな補助できるものがあるだけで、効率性は変わってくると思うし、そもそも、使い慣れなきゃいざってときに補助にもならないし。それに、杖を振るだけで魔法師!って感じでやっぱり格好いい。いや、剣も格好いいんだけどさ!」
……アキラが興奮してる。
俺、どうしたらいいんだ。
他の学生たちは唖然としてアキラの話を聞いていた。…まあ、そりゃ、そうだろう。そんなこと、どの教師だって言ったことがないんだから。
おそらく、アキラは実戦を知っている。それが対人なのか対魔物なのかはわからないが、魔法師たちが戦う場面を実際にその目で見ているんだろう。
「スティックみたいなやつもいいけどさ、こう…使うときだけ伸びる杖もいいよね。使うときにさ、こう、シュンって振ったら伸びる感じのとか。あ、あと、万が一落としても、すぐに手元に戻ってくるとか。あー…でも、そこまで行くと魔導具?」
「あー……、まあ、そう、かもな?」
「そっかぁ。でも一個くらい持ちたいかも。あ、でも、魔導具だと魔法を使う媒体としては不向きになる…?ううん??」
……アキラの頭の中でいろいろな考えがぐるぐるしてるようだった。
なんか、すごいな、こいつ。
*****
「マシロちゃん、お昼寝しましょうか」
「おひるね」
「お昼ご飯もしっかり食べたし、寝る子は育つ、っていうのよ。ミナもお昼ご飯のあとは少しお昼寝してるの」
「みなといっしょ?」
「一緒」
「おひるねする!」
「ふふ。いい子」
「ましろいいこ」
「いい子、とってもいい子」
「…およしたら、あきぱぱとくりすぱぱ、いる?」
「うーん……帰ってくるのはもう少し後かなぁ」
「……よるのごはん、いっしょ?」
「それは一緒にできるから大丈夫」
「う」
「さ、じゃあ、ちょっとだけおやすみなさい」
「おやすぃ、さい!」
「(ふぁい、まじ可愛い、可愛すぎる、もう天使!アキラさん似の天使!!ミナと一緒に並んで寝てたら昇天する……!!)」
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