魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
192 / 216
自由の国『リーデンベルグ』

19 過剰反応……かもしれないけど

しおりを挟む




 なんで。意味がわからない。
 俺が呆然とクリスを見ていたら、クリスはちらりと俺を見た。
 その瞬間に微笑まれたけれど、俺はどう反応したらいいというんだ。
 大体、来るなんて聞いてない。

「殿下と一緒にいる方……」

 チェリオ君の言葉にどきどきする。
 別に、クリスの存在が秘密ってことはない。
 あれだけ盛大な茶会に夜会をしているんだから、エルスターから王子が訪れてきていることを貴族たちは知っているだろう。別に緘口令が敷かれているわけでもないから、出席した貴族たちは家族に俺たちのことを話したりもしているだろうし。

「もしかして、豊穣の国から来ている第二王子殿下かな」
「そう、なの?」

 …ほら、やっぱり知られてる。
 チェリオ君は貴族だから、そりゃ知ってるよね。容貌を知らなくても、そういう推察には行きつくよね。

「アキラは」

 ……そういえば、クリスはともかくとして、俺の名前まで伝わってるんだろうか。だとしたら、アキラって名前もアウトだっただろうか。
 いや、俺のことを知られても困ることはない……けど、今更遠巻きにされるのもちょっと嫌だし、どうせなら気兼ねない学生生活を送りたい。だから、今ここで身バレするのは困る……、うん、やっぱり困る。

「豊穣の国から第二王子殿下が伴侶を伴って視察に来ていること、ベルエルテ伯爵から聞いてないのか?」
「へ」
「あー……、そこまで詳しいことは聞かされてないのかな」
「あ、うんうん、なんか、そんなことはちらっと聞いたような、気も、しなくもないような、気が、する」

 動揺しすぎた俺の言葉はかなりおかしい。

「なんだそれ」

 って、チェリオ君は笑ってくれた。

「まあいいか。ほら、料理できたみたいだ」
「あ、うん」

 改めてトレイを受け取って、チェリオ君の後ろについて歩き出す。
 ちらっとクリスを伺い見たら、ばっちりとまた目が合った。
 …俺のところに来ないのか、っていう無言の圧力を感じるけれど、一時帰国してる子爵家の息子が、突然殿下たちと合流なんてしたらとんでもないことになるのは、俺にだって理解できているんだよ。無理だからね、無理。
 びしびしと視線を感じつつ、チェリオ君について席につけば、クリスには背を向ける形になった。
 はああああああ。
 視線が痛い。




 針のむしろのようなそうでもないような昼食時間を過ごし、午後の授業が始まる前にチェリオ君は俺に学院内を案内してくれた。
 食堂を出るときには、すでにクリスたちの姿はなくて、生徒たちが出入りする扉ではない出入口を使って退室したようだ。ちょっとほっとした。
 学院内には食堂のほかに、図書室や美術室みたいなところもあった。
 それから、魔導具室。
 ここを卒業してからの進路は主に魔法師団ではあるけど、魔法研究所も就職先の一つになっているから、研究所就職を嫌厭されないための対策の一つで、学院では全ての生徒が必ず履修する科目になっているらしい。新しい魔導具を作る研究者を確保するための手段ぽい。
 でもそれも大事なことだよな。
 そもそも、魔導具ってどうやって作るんだろう。実際に作れる人がいなければ、教えることもできない。

「アキラは魔導具に興味あるんだ?」
「あー、うん。興味、ある。チェリオ君は?」
「俺は、魔導具技師希望だから」
「そうなの?」
「そう。だから、研究所に入る」
「すごいね」

 心からの感嘆を送れば、チェリオ君は嬉しそうに笑った。

「魔法師になるなら、魔法師団、それか魔法騎士団所属が花形なんだけどな」
「じゃあどうして」
「使えない魔法を魔導具に込めるなんて、選ばれた人間じゃないとできないと思わないか?」

 チェリオ君は悪戯をする子供のように笑った。
 選ばれた人間――――なんて言い方してるけど、傲慢さは何も感じない。そこにあるのは自分が進みたい道をしっかりと見据えた、ゆるぎない決意だ。

「チェリオ君ならできる気がする」
「おう。何か作ってほしいものがあったら遠慮なく言えよ。なんか、アキラにはなんでも作ってやりたくなる」
「はは。それは嬉しいな」
「差しあたって」
「ん?」
「自動的に綺麗な字が書ける羽根ペンとか、どう?」
「~~~~~!!っと、馬鹿にしてさぁ…!!!!」
「あの字はかなり衝撃的だったから」
「字が汚いのは仕方ないの!!あーもー、ほんっと!!俺、もう外いくから!!」

 ずんずんと廊下を進む。

「あ、アキラ」
「なにっ」
「そっちじゃない、こっち」

 ……って、チェリオ君は笑いながら俺が進もうとしていたのと反対方向を指さした。

「………そっち行こうと思ってたしっ」
「そうか?」
「そう!」
「……そうなんだ」

 くくく…っと笑い続ける。

「アキラって可愛いな」

 俺が通りすぎようとした瞬間、チェリオ君の手が伸びてきて、俺は反射的にその手から逃げた。

「…………っ」
「頭、なでようとしただけ。ごめん、別に叩こうとしたわけじゃなくて」
「……わかってる。ごめん、俺が過剰反応しただけ」

 チェリオ君は宙で止まった手を握ったり開いたりしてから、降ろした。少しだけ、苦笑してる。
 殴られるとか、思ったわけじゃない。
 けど、心より体の反応は素直だった。
 頭をなでたり、髪を触ったり。
 俺にとってそれは特別なこと。
 特別な人にしか赦していないこと。

「外いこうか」
「うん」

 チェリオ君は変わらない笑顔で歩き出した。








*****
「りーあ、おひるごはん、くりすぱぱ、いっしょ?」
「んー、お昼は無理かなぁ。くりすぱぱは今頃、学校であきぱぱを見ながらお昼ご飯にしてると思うから」
「みる?」
「うん、見るだけ。まあ、それで、他の男子生徒と仲良くごはん食べてるあきぱぱを見ながら、悔しさと嫉妬で歯噛みしてるんじゃないかなぁ…」
「うー……、ましろ、わかんない……」
「くりすぱぱは、あきぱぱを、大好きってことです」
「う!それ、ましろ、わかる!」
「ね」
「ね」


アキの頭をなで(れ)る人→クリス(旦那枠)、ギルマス(保護者枠)、メリダさん(祖母枠)。ギルベルト(義兄枠)は……なでたかな??なでた気がする。

しおりを挟む
感想 286

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...