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自由の国『リーデンベルグ』
19 過剰反応……かもしれないけど
しおりを挟むなんで。意味がわからない。
俺が呆然とクリスを見ていたら、クリスはちらりと俺を見た。
その瞬間に微笑まれたけれど、俺はどう反応したらいいというんだ。
大体、来るなんて聞いてない。
「殿下と一緒にいる方……」
チェリオ君の言葉にどきどきする。
別に、クリスの存在が秘密ってことはない。
あれだけ盛大な茶会に夜会をしているんだから、エルスターから王子が訪れてきていることを貴族たちは知っているだろう。別に緘口令が敷かれているわけでもないから、出席した貴族たちは家族に俺たちのことを話したりもしているだろうし。
「もしかして、豊穣の国から来ている第二王子殿下かな」
「そう、なの?」
…ほら、やっぱり知られてる。
チェリオ君は貴族だから、そりゃ知ってるよね。容貌を知らなくても、そういう推察には行きつくよね。
「アキラは」
……そういえば、クリスはともかくとして、俺の名前まで伝わってるんだろうか。だとしたら、アキラって名前もアウトだっただろうか。
いや、俺のことを知られても困ることはない……けど、今更遠巻きにされるのもちょっと嫌だし、どうせなら気兼ねない学生生活を送りたい。だから、今ここで身バレするのは困る……、うん、やっぱり困る。
「豊穣の国から第二王子殿下が伴侶を伴って視察に来ていること、ベルエルテ伯爵から聞いてないのか?」
「へ」
「あー……、そこまで詳しいことは聞かされてないのかな」
「あ、うんうん、なんか、そんなことはちらっと聞いたような、気も、しなくもないような、気が、する」
動揺しすぎた俺の言葉はかなりおかしい。
「なんだそれ」
って、チェリオ君は笑ってくれた。
「まあいいか。ほら、料理できたみたいだ」
「あ、うん」
改めてトレイを受け取って、チェリオ君の後ろについて歩き出す。
ちらっとクリスを伺い見たら、ばっちりとまた目が合った。
…俺のところに来ないのか、っていう無言の圧力を感じるけれど、一時帰国してる子爵家の息子が、突然殿下たちと合流なんてしたらとんでもないことになるのは、俺にだって理解できているんだよ。無理だからね、無理。
びしびしと視線を感じつつ、チェリオ君について席につけば、クリスには背を向ける形になった。
はああああああ。
視線が痛い。
針のむしろのようなそうでもないような昼食時間を過ごし、午後の授業が始まる前にチェリオ君は俺に学院内を案内してくれた。
食堂を出るときには、すでにクリスたちの姿はなくて、生徒たちが出入りする扉ではない出入口を使って退室したようだ。ちょっとほっとした。
学院内には食堂のほかに、図書室や美術室みたいなところもあった。
それから、魔導具室。
ここを卒業してからの進路は主に魔法師団ではあるけど、魔法研究所も就職先の一つになっているから、研究所就職を嫌厭されないための対策の一つで、学院では全ての生徒が必ず履修する科目になっているらしい。新しい魔導具を作る研究者を確保するための手段ぽい。
でもそれも大事なことだよな。
そもそも、魔導具ってどうやって作るんだろう。実際に作れる人がいなければ、教えることもできない。
「アキラは魔導具に興味あるんだ?」
「あー、うん。興味、ある。チェリオ君は?」
「俺は、魔導具技師希望だから」
「そうなの?」
「そう。だから、研究所に入る」
「すごいね」
心からの感嘆を送れば、チェリオ君は嬉しそうに笑った。
「魔法師になるなら、魔法師団、それか魔法騎士団所属が花形なんだけどな」
「じゃあどうして」
「使えない魔法を魔導具に込めるなんて、選ばれた人間じゃないとできないと思わないか?」
チェリオ君は悪戯をする子供のように笑った。
選ばれた人間――――なんて言い方してるけど、傲慢さは何も感じない。そこにあるのは自分が進みたい道をしっかりと見据えた、ゆるぎない決意だ。
「チェリオ君ならできる気がする」
「おう。何か作ってほしいものがあったら遠慮なく言えよ。なんか、アキラにはなんでも作ってやりたくなる」
「はは。それは嬉しいな」
「差しあたって」
「ん?」
「自動的に綺麗な字が書ける羽根ペンとか、どう?」
「~~~~~!!っと、馬鹿にしてさぁ…!!!!」
「あの字はかなり衝撃的だったから」
「字が汚いのは仕方ないの!!あーもー、ほんっと!!俺、もう外いくから!!」
ずんずんと廊下を進む。
「あ、アキラ」
「なにっ」
「そっちじゃない、こっち」
……って、チェリオ君は笑いながら俺が進もうとしていたのと反対方向を指さした。
「………そっち行こうと思ってたしっ」
「そうか?」
「そう!」
「……そうなんだ」
くくく…っと笑い続ける。
「アキラって可愛いな」
俺が通りすぎようとした瞬間、チェリオ君の手が伸びてきて、俺は反射的にその手から逃げた。
「…………っ」
「頭、なでようとしただけ。ごめん、別に叩こうとしたわけじゃなくて」
「……わかってる。ごめん、俺が過剰反応しただけ」
チェリオ君は宙で止まった手を握ったり開いたりしてから、降ろした。少しだけ、苦笑してる。
殴られるとか、思ったわけじゃない。
けど、心より体の反応は素直だった。
頭をなでたり、髪を触ったり。
俺にとってそれは特別なこと。
特別な人にしか赦していないこと。
「外いこうか」
「うん」
チェリオ君は変わらない笑顔で歩き出した。
*****
「りーあ、おひるごはん、くりすぱぱ、いっしょ?」
「んー、お昼は無理かなぁ。くりすぱぱは今頃、学校であきぱぱを見ながらお昼ご飯にしてると思うから」
「みる?」
「うん、見るだけ。まあ、それで、他の男子生徒と仲良くごはん食べてるあきぱぱを見ながら、悔しさと嫉妬で歯噛みしてるんじゃないかなぁ…」
「うー……、ましろ、わかんない……」
「くりすぱぱは、あきぱぱを、大好きってことです」
「う!それ、ましろ、わかる!」
「ね」
「ね」
アキの頭をなで(れ)る人→クリス(旦那枠)、ギルマス(保護者枠)、メリダさん(祖母枠)。ギルベルト(義兄枠)は……なでたかな??なでた気がする。
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