魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

18 『あの方』が大好きな聴講生

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 わあ。
 学校だ。
 一年ぶりの学校だ。

 なんて浮かれ気分はまったくない。
 なんだろうね。
 改めて思ったけど、こっちの世界の人って発育がよろしいよね。
 俺と同年代のハズなのに、二、三歳は歳上な感じがする。
 これならクリスが最初に俺のこと子供だと思っても仕方ない。

 胡散臭い(と、俺自身が思ってる)聴講生の俺に最初に声をかけてくれたチェリオ君。家名があるってことは貴族の子息ってことだけど、どのくらいの身分なのかは全くわからん。
 大体にして、エルスターの貴族の顔も名前も爵位もわかっていない俺だから、他国の貴族に明るいわけもなく、後でグレゴリオ殿下に確認しておこう……って思うことしかできない。

「教科書はある?」
「あ、はい」

 必要な教材は全部揃えてもらった。
 ちなみに制服はブレザーに近いので驚いた。魔法学院だからローブ系かと思ったけれど、それだと動きにくいので男女ともに基本はズボンスタイルなんだそうだ。
 ちなみに、スカートタイプもある。学院内の式典などでは、女生徒がスカートタイプの制服を着用することがあるんだそう。

「羽根ペンは?」
「あ、それも用意しました」

 魔法学院があって研究所があるからか、リーデンベルグではいろんな魔導具が使われている。
 チェリオ君が気にした羽根ペンも通常のものではなく、魔力を込めるとインクになる魔導具。魔力制御の訓練にもなるし丁度いい。

「……そんな敬語、いらないから」
「あ、はい、あー……、うん。ありがとう」

 よし。笑っとけ、俺。
 チェリオ君は小さくため息をつくと、頬杖をついて前を見た。
 ぶっきらぼうに見えるけど案外面倒見のいい人だ。

 俺が知る普通の学校とは違って、こちらにはノートはない。そのかわり、全員に支給される教科書に必要なことは書き込んでいく。
 あとは、定期的に行われる試験。……これは、どの世界の学校でも同じらしい。
 そして、予告なしの不意打ち小試験なるものも存在し。

「では魔法史に関する試験を行います」

 と、突然言われたのは二つ目の授業の時だった。

「うっそ」

 思わず呟いたら隣のチェリオ君に笑われた。
 魔法史は、まんま魔法の歴史。うん、ごめん、そんなのしらん。
 試験の用紙は普通の紙だった。
 大魔法を発現させた偉人とか、魔法結界にて魔物の侵攻を食い止めた人とか、わかんないから全部ギルマスの名前を書いた。あの人はある意味偉人だ。
 どういう区切りでの小テストなのかはわからなかったけれど、かつて世界を巻き込んだ魔法戦争はなんと呼ばれているか、とか。
 問題文を読みながら、この世界にはこんなことも起きてたんだ……ってわかった。
 なるほどなるほど……。
 今度もらった教科書を読んでみよう。……勉強嫌いだけど。
 とりあえず人名のところにギルマスの名前を書き入れてると、隣から噴き出す音がした。
 確認するまでもなく、チェリオ君が笑ったものである。

「……あ、んた、その字……っ、きたな……っ、いや、個性的……っっ」
「うっさいなぁ。放っといて」

 解答欄に合わせて小さく書くことだって結構な神経使ってるんだからさっ。
 テスト中にも関わらず笑い始めたチェリオ君は、案の定教師から厳重注意を言い渡されてた。ザマーミロ。

 小テストなので、その時間のうちに答え合わせが行われて、教師が点数を確認してから改めて返されたのだけど、

「気持ちはわかるよ。確かにあの方は魔法師として数多の功績を残された方だし、君の親戚だから誇らしく思う気持ちはわかるけど、でも歴史は歴史としてしっかり覚えておこうね?」

 と、苦笑交じりのお説教をもらった。
 俺が『あの方』の親戚の聴講生ということは担任教師以外の教師たちにも伝わっていることだからそういう反応になったんだろうけど、なんかごめんなさい。
 俺の初の魔法史の小テストは、零点という日本でも取ったことのない点数で、クラスメートたちからの温かな笑い声と共に華々しく終わった。
 この出来事で、俺はギルマス親戚のことが大好きな聴講生として認識された。
 ……まあ、邪険にされるよりはいいんだけど。いいんだけどさぁ。
 クリスには言わないでおこうと、ちょっとだけ思った。






 午前中に授業は三つ。
 昼食時間を挟んで、午後には二つ。
 日によって、午後は二つ分を使っての実技授業が入る。
 今日はその『日によって』の日なので、昼食が終わったらグラウンドにむかう。

「うわ、すごい」
「ここでトレイもらって、メニュー表から好きなの頼んで。減らしたり増やしたりもできたりするから」
「うん」

 チェリオ君に連れられて、昼食時間に中央食堂に来た。
 学生は無料で使える食堂だから、平民の子たちにも優しい施設だ。
 そもそも魔法師の数が少ないから学院生の人数もそれほど多くないから、食堂は教師陣も自由に使えるんだそうだ。

「……あれ。珍しい」
「なに?」

 注文を終えたチェリオ君が食堂内を見渡していたとき、奥の方を見て止まった。

「殿下がいらっしゃってる」
「え」

 言われて、俺もそちらを見た。
 食堂奥の窓際。
 そこに、にこやかに笑うグレゴリオ殿下と、対外用の笑顔を顔に貼り付けたクリスがいた。







*****
「りーあ、あきぱぱと、くりすぱぱ、なぃ?」
「お二人とも仕事だからね。マシロちゃんは私とお庭でも散歩しようか」
「う!おにわ!」
「じゃ、行きましょうか」
「う!」
「(…殿下、学院へに行く……って、絶対アキラさんのこと心配なだけよね。……アキラさんに言い寄る生徒がいたりなんかしたら……、うっかり肩を組んだりしたら、手を繋いでたりしたら……、あああ、きっと今夜は寝室に悲鳴が上がるわね……!しっかりお世話しないと……!!)」
「……りーあ、ぉかお、こぁい」
「あら。ごめんねマシロちゃん。なんでもないからいきましょうね」
「あーぃ!」



リアさんの腐女子センサー発動中……。
マシロ、本人いないとこではしっかり「くりす」呼び(笑)
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