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自由の国『リーデンベルグ』

17 突然の学園ものが始まります。

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「ベルエルテ伯爵家の遠縁にあたるロレッロ子爵家のご令息です。普段は他国で学ばれておりますが、今回一時帰国に併せ、聴講生として数日間我が学院に籍を置くこととなりました。皆さん、失礼のないよう接してください」

 黒板の前で教室にいる二十人ほどの学院生に紹介されてる俺。
 傍らに立って俺を紹介している教師は、緊張した表情が解けてない。

「アキラ・ロレッロです。短い期間ですがよろしくお願いします」

 ぺこんと頭を下げると、拍手された。うん。あれだ。拍手はよくわからんけど、転校生になった気分だ。
 ……しっかし。
 ロレッロ、って。
 俺、今日中に舌嚙むと思う。




________________

 サロンで行われたグレゴリオ殿下とギルマスの弟ルドリヒ伯爵さんとの話し合い。
 ギルマス争奪戦で雰囲気悪くなるかと思えば、そんなことはなかった。

「兄から私の方に直接手紙が来ておりましたのでご要件については存じ上げております」

 俺たちがギルマスから託された手紙は王族あてだったから、すでにグレゴリオ殿下の元に渡されているし読まれている。
 それとは別に家族に手紙を送ってくれてたってことなんだけど、だったら一言ほしかった。「俺の弟が研究所の所長だから」って。その一言だけで心の準備は整ったのに。
 ……面白がってるギルマスの顔が浮かぶ。

「提案なのですが」

 改まったルドリヒさんが、俺に和やかな表情で『提案』を始めた。

「視察、ではなく、ご入学されてはどうでしょう」
「え」
「ただ見て回るよりも、実際に授業を受け、学んでいる生徒たちからも話を聞き、アキラ様ご自身が体験されたほうが、具体的な構想に繋がるのではないでしょうか」
「ああ。確かにそれは妙案だね。入学とまで言わずとも、聴講生として数日間、他の生徒たちと共に授業を受けてみるのが一番よいかもしれません」

 ……って。
 思っても見なかった提案だった。

「学院内部について部外者にそこまで見せるのは問題になりませんか」

 クリスの声は少し刺々しい。これは、クリス的には『反対』ってことなんだろうな。

「学院は機密組織ではありませんから問題ありませんよ、クリストフ殿下。魔法を極めたいと願う者たち全てにその門は開かれるべきです」
「もとより、こちらの学院を基礎として、貴国で新しい学院ができれば、それは我が国にとってとても栄誉あることと考えます。それに、我が兄は無駄なことを嫌うたちですので、その兄が学院設立に助言をし協力していると言うならば、それは夢ではなく、実現可能なものだということです」

 そうなんだろうか。
 血の繋がった弟さんが言うんだから、そうなんだとは思うけど、魔法師団についても学院についても、これまでギルマスから『駄目だ』と言われたことがない。いつもいつも、俺の考えを後押ししてくれている。
 ……じゃあ、もしかして、俺が自分で思ってるよりもずっと、ギルマスから認めてもらえてるってことなんだろうか。
 なんだかそれは、とても嬉しい。

「もちろん、学院だけではなく、研究所の方にも是非ともおいでいただきたい。高い魔力と洗練された魔力制御と伺っております。そのお力があれば、我らの研究もまた一段高みに登れること間違いないのです……!」

 紳士……かと思ったら、ある意味俺と同類な人だった。オタク、っていう点で。間違いない。弟さんは魔法オタクだ。絶対だ。魔法に対する情熱をひしひしと感じる。
 これにはクリスもグレゴリオ殿下も苦笑気味。

「研究所の視察ももちろん予定に入ってますが、……どうでしょう。アキラ殿、魔法学院に聴講生として数日間通われては」

 俺としては、うん、そうだね。ちょっと、興味がある。

「クリス」

 呼んだらそれだけでクリスはわかってくれた。
 とても仕方なさそうに笑って、俺の頭を撫でながら頷いてくれる。

「行きたいんだろ?」
「うん」
「……なら、わかった。もう反対はしない。だが、危険なことには絶対に頭を突っ込むな」
「うん、わかってる」

 こうして、俺の一時的な学院生活が決まった。
 さすがにまんまの名前じゃ色々バレるしみんなが萎縮するとのことで、弟さんの遠縁の子爵の名前を借りることにしたり、学院長に事の経緯を説明したり、担任の教師にだけは俺の素性を明かしたり、黒髪は目立つから銀髪(クリスと一緒!)に染めたり、制服なるものを取り寄せたりと、準備は色々あったけど。
 それをこの日で全て終わらせた。
 目が回る忙しさだったし、もうあとには引けない。
 ……せめて、「こいつ駄目だ」と思われないよう、授業をちゃんと受けよう……と、心に誓うのであった。
________________




 そんなこんなでその翌日なわけだ。

「では、でん…………ロレッロ君は、空いてる席におつきください」
「はい」

 ……担任の先生よ。負担かけて申し訳ない。でも俺のことを『殿下』と呼ばないでくれてありがとう。
 ざっくり見た教室内は、二人がけの少し長い机が並んでいる。
 最年長クラスということで、ここにいる生徒たちは十七歳から十八歳。
 リーデンベルグの魔法学院は、十二歳から十八歳までの六年制で、入学式時試験はなし、魔水晶があり魔力が高ければ誰でも入学が可能。だから、貴族ばかりじゃなく、当然平民の学生もいるけれど、見分けはつかない。

「ここどうぞ」

 空いてる席はちらほらある。
 二人がけを一人で使ってる生徒が結構いるから。
 さてどこに座ろうか…ってきょろきょろしてたら、窓際の空いてる席を勧めてくれた生徒がいた。
 ならばその席に落ち着こう……と、窓際まで移動した。

「ありがとう。使わせてもらうね」
「どういたしまして。オレはチェリオ・ブリアーニだ。よろしく」
「アキラ・える――――ろ、れっろ。よろしく」

 ……初っ端から不安しかない。


 







*****
がんばれアキラ……(笑)
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