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自由の国『リーデンベルグ』

12 おみあげ!

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 マシロの可愛い攻撃にやられて、うっかり挨拶が遅くなった。
 てなわけで、仕切り直し。

「改めまして。殿下の招集により本日登城させていただきました。至らぬところもありますが、ご期待に添えるよう精進いたします」
「……無理なら断ってもらってよかったんだが」
「殿下直々の要請を断るなんて恐れ多いです。私にできること以上に頑張りますわ」
「いや、必要最低限でいい」
「まあ…殿下。私の負担を気遣ってのその発言…!!その言葉を励みに精一杯の精進を致しますわ…!!」
「……」

 ……クリスの舌うちが聞こえてきた。
 相変わらずすごいね、リアさん。
 よくわからないけれど、貴族的けじめが必要らしい挨拶を終えると、いつものリアさん笑顔になって俺に向き合った。

「お久しぶり……でも、ないわね?」
「うん。半月……や、十日ぶりくらい?」
「それくらいね」

 メリダさんに促されて、リアさんは俺の向いのソファに腰を下ろした。
 クリスは色々諦めて執務机に戻る。

「書状で事情は理解したのだけど」
「うん」
はリーデンベルグから帰国するまで、で、いいのかしら」
「うん。ごめんね、領地のこともあるのに」

 場合によっては一か月くらい留守になるからなぁ。お父さん伯爵が駄目な人とは思ってないけど、運営に力を入れてるのはリアさんの方だから、心配じゃないだろうか。
 俺の心配をよそに、リアさんはくすっと笑った。

「アキラさん、私は所詮十四歳の小娘だから、父がいれば領地は問題ないわ。それに、お願いは色々してきたし」

 ふふ……って笑う姿は『所詮十四歳の小娘』に見えないよぉ……リアさん……。

「ミナは元気だし。アキラさんのあのお花も、追加分をいただいたし。信頼できる乳母に任せているから大丈夫」
「そっか」
「少し寂しがるかもしれないけど、帰ったらうんと甘やかすからいいのよ」

 よかった。
 離れて不安にならないくらいに、ミナちゃんは落ち着いてるってことだ。

「それに、ちゃんと画材も持ってきたから。……この任務中に仕上げられたらすぐに渡せるわ」
「ありがとうリアさん」

 先月エーデル領に行ったときに依頼したのは、日本の父さんと母さんに送るために、俺たち家族の絵を描いてもらうこと。
 写真がないこの世界で、俺たちの姿を残すためには絵を描いてもらう必要があって。
 でも、正式な画家さんに頼むと油絵的な肖像画になるし紙じゃなくて画板…キャンバス?になる。それに、使用理由を聞かれても困る。だから、事情を知るリアさんに依頼した。
 前に描いてもらった結婚式の絵は、本当にすごく優しい色使いで綺麗だった。……美化されて描かれてるわけじゃなくて、ね。クリスはクリスの格好良さがちゃんと出てて、送るのがちょっと悔しいというか勿体ないというか、そんな気持ちになるくらい、すごくよく描かれていた。
 だから、今回も依頼しちゃったんだよね。俺が一番信頼できる絵師だから。

「りーあ、ここ、いっしょ?」
「うん。リアさん、しばらくお城にいるよ。よかったね、マシロ」
「う!ましろ、うれちの」

 きゃあと喜んで両手で頬を抑える仕草……、可愛すぎるからやめて。悶えそう。

「出発までの間にメリダさまから色々教えていただきますね。色々」
「ええ。よろしくお願いしますね、セシリア様」
「はい」

 うん、頼もしい感じだし、メリダさんも嬉しそうだ。

「…セシリア、お前は寝室には入るな」

 けど、クリスだけは地の底から響いてくるような低い声で唸った。

「お言葉ですが、侍女として仕事をするためには、寝室に入らずにというのは無理でございます。諦めてくださいな、殿下」

 勝ち誇ったかのようなリアさんの声音。
 クリスはあからさまな溜息をついて俺を見て、……また溜息をついた。
 それ、なに。俺、何も言ってないんだけど。俺、何かした!?

「……部屋は客室を準備してある。出発まではそこを使ってくれ」
「はい」
「何か質問はあるか?」
「いいえ。――――あ、一つよろしいでしょうか、殿下」
「なんだ」
「フロレンティーナ様にはお会いできますか?出発までに一度アキラさんとのお茶会も予定したらどうかと思ったのですが」
「お茶会」
「アキラさん主催のお茶会、どうですか?」

 いいと思う。
 何回かしたお茶会は、ティーナさんが招待してくれたものだ。
 リーデンベルグに行ったらまた少しの間あえなくなるから、体調のいいときにお茶会したい。

「…兄上に確認しておこう」
「ええ。よろしくお願いいたします」

 思いつきもしなかった。
 だったら、それにむけて俺の仕事もまとめてしまわないと駄目だ。
 やる気でてきた。

「あね、あきぱぱ」
「ん?」

 ……あ。顔、崩れそう。
 もうこれ、『パパ』呼びに対する条件反射だ。

「どっか、いく?」
「あー」

 そういえばマシロにしっかり話してなかった。リアさんが来てくれたってことでマシロの同行も問題なし、話していいよね?

「あのね」
「あい」
「ちょっと遠いところまでおでかけするの」
「とい、とこ」
「そう。だからリアさんに来てもらったんだ」

 簡潔に言って、ましても俺は自分の言葉が足りなかったことに気づく。
 マシロの眉がへにょりと下がってしまったから。

「ましろ、いなぃ?」
「ああ、違う。そうじゃなくて」

 ごめんね。しっかり言葉にしなきゃ駄目だね。

「マシロも、俺たちと一緒に行くんだよ。リアさんが来てくれたから、俺たちが忙しいときはリアさんと一緒。俺たちの娘として、家族として、ほかの国に行くんだ」
「いっしょ」
「そう。だから、そんな不安そうな顔しないで」
「ばぁば、いく?」

 マシロはメリダさんを見る。
 メリダさんは少し困った顔をしながらも、笑って首を振った。

「今回はご一緒できないの。でも、セシリア様が私のかわりにマシロちゃんと一緒にいてくれますからね」
「メリダさん、遠い国まで行ったら疲れちゃうから。だから、マシロ。メリダさんにお土産買ってこよう」
「おみあげ」
「そう。行ってきました、お留守番ありがとうございました、って」
「う、あかった!おみあげ!」
「ふふ。お願いしますね」
「あーぃ」

 片手をしっかりあげてお返事するマシロ。
 ……お土産、買いに行く時間、ある、よね……?





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